015 フォルテとの戦い(1)
「呪術と魔法は脳筋に」という作品も投稿していますので、読んで頂けたら嬉しいです<(_ _)>
「大丈夫ですか、マリアさん?」
アークが心配そうに見つめながら、声をかける。相変わらずの優しさに嬉しくなりつつも、表情を隠して答える。
「ごめんなさい、ちょっと考え事していて、うっかりしちゃった」
……なぜアークは、あんなに可愛いのだろうかと真剣に考えていたら、母の言葉に無邪気に答え照れる姿が目に入り、神々し過ぎて我を忘れてしまった。
……最初は、ちょっとちぐはぐしていた弟たちの仲を取り持つ心根の優しい少年としか思っていなかった。
けれど、学園に入学してから弟たち四人でよく会うようになってからは、姉のように慕ってくるアークが――可愛すぎてハマってしまった。
ジークはどこか冷めていて一定の距離を取り、あまり話したがらないし、スカイは姉というより兄として接してきて失礼だ。
確かに第1騎士団に入団して半年で、小隊長に抜擢されるほどの実力を持つ私を尊敬する気持ちはわかるのだが……。
血の繋がった弟たちよりも姉として慕ってくれるアークは本当に可愛い。
在学中は勉強や武術など分からないことがあると気軽に尋ねに来て、優しく教えてあげるとすごく嬉しそうにお礼を言ってくれる。
卒業式にはお祝いに花束を贈ってくれて、涙ながらに渡してくれたことは一生の宝だ。もちろん、貰った花束は保存魔法をかけて厳重に保管してある。
あの真っ赤なバラの香りを思い出しながら、アークを見つめていると、彼が何か思い出したように口を開いた。
「そういえば、マリアさんは第1騎士団に入団して半年ですが、怪我とか大丈夫ですか? 騎士団の花形ですが、その分、過酷な任務も多いと聞きます。気を付けてくださいね」
「ええ、大変な仕事だけど、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
――ああ、本当にアークは可愛い。
弟たちなんて討伐される犯罪組織や異教徒たちに同情して、私の心配なんて全然しないのに。
……ゆくゆくは私も、王直属の近衛騎士団に入ることになるだろう。だが、できればガロン陛下ではなく、アークを護衛する騎士になりたい!
◆
ガンブルク家との昼食を終えた俺は、少し早いと思ったが試合場の控え用のテントに向かった。
すると、フォルテとラーラが待っていた。俺は二人に近づき声をかけた。
「2人もと早いね、もう少しゆっくりでもよかったと思うけど」
「それを言うなら、お兄ちゃんもでしょ! こんなに早く来て、ちゃんとお昼は食べたの?」
妹から逆に注意されて、自然と口元が綻んでしまう。心配してくれたことに感謝しつつ答える。
「スカイたちに誘われて、そっちで食べたよ。ラーラは家族と食べたのかい?」
「ううん、家族と食べるとお父さんがちょっと面倒かなと思って……」
ラーラが少し気まずそうに返す。確かに父さんはラーラを溺愛している。きっと、妹の試合は、お抱えの絵師に記念の絵を描くように指示しているはずだ。
間違いなく一緒に食事すればラーラを褒めちぎり号泣して、かなり面倒になることは想像に難くない。
「私がラーラと一緒に食べようと誘いました。あまりラーラを責めないでください」
「全然、責めてないよ。それよりラーラを誘ってくれてありがとう、フォルテ。あまり自分の父親のことを悪く言うのはよくないけど、ラーラに過保護過ぎてね」
ラーラを擁護するフォルテにお礼を述べると、父親の悪癖を冗談めかしに話した。すると彼女は微笑みながら、とんでもないことを言った。
「ふふふ、そうですね。アイン様の親馬鹿は、宮廷でも有名です。おそらく他国にも知れ渡っていると思いますよ。この前もシュバルツ帝国の外交官にラーラの自慢を延々としてました」
……いったい父さんは王宮で何をしているのだろうか。アルス兄さんの仕事に支障が出ていないといいが。
二人と会話を楽しんでいると、あっと言う間に時間となり、放送で試合場に来るように告げられる。
俺は急いで準備を済ませると、フォルテと共に試合場に向かう。隣を歩くフォルテに視線を向けると、小さな短刀を腰に差しているだけだった。
――魔法で戦うフォルテは、あまり装備する必要はないのだろう。
試合場に上がると割れんばかりの声援に包まれる。さすがババルニア王国の王女の人気は圧倒的だった。
初等部はもちろん中高等部の男子生徒からも熱烈な応援を受けている。俺は完璧にヒール役だなと苦笑いしてしまう。
その苦笑いを余裕と受け取ったのか、フォルテの表情が険しくなる。誤解を解こうと声をかけようとしたそのとき、審判から試合開始が告げられた。
◆
アークが私に微笑みかける。普段は前髪で隠れている星空のように煌めく瞳と、美しい顔を前面に押し出してくる。
――まさか戦う前から、こんな精神攻撃をしてくるとは!
