001 忍者転生
明けましておめでとうございます。
新年ということで新たな作品を投稿しようと思います。
正直、無謀な挑戦だと思いますが、応援して頂けると嬉しいです。
「呪術と魔法は脳筋に」という作品も投稿していますので、こちらも読んで頂けると嬉しいです。
5話までは一気に投稿したいと思います。
月の光も射さない新月の夜、俺は標的を殺すため屋敷の中に潜入する。塀を飛び越え音も無く着地すると、そのまま身を屈めて走り出す。
そして、誰にも見つかることなく屋敷に入ると、柱を蹴り梁に手をかけ天井裏まで素早く登る。
音も立てず慎重に天井裏を進むと標的がいる寝室に辿りつく。
そっと天井板をずらして中を確認すると、大きな口をだらしなく開け、いびきをかいて眠る男が見えた。
思わず、にやりと笑ってしまいそうになるが、すぐに心を殺して感情を消した。
俺は懐から糸を取り出し、男の口元にそっと垂らすと、腰に刺さった小さな竹筒を取り、中の液体を少しずつ染み込ませる。
すると、その液体は糸を伝って一滴一滴と男の口の中へと落ちていく。
やがて男の顔色が悪くなっていく。もがき苦しみだし、激しく喉を搔きむしると、最後は白目を剥いて血を吐き事切れた。
ピクリとも動かなくなった男を見て、俺は無事に仕事を終えたことに満足した。
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郷に帰還した俺は、棟梁に任務完了を報告し報酬を受け取り家に戻る。今回も完璧に仕事をこなした事に満足する。
今日は珍しく棟梁から日頃の働きに感謝され酒を頂いた。普段、酒は飲まないが、折角頂いた物を飲まないのも悪い。
妻につまみになる物を準備するよう頼むと、湯呑に酒を注ぎ口に運ぶ。
なかなか良い酒のようで、つまみも食べずに飲み続けると急に目の前がぐらりと反転する。倒れたことに気づき起き上がろうとするが、足がもつれて起き上がれない。
床に這いつくばり、藻掻いていると、だんだんと意識が朦朧としていく。ぼやける視界に棟梁と妻が並ぶ姿が映る。
何か言っているようだが、もはや聞き取ることができない。
「………我が一族…ため…犠牲……り…死んでくれ…」
わずかに聞き取れた言葉で何となく裏切られたことを察する。
三年寄り添った妻が包丁を振り上げると、俺に向かって振り下ろした。
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俺は気がつくと見覚えのない建物の中にいた。正確には机に向かい、何やら講義を受けているようだ。
「おい、アーク。何、ぼーっとしてるんだ!」
突然、声をかけられ、反射的に答える。
「あっ、すいません、先生。少し考え事をしていました」
とっさに出た適当な言い訳だった。……本当はここがどこで、何をしているのか分からない。そして、なぜ教壇に立つ男が教師だと分かったのかも。
「ほう、私の授業中に他のことを考えるとは余裕だな。ちょうどいい、この問題を解いてみろ」
教師は青筋を立てながら、黒板に書いてある問題を教鞭で叩く。
その内容を確認すると、自然と答えが浮かんでくる。確か魔法論理の初級の問題だ。この程度の問題は入学する前にすべて家庭教師から学んでいる。
「わかりました、イアン先生。その問題を解けばよろしいのでしょうか?」
「ああ、そうだ。前に出て解いてみろ」
前に出ると黒板にすらすらと答えを書いていく。少し調子に乗って独自の見解も付け足したのは、愛嬌だと思って許してほしい。
俺はすべて書き終わると、教師の方を向いて口を開く。
「先生、解きました。確認をお願いします」
確認するまでもなく正解なのは誰の目から見ても分かるが、つい意地悪をしてしまう。
「ちっ、正解だ。相変わらず可愛げがないな、もう席に戻っていいぞ」
不機嫌な様子を隠さない教師に頭を下げ席に戻ると、後ろの席の赤髪の少年が小声で話しかけてきた。
「さすがだな、アーク。あの手の問題は、色んな解釈ができるから、いくらでもケチを付けられる。そうさせないために、あえて自分の見解も付け足すとはな」
赤髪の少年は感心したように何度も頷く。その隣で少し呆れたように首を横に振るメガネをかけた紫髪の少年が、会話に加わる。
「当たり前だろ、兄さん。アークは僕を抑えて学年1位で入学したんだ。あれぐらいは解けて当然だよ」
俺は2人の会話を聞きながら、少しずつ記憶が鮮明になっていくのを自覚する。
確か赤髪の少年はスカイ。ガンブルク侯爵の次男で俺の幼馴染だ。その隣に座る紫髪の少年の名はジーク。同じくガンブルク侯爵の三男でスカイの双子の弟だ。
二人の幼馴染の顔を見ながら、様々な事を思い出していく。俺はカインズ公爵の四男で、今いるミューズネイト学園の学生だ。
貴族の中では魔力量が低く、騎士や魔導士になるのは難しいと父から判断された。
六歳になると父は役人にするため、ここに入学するように勧めたのだ。
この世界で唯一の学園都市ガインズネット。その中でも最高峰の教育を受けられるミューズネイト学園に。
授業を受ける振りをしながら記憶の整理を進めていく。……正確には今の俺が、どのような存在なのかを確認していく。
まず、俺の中には忍びだった時の記憶がある。というかアークの記憶が残っていると言った方がいいかもしれない。突然、人格が入れ替わったような感覚だ。
ただ単に入れ替わっただけだと思ったが、スカイやジークを見ると親しみが湧いてくるし、ちゃんと幼馴染だという自覚もある。
――まあ、よく分からないことだらけだが、やりたいことははっきりとしていた。
今度は忍びらしく目立たず地味に人混みに紛れながら、裏切られたり殺されたりする心配が無い平和な世界で、普通の人間として生きて行きたい!
もし“誤解されて持ち上げられる主人公”が好きなら、もう一作もどうぞ。
方言=最強魔法×機人の学園譚『クマモトという名の異世界』
読む→<https://book1.adouzi.eu.org/n6098ld/1/>




