010 竜星杯に向けて
本当にすいません。
いよいよ、限界がきました。
次回から隔日投稿します。
もう1つ投稿している「呪術と魔法は脳筋に ~魔族から人間に戻りたいのに、なかなか戻れません~」と交互に投稿していきます。
もし、よかったらこちらも読んで頂けると嬉しいです。
<(_ _)>
生徒会室からアーク君とスカイ君の模擬戦を眺めている。二人ともまだ一年生なのに、すでに高等部の生徒相手でも十分に戦えるレベルだ。
アーク君の動きも素晴らしいが、スカイ君の無属性魔法は賞賛に値する。
スカイ君は槍を引き突き出す瞬間に、魔力を穂先に込め凝縮して放つという離れ技をやってみせた。
本来は槍を構えているときに魔力を集め、突き出すと同時に放つ。そのため連続で無属性魔法を放つことは極めて難しい。
まだ、発見されて間もない魔法に対して――どれだけ試行錯誤を繰り返し訓練を重ねてきたのだろうか。
私も高等部を卒業したら騎士団に入り、ゆくゆくは近衛騎士団に入りたいと思っている。スカイ君の強くなろうとする貪欲な姿勢は見習わなければならない。
感心しながら二人の戦いを見ていると決着がついた。まだ、アーク君に一日の長があったようだ。
地面に座り込み雑談している二人のもとにジーク君がやってきて声をかけた。もう今日の訓練は終わりみたいだ。
スカイ君が立ち上がり、アーク君を起こそうと手を握ると、力強く引っ張り、彼の胸元に顔を埋める。
直後、二人の試合を観戦していた校舎中の女子から悲鳴が上がった。
……できればアーク君、その役を僕に替わってくれないかな。
――そう私、ユウカ・フォン・ナーガの推しはスカイ君だ!
◆
隣でユウカがスカイ君のことをじっと見ている。2人の模擬戦を分析するような難しい顔をしているが、きっとスカイ君のことしか考えていない。
――私もアーク君のことしか見てないので、何も言えないけど。
生徒会室から校舎を見渡すと、天文部が望遠鏡を使って屋上から観測しているし、美術部は、彼らの雄姿を物凄い速さでデッサンしている。
他にも文学部は、二人の危ない関係を妄想して、どんな小説をしようか相談したり、園芸部は座った場所に、何を植えようか話し合っている。
そして、アーク君がスカイ君に寄りかかった瞬間、校舎から絶叫があがった。
隣に立つユウカに視線を向けると、拳を握り締め悔しそうな表情をしている。おおよそ何を考えているか容易に想像ができた。
アーク君たちが訓練場を後にする様子を見送ると机に戻り、フォルテ殿下が何を企んでいるか考える。
うまくラーラちゃんを誑かして、自分の陣営に取り込んだようだけど、今のうちだけだ。
将来、アーク君は教会から正式に聖女認定された私を護衛する聖騎士となり、二人で愛の巡礼へと旅立つことが決まっている。
そして、祖国であるババルニア王国に戻ることはなく、教皇が治めるユーべニア聖国で幸せに暮らすことは、神が約束している……と願う。
――まあ、フォルテ殿下が何を企んでいようが問題ない。
武術大会には私を聖女に認めてくれたリュック教皇陛下が来る。そのとき、聖女である私を救出した勇敢な少年アークを紹介して、聖騎士に認めてもらう予定だ。
アーク君は、フォルテ殿下に誘拐事件のことは秘密にするようにお願いしていた。
けれど、私は約束してないので、聖女に認定して頂いた際に、教皇陛下と面会して、五年前に起きた誘拐事件の真相を多少脚色して伝えている。
幼い少年が兄の名誉を守るため一人で敵のアジトに乗り込み、そこで聖女候補の私と、ついでにババルニア王国の第五王女を助けた。
そして、その功績すべてを秘密にするように頼んで颯爽に去って行った……。
陛下は、この話を聞くと大層感動したようで是非会ってみたいと仰っていた。
幼いながらも、その高潔さと勇敢な行動はまさに聖騎士に相応しいと過去五人しかいない聖騎士の認定も考えているようだ。
加えて、聖女と聖騎士二人で聖都アステリアに移り住み、ユーべニア聖国の民たちを導いてもらいたいと告げた。
……すべては計算通りに進み、自分の才能と幸運に少し怖くなった。
◆
「それではこれより武術大会を開催します! みんな、今日は授業で学び磨き上げた力と技を思う存分発揮してほしい!」
ユウカ先輩が高らかに宣言すると生徒たちから割れんばかりの拍手が巻き起こる。
拍手に応えて先輩が手を振ると、そこら中から女性の歓声が沸き起こる。相変わらず女性からの人気がすごいなと思いながら、俺も拍手を送った。
開会式が終わると俺は競技の準備をするため大会本部に向かう。途中で壮年の男性が道に迷っていたので、目的の初等部の観覧席まで案内する。
途中で将来の目標や得意な学科など、いろいろと聞かれて困ってしまった。
無事、男性を初等部の観覧席まで案内すると何か礼をしたいので、少し待ってほしいと言われた。
しかし、当たり前のことをしただけなので名だけ伝えて足早に去った
男性を案内し終えて時計を見ると競技を準備する時間が迫っていた。
俺は急ぎ本部に向かうが、腰を抑えて蹲っている老人を見つける。競技の準備も大事だが、困っている老人を見捨てる理由にはならない。
声をかけて背負うと、医療スタッフが待機しているテントまで連れて行った。
負担にならないようになるべく揺らさず歩いていく。途中でやはり将来についてしつこく聞かれた。
俺は世に忍び、目立たず誰かの役に立てればそれでいい。とくに職業も夢も無いと答えて立ち去ろうとした。
けれど、やはりここでもお礼がしたいと止められたので、名前だけを告げて、その場を後にした。
「遅かったね、アーク君。何かあったのかな?」
なんとか時間内に間に合い、本部テントに入るとユウカ先輩に声をかけられた。
「すいません、ユウカ先輩。本部に向かう途中、迷子になった男性と腰を痛めた老人がいたので、それぞれ初等部の観覧席と医療テントに連れて行きました」
「それはご苦労様。もう競技の準備は終わったから、ゆっくりして良いよ」
ユウカ先輩に頭を下げると、端にある椅子に座る。まだ、大会が始まったばかりなのに、なぜかすごく疲れてしまった。
俺が思わず大きく息を吐くと、ララが冷たい水が入ったコップを持って来てくれた。
「アークお兄ちゃん、なんだか疲れているみたいだけど、大丈夫?」
「あぁ、問題ない。少し緊張しているのかもしれない。可愛い妹にいい恰好を見せないといけないからな」
俺は笑顔で受け取り、ラーラに隣を勧める。妹はちょこんと座り、俺の方を見上げて声をかけた。
「お兄ちゃん、頑張ってほしいけど、怪我だけしないでね(特に顔は)」
「そうだな、なるべく怪我はしないよう頑張るよ。けど、妹のためなら少しぐらいの怪我なんて何でもないさ」
妹の言葉に少しだけ違和感を覚えたが、その優しさに礼を述べて、頭をそっと撫でると竜星杯に向けて気合いを入れた。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします<(_ _)>
また、「呪術と魔法は脳筋に」という作品も投稿していますので、読んで頂けたら嬉しいです。




