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吝嗇のバナリテ  作者: 民間人。
石ころと泡の価値
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親睦会1

 私は急ぎ、従者たちのうちフーケとジュスタンを、また特別遊撃隊の二名を招集した。各人は仕事中特有の不機嫌そうな顔つきで現れ、ジュスタンだけが普段通りの様子で私の後ろに控えた。

 太陽は空の中心を多少傾いたとはいえ、まだ高く、陽射しの強さも晴れ上がる空も相まって、汗ばむ陽気の中で立ったまま控えるのは中々堪えるのではないだろうか。


「こんな時くらいは座ればいいのに」


 私の言葉に、ジュスタンは首を振る。よく見れば汗一つかいておらず、要らぬ気遣いであったのかも知れなかった。

 ギヨームは私に遅れて入室すると、普段の席に付き、額の汗を拭う。よく見れば、先程とは服装が変わっていた。


 ギヨームが項垂れる暑さだけあり、シェリーとミシェルは多少露出の多い服装‐スカートこそ足先まであるが、腕は露出しており、宝飾品等も少なく煩わしさのない服装‐で正面に座っている。流石に、二回目の邂逅でギヨームがそわそわする、と言う事はないようだ。


「……わざわざ集めてしまってごめんなさい。実は、ガルシア卿への問い合わせの返信が来たの。簡単に言えば、現状で満足しているから、何か追加の付添人が来るメリットを挙げて欲しい、とのことよ。それで。お手数ですが、まずは、シェリー様とミシェル様に、具体的にどの様なことが出来るかを伺いたく思います」


 ミシェルはギヨームに視線を送る。ギヨームは汗を拭ったハンカチーフをポケットに仕舞い、その手で腹を摩っていた。


「『男を楽しませる事』とか?」


 至って真面目に答えたミシェルだったが、その平坦な声はかえって言葉に力強い自信さえ感じさせた。シェリーはくつくつと笑いながら、続けて答える。


「私、家事は得意ですよ。仕事柄、野宿もありますし、料理も出来ます」


「男を楽しませる特技は後々必要になるかもしれませんが、手紙でメリットとして書く事ではありませんね」


 フーケは子供の受け入れを人数と名簿を記帳している。下を向くその声はくぐもっており、まさしく仕事に没頭したいという意思を感じさせる。

 不服そうなミシェルに対して、ギヨームは腹を摩りながら、慌ててフォローを入れる。


「まんまとしてやられた事がありますので、私もそれに異論はないのですが、他にもう一つ、得意なことなどあれば」


 ミシェルは代案となる特技について、思案を巡らせ始めた。一同は彼女の回答を待ち、薄暗さも相まって、議場は奇妙な緊張感に満たされ始める。

 ペンの音がサラサラと鳴り、石畳にこびりついた苔が沈黙を見守る。ある意味特殊な環境に生きる彼女達にとっては、私達が普段から行うような特技を、特技とは思っていないのかもしれない。


「仕事柄聞き上手ですので、例えばご婦人の話し相手にはなれると思いますが……」


 私は顔を顰める。あの手紙のないように準えて、その回答をどの様に解釈するべきだろうか?


「話し相手は満足している、と言うニュアンスがありましたね、むぅ……」


 ギヨームは腹を摩りながら項垂れる。いざ派遣を勧めるとして、相手の需要に合った仕事を出来るか、否か、と言うのは、確かに難しい問題かもしれない。まして、実際に会った事のない人物に任せるというのは……。


「実際に会った事のない……?」


 そう言えば、ガルシア卿は今回の異例の事態に関して、「実際に会ったことのある」私を信頼して契約を締結してくれた。今回がそうでなかったのは、得体のしれない事を感じ取ったから、かも知れない。


 改めて情報を整理する。脳内で彼の言動一つ一つと、丁寧で誠実な手紙のやり取りとを精査した。


「もう一つの方法としては、単なる客人として招かれた際に、ジョアンナ様の付き人としてお二方をご紹介するというのが御座いますが」


 フーケはペンを持つ手で首の裏を掻きながら言う。


「それにはきっかけが必要ね」


 ギヨームはやや前屈みになる。


「収穫祭はとっくに終わってしまっていますし、ガルシア卿の場合、結婚記念日ですとか、家族に纏わる記念日が近々あれば快諾くださるかもしれませんよ」


「家族、ね。親睦を深める目的でも……それを察するのは中々……」


「来てもらうという手も御座いますが」


 フーケはペンを下ろす。少し顎を持ち上げ、満足げに仕事を終えた悦に浸っている。

 ペンは少しの間机の上を転がり、やがてインク壺にぶつかって止まった。インク壺が、きん、と鳴ったのに合わせるようにして、ミシェルはにんまりと、あくどい笑みを零した。


「なるほど。こちらから内祝いに招くという事ですね。そうすると、誰を呼ぶ事になるのですかね」


「大人数で来てもらわなければ怪しまれるし、意味がありませんからね。確かヘンリー様の誕生日が秋の第三週、一日であったと把握しております。如何でしょうか」


 フーケは仕事道具を片付け、私に視線を送る。軽く汗ばんだ額が光を反射し、昼でも仄暗い城内で目立って明るく見えた。


「いいじゃない、それなら、顔合わせも出来るでしょう」


 最悪、ガルシア卿と顔合わせが出来ずとも、その妻と顔なじみになってさえくれれば、話は格段に優しくなる。ミシェルにせよ、シェリーにせよ、そうした仕事はお手の物だ。


「早速、返信も兼ねてお誘いを書くわ。ありがとう」


 私の言葉に、背後のジュスタンが歓喜の武者震いをしたのが分かった。


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