このままでは試合が始まる前に負けを宣言してしまう。そう思った私は表情を引き締めて、なんとかアークの精神攻撃に耐えていると、試合開始が宣言された。
アークの精神攻撃に、なんとか耐え切るとすぐに雷魔法を発動する。
「雷矢 (アロー)」
アークに向かって雷の矢を放つが、素早く土魔法で壁を作って防がれる。壁が崩れると同時に、二つの影が飛び出して私に迫ってきた。
一瞬、アークが二人になったかと思ったが、片方は中級の土魔法「土人形」だと分かり、私は迫り来るアークに回避不能の雷魔法を放つ。
「雷雨 (レイン)」
アークの上空に無数の落雷が発生する。
轟音と共に広範囲に降り注ぐ雷雨に、回避する場所など存在しない。これで確実にアークを捉えるはずだ。
とりあえず魔石一つは破壊しただろうと思った瞬間、落雷で砂埃が舞い上がり悪くなった視界から、突然、アークが現れた。
◆
フォルテが中級の雷魔法を発動すると、空から無数の雷が落ちてくる。逃げる余裕も凌げる場所もないと悟る。その直後、前世の頭領の言葉が脳裏を過った。
『雷が鳴る日には金属は身につけず、高い場所には行くな』
とっさに腰にあるショートソードを放り投げた。
次の瞬間、空高く舞うショートソードに雷が纏めて落ちる。焦げた臭いが満ちる試合場に唯一できた安全地帯。俺は素早くそこに飛び込んだ。
土煙が舞い視界が悪くなった試合場を、足音を消して最速で駆け抜ける。そして、フォルテの前に立つと一瞬驚くが、すぐに顔が赤くなり小さく呟いた。
「……近すぎです」
――なぜ?
戦いの最中というのに、何が近いのか分からず、一瞬動きが止まる。だが、すぐに気持ちを切り替える。
年下の少女相手に申し訳ないと思いつつ斬りかかるが、物理障壁に阻まれる。ただ、それと引き換えに彼女の腕輪の魔石にヒビが入る。
一気に勝負を決めようと追加で斬り返しを放つが、短刀で受け止められ防がれると鍔迫り合いになる。
膨大な魔力を使い、強力な強化魔法を使い押し返すフォルテ。一方、なるべく魔力を消費せずに最低限の強化で受ける俺――。
力が拮抗し互いの距離が近くなり、額同士がぶつかりそうになると、突然、フォルテが力を抜いた。
押すべき対象物が無くなった俺は、つんのめり堪らずたたらを踏む。その隙を突き、フォルテが至近距離から魔法を放つ。
「放電 (スパーク)」
フォルテの手から強烈な電気が流れて俺を襲う。急いで体勢を立て直そうとするが間に合わず、もろに魔法を受けてしまう。
魔法防御が発動してダメージこそなかったが、首飾りの魔石は、一気に二つも破壊されてしまった。
しかし、すぐに気持ちを切り替えて、フォルテから距離を取るため、魔法を警戒しながら、急いで後ろに下がる。
もちろん放り投げたショートソードも途中で回収することも忘れない。十分に離れると油断なく構えてフォルテを見据えた。
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