023 武術大会を終えて
ようやく武術大会が終わりました。
なるべくテンポ良く書こうと心がけていますが、なかなか難しいです。
優しく見守ってくれる読者の方々に感謝です<(_ _)>
明日から、新しい話になります!
アークお兄ちゃんに優勝のお祝いを言いたくて、急いで控え用テントに入ると何故か少し震えながら体をさするお兄ちゃんがいた。
「どうしたの、お兄ちゃん。もしかして風邪? 試合が終わったらすぐに汗を拭かないと体を冷やすよ」
「ああ、ララか。いや、ちょっと急に寒気がしただけだよ。試合じゃ大して汗はかいてないよ」
お兄ちゃんは心配する私の肩に手を置き、安心させるため優しく微笑む。
優勝のお祝いを述べると、照れながら指で頬を掻き頷く。そして、椅子に腰を落とすと隣に座るよう促すが、私は無視してお兄ちゃんの膝の上に乗る。
「……ラーラが優勝を喜んでくれて、俺も嬉しいよ。けど、さっきの試合はあまり褒められたものじゃなかった。学園で学んだ魔法と磨き上げた武術を競い合う試合でルール違反ではないが、反則ギリギリの行いで勝利した。決して誇れるものでは無いよ」
「………………」
少し悲しそうな表情をしながらお兄ちゃんは私の頭に手を置き、後悔の念を口にする。
たしかに今までの竜星杯では、見なかった戦い方だった。だけど、何が良くなかったのだろうか。
お兄ちゃんと対戦したアレは一回戦で戦った同級生の兄だったと思う。
……アレは明らかに魔道具に細工をしていて、「反則ギリギリ」どころか「完全にアウト」だった。
周囲の大人たちも気づいていたが、どこからの圧力で野放しにしていたに過ぎない。そんな卑怯な相手に勝利したのだ。お兄ちゃんは何も間違っていない。
「そんなことは無いよ、お兄ちゃんは立派に戦って優勝したんだよ。みんなが批判しても――私だけはお兄ちゃんの味方だよ!」
私は顔を上げ目に涙を浮かべ叫ぶ。そのまま胸に顔を埋めて、涙を引っ込めると泣くふりをしながら、お兄ちゃんの香りを堪能する。
そして、お兄ちゃんにこんな思いをさせたアレの家――レーベル男爵家を取り潰してもらう。そうパパにお願いすると固く誓った。
◆
俺はなかなか泣き止まないラーラの頭を撫でながら、これからについて考える。
スカイの仇を取るためとはいえ、少し目立ち過ぎた。ラーラによいところを見せて、二回戦か準決勝ぐらいで負ける予定だった。
――しかし、ヤツのせいで大幅に狂ってしまった。
前世では実力を示し過ぎたために里の犠牲となり頭領や妻に裏切られた。今の家族や友人が、そんなことをする訳が無いと分かっている。
それでも死の間際に見た妻たちの冷たい目が忘れられない。やはり俺は今世では世に忍び目立たず、平穏な人生を送りたい。
決意を新たにして今後の方針を考えていると、いつのまにかラーラも泣き止んだようだ。
ラーラを抱えて膝から下ろすと頭を撫でながら、用事があるから待ってて欲しいと伝える。
俺の勘が、このまま控え用テントに長居するのは良くないと告げる。幻聴かもしれない――サラ先輩とフォルテの足音が聞こえたような気がした。
俺はもう一度妹に頭を撫でると、足早に外に出て大会本部へと駆け出した。
◆
医療用テントの中、ベッドの上で横になっていると、実行委員長のユウカが訪ねてきた。
――悩んでいる表情をしている。いつも明るいコイツにしては珍しい。
「ミザリー先輩、怪我の具合はどうですか?」
「あぁ、問題ないにゃ。サラの魔法ですっかり良くなったにゃ」
私がベッドから起き上がり軽く屈伸をして問題ないことを伝えると、ユウカは笑みを浮かべる。
けれど、すぐに真剣な表情に戻り、私が竜星杯の優勝者になったことを伝えた。
予想外の言葉にしばらく呆然とする。だが、すぐに我に返りユウカに詰め寄る。
「どういう意味だ、アークが優勝したんじゃないのか!?」
「はい、決勝戦で勝利したアーク君が優勝するはずでした。……だけど、本人から辞退したいと申し出があって」
ユウカは眉を下げ困惑しながらも、ことの顛末を話し出した。
アークは決勝戦が終わると、すぐに大会本部に訪れ、優勝を辞退したらしい。大会の精神に反する行為をした自分に優勝者としての資格はないと主張した。
加えて、マーベラスの魔道具にも不正があったと指摘して、調査してほしいと要望した。
マーベラスの不正はすぐに見つかり、竜星杯は失格となった。
だが往生際が悪いヤツは、自分が失格者なら、決勝の試合も無効であると主張して、アークの優勝も取り消せと言い出した。
もともと優勝を辞退したかったアークは、あっさりとそれを受け入れると、その場を収めて、さっさと去っていった――。
決勝に残った二人が失格になったことで、準決勝進出者の私とジンで決勝戦を行おうとしたらしい。
しかし、マーベラスとの戦いがトラウマになったジンも辞退したらしく、私の不戦勝となり、優勝が決まったとのことだ。
――あまりにもふざけた内容に怒りで、目の前が真っ赤になる。
「おい、ユウカ。大会本部はマーベラスの寝言を受け入れ、アークの優勝を取り消したのか?」
「いいえ、マーベラス先輩の戯言など誰も聞く耳を持ちません。ただ、アーク本人が頑なに優勝を辞退したいと……」
正々堂々と生きたいと言ったアイツの言葉を思い出す。
私との戦いでも自分が許せず、謝罪にきたようなヤツだ。きっと不正をしたマーベラスの行為も耐えられなかったのだろう。
だが、何より竜星杯の精神を汚した自分が、一番許せなかった――そう察した。
あまりにも不器用な生き方に苦笑する。すると、困ったようにはにかむヤツの顔が脳裏を過った。
――やはりアイツには姉さん女房が必要だ。私が傍で支え、しっかりと守ってやらなければと強く思った。
◆
――ようやく武術大会も終わった。
大会終了を宣言するラーラに父さんとアルス兄さんが涙を流しながら拍手を送っていた。
大会の最後に竜星杯の優勝者が発表されて、ミザリー先輩だと知った。小細工無しの正々堂々の勝負であれば、彼女には勝てなかった。
表彰台に立つ先輩に拍手を送りながら、順当な結果に満足する。
――武術大会では想定外に目立ってしまった。
中等部を卒業するまでの残り二年――俺は影に隠れて目立たず、ひっそりとした学園生活を過ごすと、固く決意した。
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