013 1回戦に向けて
今日も何とか間に合いました。
今日から3連休など、何とか投稿できるように頑張ります。
――さすがはお兄ちゃんだ。馬鹿にした相手にも慈悲をかけるとは、どれだけ懐が深いのだろうか。
たしか「マイ・ククン」だったか、いまだに試合場で治療を受けている男子生徒に心の中で軽く頭を下げる。
――うん、これでマイ・ククンへの謝罪は完璧だ。すぐに記憶領域から消去しよう。
完全にあれのことを頭から消した私は、気になったことを尋ねた。
「そういえば、お兄ちゃんの試合も、もうすぐじゃなかった?」
「試合が押しているようで、もう少し先になったから大丈夫だよ」
私を見下ろす視線は優しくて、とても癒される。頭を撫でる手の温かさからは慈愛の気持ちが伝わり心も満たされる。
周囲を見渡すと初等部の女子たちが羨ましそうに見ているのが分かる。
そんな彼女たちからマウントを取るため、背中に回した手に力を込めて、お兄ちゃんの胸に顔を埋めると、周りから「キャッ」と小さな悲鳴が聞こえた。
私がお兄ちゃんの香りを堪能していると、背後からサラ先輩が声をかけてきた。
「相変わらず兄妹仲が良いわね、羨ましいわ」
「サラ先輩ですか。先輩は見回りの途中ですか?」
いまだに抱擁を満喫している私の頭を優しく撫でながら、お兄ちゃんが言葉を返す。
「ええ、見回りをしてたらすごい火柱が上がったんで見に来たの」
「それはお疲れ様です、疲れてないですか?」
柔らかく笑みを浮かべ、サラ先輩に労いの言葉をかけると、先輩も微笑みながら軽く首を横に振った。
フォルテちゃんが言うには「敵」らしいので、あまり関わっていけないと言っていたが、私にとっては優しいお姉さんで嫌いではなかった。
◆
私がアーク君の周辺を見回りしていると、アーク君が初等部の会場に向かっていく。
ラーラちゃんの試合を応援するためだと分かり、急いで先回りする。
後輩たちの応援を邪魔しないように学生席の後ろに立つアーク君の、さらに後ろに立って、妹を応援するアーク君を応援する。
さすがはアーク君の妹だ。相手に何もさせずに圧倒して勝利を収めた。
どうして男子生徒が立ち眩みを起こしたか分からないが、一方的な試合に生徒たちは唖然としている。
そんな中、妹の勝利に嬉しそうに拍手を送るアーク君に私も拍手を送る。
アーク君に気づいたラーラちゃんが駆け寄り抱きついた。優しく受け止め頭を撫でるアーク君に周囲の女子から羨望の視線が集まる。
私にも兄がいるがそこまで仲良くはない。少し羨ましいと思ったが、アーク君と兄妹だったら禁断の恋になってしまうので、神の差配に感謝する。
なかなか抱きついて離れないラーラちゃんから解放すべく、アーク君たちに近づき、声をかける。
「相変わらず兄妹仲が良いわね、羨ましいわ」
アーク君が顔を上げて私を見ると微笑んでくれる。
「サラ先輩ですか。先輩は見回りの途中ですか?」
「ええ、(アーク君の)見回りをしてたらすごい火柱が上がったんで見に来たの」
「それはお疲れ様です、疲れてないですか?」
アーク君が労いの言葉をかける。一瞬、首を振り否定するが、すぐに疲れたふりをして気を引くことにした。
「そうね、少し疲れたかもね。けど、皆が楽しくしている姿(特にアーク君)を見るのは嫌いじゃないから大丈夫よ」
少し表情を曇らせ、視線を落とす。アーク君の心配そうに見つめる顔がちらりと見えると、私は薄く笑う。
そんな私を気遣うようにアーク君は声をかけた。
「分かりました、けど無理だけはしないでください。もし疲れたなら遠慮なく言ってくださいね。俺が代わりますので」
「フフフ、それは難しいかもね」
アーク君の見回りをアーク君にお願いすることは無理ではないだろうか? でもアーク君だったからできるのかも知れない……。
いろいろとその可能性について考え込んでいると、なぜかアーク君は少し慌てながら、口を開いた。
「確かにもう、俺の試合までもう少しですね。ありがとうございます、教えてくれて」
アーク君は時計を確認すると、抱きついているラーラちゃんをそっと離す。そして、すぐにお辞儀すると、足早に学生席から去って行った。
最後の会話は、何か噛み合ってなかったような気もするが――それよりもアーク君の試合がもうすぐ始まるらしい。
私はパチンと頬を叩き、気合を入れ直すと、颯爽と歩き出した。
彼の背中を見失わないように、今日も私の見回りは続く。
◆
俺は急ぎ中等部の試合場に向かうと、ジークがユーリ夫人とマリアさんに挟まれて歩いている姿が見えた。
だが、試合まであまり時間がなかったので、悪いと思いつつ声をかけずに通り過ぎた。
すぐに試合場の隣に設置された控え用のテントに着くと、前の試合がちょうど終わるところだった。
試合にはフォルテが出場していたらしく、中等部二年の男子生徒相手に圧勝したとアナウンスがあった。
フォルテやアルス兄さんが使う雷魔法は下級でも魔法防御の付与された魔石を破壊できるほど強力だ。
発動するために練り上げる魔力も少しで済むので、無詠唱で発動することもできる。それなりの魔力操作は必要となるが。
僕が竜星杯の組み合わせ表を探していると、後ろからフォルテに声をかけられた。
「アーク先輩、お疲れ様です。次は先輩の番ですね、しっかりと応援させて頂きます」
「ありがとう、フォルテ。そして、初戦突破おめでとう。さすが初等部主席だけのことはあるね。もし僕が勝ち上がれば、次はフォルテと戦うことになるのかな?」
振り返りながら答えると、彼女の姿が目に映った。
やはり圧勝だったらしく彼女の首飾りにある魔石はもちろん、腕輪に填め込まれた物理障壁の魔石も無傷だ。
もし二回戦の相手が彼女になったら、間違いなく苦戦することになるだろう。
フォルテはちらりと組み合わせ表を見ると、ゆっくりと頷き答えた。
「ええ、そうなると思います。もし戦うことになったら胸を借りるつもりで全力で挑ませて頂きます。手加減したら許しませんよ?」
「ふふ、そうだね、でもまずは俺が勝たないといけないけどね」
僕がおどけて見せると、フォルテは微笑みながら、静かに首を横に振った。
「誰もアーク先輩が負けるなんて思っていないと思いますよ。もちろん私もです」
「ありがとう。でも買い被り過ぎだと思うよ。まあ、とくにかく頑張るさ」
会話をする俺たちに、審判の先生は、すぐに試合場に上がるように注意した。
応援してくるというフォルテに感謝を述べると、手を振りながら試合場へと歩き出した。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします<(_ _)>
また、「呪術と魔法は脳筋に」という作品も投稿していますので、読んで頂けたら嬉しいです<(_ _)>




