012 ラーラの戦い方
本日も何とか投稿できました。
他の作者さんたちの凄さが身にして感じる毎日です
<(_ _)>
ラーラの試合を応援するため学生席に向かうと、ちょうど試合が始まるところだった。
妹か、対戦相手か――はたまた両者か、とても人気があるみたいで、学生席は初等部の後輩たちで一杯だった。
ラーラの対戦相手は確かレーベル男爵家の次男マイク君だったと思う。魔力量は妹より多く、初等部五年生の中では一番だったはずだ。
なかなか強敵みたいだ。少しラーラのことが心配になる。……怪我だけはしないでほしい。
俺は後輩たちの応援を邪魔をしないように席の後ろに立って観戦することにした。
なぜだか後輩たち(特に女子)が、試合場とこちらを交互に見ているのが気になるが、俺はラーラの応援に集中した。
◆
目の前のクラスの男子……確かマイクという名前だったと思う。
勝手に私のことをライバル視して、しつこく絡んできた。けれど、名前を覚えるほどの男子じゃない。
何よりお兄ちゃんのすごさに気づかず馬鹿にするような無能に、記憶領域を使うのは勿体ない。
私は胸元に下がる三つの魔石が埋め込まれた首飾りを見る。
魔石には魔法防御が付与されており、相手の魔法を受けると防御する代わりに破壊される。威力によっては身代わりになる数も変わってくる。
当然だが、威力が高いほどその数は増える。
私が首飾りを見つめている間に、相手が火の上級魔法を発動しようと、魔力を練り上げるための詠唱を始める。
いきなり勝負をつけるつもりのようだ。私たちの学年で上級魔法を使える生徒は数えるほどしかいない。そういう意味では相手も少しは優秀と言える。
……もうすぐ上級魔法を発動するための魔力が練り上がりそうなので、私は素早く風の下級魔法を発動する。
もちろん、この程度の魔法に詠唱は不要だ。
「上昇風 (ウィンド)」
相手が魔法発動に一瞬驚くが、下級だと分かり余裕の笑みを浮かべる。
この程度では魔石は破壊されないし、もちろん私もこの魔法で壊せるとは思っていない。狙いは別にあるのだが、相手は知る由もない。
彼が魔法を発動しようとした瞬間、空に向かって風が吹き抜け、対戦者は立ち眩みを起こす。
魔法で周囲の空気を一気に上へと運んで薄くした。原理は不明だけど、急に空気の濃度を変化させると、人は眩暈や立ち眩みを起こすと兄から教わっていた。
私は追い打ちをかけるために、ふたたび風の下級魔法を発動する。
「下降風 (ウィンド)」
今度は上空から一気に大量の空気を落として濃くすると、相手は立つこともできずに膝から崩れ両手をついた。
もはや魔法を発動することはできないだろう。私は彼が発動しようとした火の上級魔法を、見せつけるように半分以下の速度で練り上げて発動する。
「火炎の柱 (インフェルノ)」
跪く彼を中心に巨大な火柱が現れる。試合場の温度が瞬く間に上昇する。通常の火炎柱より強大な威力に会場がざわつく。
別に魔力を多く込めたわけではない。空気を濃くすると炎は燃えやすくなることを知っていただけだ。もちろん、これもお兄ちゃんが教えてくれた。
すべての魔石が砕けても、燃え続ける火柱を見つめ、これだけの威力を見せつければ十分だと判断し、パチンと指を鳴らして一瞬で解除した。
◆
ラーラの上級魔法が発動すると試合場に巨大な火柱が現れて、マイク君を焼き尽くした。
正確には魔法防御の首飾りに守られてはいるが、それでも威力が強過ぎたのか少し火傷をしているようだ。
本当に魔法は凄い。俺が前世の修行で体験したことを何気なくラーラに話したら、まさか魔法で実現するとは思わなかった。
前世で標高が高い山を、何度も往復する修行をしていたときに耳鳴りや眩暈をすることがあった。
頭領に尋ねると、空気の濃度が急激に変わると神経が狂って、そのようなことが起こると教えてくれた。
それに山頂で野営したときも、なぜ火のつきが悪いか聞いてみたら、空気が薄いと燃えづらく、逆に空気が濃いと勢いが増すと言った。
その言葉に、確かに普段から竈の火を強くするときには、ふいごを使い空気を送っていたことを思いだした。
ラーラとフォルテの三人で近くの山にピクニックに行ったときに、俺は少し良いところを見せようと、そのことを話したら、物凄く尊敬されてしまった。
この世界には魔法があるため、そのような自然現象には無頓着なようだ。
火を強くするには魔力を込めればいいし、気分が悪くなれば治癒魔法で治してしまう。原因まで探ろうとは思わないのだろう。
ラーラは勝利を確認すると、治療を受けているマイク君を無視して、さっさと試合場を下りてしまった。
あまり褒められた態度ではないが、今は妹の勝利を素直に祝おうと思い、拍手を送った。
学生席の後ろにいた俺に気付いたラーラが、一目散に駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、見てたんだ。すごく嬉しい!」
「もちろんだ、ラーラの雄姿を見逃す訳ないじゃないか」
俺に抱きつき嬉しそうに見上げるラーラの頭を、優しく撫でながら褒めてあげると、一層喜んでくれた。
せっかく勝利したラーラに申し訳ないと思ったが、兄としてきちんと注意すべきことは注意しておいた方がよいと思い、口を開く。
「……けど、マイク君への態度はどうかと思う。戦った相手には敬意を払わなきゃダメだよ」
父親みたいな口調になってしまったが、しっかりと目を見て告げると、ラーラはわずかに首を傾げながら答える。
「マイ・ククン? あぁ、さっきの男子ね。……ごめんなさい、初戦で緊張していたのかも。マイ・ククン君には後から謝っておくわ」
「マイ・ククン君? そうだね、緊張してたのなら仕方ないけど、謝っておいた方がいいだろうね」
少しばかり行き違いがあったような気もしたが、素直に謝る妹に心がじわりと温かくなった。
前世では親兄妹ですら信用できなかった俺だが、今世では出来る限り兄らしい事をしていきたいと、そっと誓った。
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