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吝嗇のバナリテ  作者: 民間人。
石ころと泡の価値
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この愛はただ家族のために2

 乾草干しを少し手伝って城内に戻ると、令嬢の宮殿から二通の手紙が届いているとの知らせが入った。


 私は急ぎ自室に戻り、二通の手紙を確認する。一通は綺麗な純白の封筒に、由緒ある蝋の印鑑で封がされている。もう一通は古紙の空白に宛名を書いた粗雑なもので、一目で私への報告書であることが分かった。


 まずは報告書を開ける。その内容は、乳母としての労働は概ね満足が行っている事を同胞たちに伝えてほしい事、ナルボヌ邸よりも良い食事が出る事、穏やかな奥様が時折話し相手を求めてきているが、目新しい情報は無いこと、などが記されている。

 この手紙の結びには、「毎年この場所に来てもいいかもしれない」と言う魅力的な仕事であることをしるすと、走り書きのサインが続いた。

 ……正直ナルボヌ家の財政難が見事に彼女の意見に反映されている事に一抹の不安も感じないではない。あまり良くないナルボヌ家での奉公をする多くの使用人が、彼女の言葉を信用して脱走を試みては、今度は私達の生活がままならない。ジュスタンだけで城の掃除は出来ないし、仮に出来たとしても自慢ではないが生活力が致命的に無い貴族連中全員をあやして回る事はとても出来ない。今でこそ食費はほぼ一割程度になっているので、生活がひもじいと駄々をこねる者はいないだろうが、部屋は片づけないし、使用人があれこれと気を使ってくれる事に何の疑いも抱かない。だから、労働力は最小限で、労働力を外部に流出させない方策も考えなければならない。


 この手紙については一先ず共有するのは避けよう……。私は鍵付きの引き出しに、この、素晴らしく仲間思いの手紙を仕舞った。


 続けて、重厚な印で綴じられた封筒を手に取る。リオネルとフーケは特別遊撃隊送付の手配で忙しいので、これを確認していないだろうが、私はナイフを取り出し、印章を傷付けないように封を開ける。案の定、その送り主はガルシア卿であった。



 親愛なるジョアンナ様


 花冠の香りも高きカペルの南におわします、深緑の川縁に古城を構える、神の恵み深きナルボヌの地では、無事実りの季節も終えて、水音の心地よい季節となった事でしょう。ジョアンナ様に置かれましても、御壮健の事とお喜び申し上げます。

 さて、本日お手紙を送らせて頂きましたのは、先月よりお勤め頂いております乳母の件及び、有り難いご提案の件につきまして、御礼とご返答を申し上げたく考えた次第です。


 亡父君の御高名は以前から風の噂で伺っておりましたが、こうして、実際に妻より多くの世間話と、笑顔とを受けて、私の選択が大変に良い判断であったと、有り難くも得意になるところで御座います。


 さて、ジョアンナ様、私は現状、乳母の勤務態度に大変満足しており、また、大変助かっております。追加の付添人を改めて派遣頂けるというご提案は大変ありがたいご提案では御座いますが、私としましては、現在の環境を変える必要性は乏しいように思います。妻も話し相手が増えた事には大変喜んでおりますが、新たな人を迎えるという事は、暇は無くなり賑やかになる反面、人見知りで孤独に過ごしがちな妻が却って話しづらくなるのではないか、と言う不安もございます。

 もし、付添人の派遣が私共の繁栄へ多大なる貢献をなさるという事であれば、是非、その理由を纏めた上で、改めてご提案頂きたく存じます。

 有り難いご提案、格別のご配慮、誠に有難うございます。


 アスティリア子爵、ガルシア・リオーネ・アスティリアより敬意をこめて



 お断りの連絡である。私は眉間の皺を伸ばす為にこめかみを押さえた。もしかしたら、私がブリュージュに招致された事実をどこかで掴んだのかも知れない。仮にその際に私とフアナとの関わりが白日の下に晒されたのだとしたら……。

 じっとりとかいた冷や汗と、共に、寒気がする。


 もしもこのまま特別遊撃隊をブリュージュに返すような結果になれば、こちらを信頼してスパイを寄越してくれたフアナからの私の評価は大いに損なわれる事であろう。巧くガルシアを丸め込むには、それこそ「外交」に長じた人物に相談する必要があるのではないだろうか。私は手紙を両手で慎重に折りたたみ、懐に仕舞う。


「リオネルに……相談……」


 私が慌てて腰を上げると、柔らかなノックの音が響いた。


「ジョアンナ様、ガルシア卿からお手紙を頂いたと伺ったのですが」


 ギヨームは今日の空のように穏やかに伺いを立てる。私は腰を下ろし、咳払いで深呼吸を誤魔化し、髪を束ねて如何にも冷静を装って返した。


「届いているわ。話があるなら、入っていいわよ」


 暫く扉の向こうでドアを擦るような音がする。その後、「それでは、失礼いたします」と言う穏やかな声が響き、太い指がドアノブに絡まって開かれた。


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