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吝嗇のバナリテ  作者: 民間人。
石ころと泡の価値
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収支報告

 光を集めるには手狭な窓の向こうには、閑散とした小麦畑で落穂を拾う人々の姿がある。嵐の去った後に残る独特の静けさの中で、私は彼女達の為にジュスタンが作った甘味を齧った。果物特有の酸味と甘みが混ざった実に高級そうに「見える」タルトを食べながら、従者らを見回す。


「そうだ、ジョアンナ様。ご報告いたします。よろしいですか?」


 フーケはジュスタンに視線を送る。ジュスタンが従者の耳打ちを受けて頷くと、フーケは立ち上がり、資料を取り出した。


「これまでの、乳母の利用明細になります」


 資料には、几帳面な字で領内の乳母候補者数と、現在乳母として子供を預かっている領民の数が記されている。修道院や孤児院に捨てられた子供はごく少数であり、周辺に奴隷市場を持つ商館からの預かり数が非常に多い。運搬の際にすし詰めにされた子供を見た領民は、これから自分達がこれらを育てるのだという事を覚悟させられたに違いない。何せ、大事に梱包されて詰め込まれた赤子は、自分達の子供と同様に白い布を巻かれ、窮屈そうに顔を歪めていたのだから。

 資料の上を目で追いかけると、次には簡単な説明と共に、幾つかの直線で区切られた数字の羅列が続いた。


「一名一年につき50ペアリス・リーブルの収益から、養育費として各家庭に12ペアリス・リーブル、雑費を除き28ペアリス・リーブルの収益、その内内部留保として5ペアリス・リーブルを差し引かせていただきます」


 領内の受け入れ子の数見ると、約1か月で23名、1150ペアリス・リーブル、276ペアリス・リーブル分が領民の取り分となる。644ペアリス・リーブルが粗利益となり、115ペアリス・リーブル分が内部留保となるため、529ペアリス・リーブルから、配当が成されるという事になる。勿論、これは通常の企業ではありえない配当金額であり、あくまで借金返済のカタと割り切った会社であるため、致し方ない。これらのうち、概ね4割がナルボヌ家の収入となり、4割がダンドロ銀行の収入となる。

 しかし……と、私は顎を引いた。


「この収入だと、まともに企業として立ち上げていたら凡そ商売にならないわね……」


「えぇ、これは、領主の特権である賦役強制権のなせる業です」


「そも、市民に取り分を与える必要はないのではないかな?」


 リオネルが人差し指を立てる。フーケは少し考えたのち、私に向けて話した。


「リオネル様の意見は確かに理解できる意見です。しかし、この養育費の目的は、別の所にあります。この収入が余剰資産を生めば自然と領民の支出が増え、行商人がこの場所を訪れる理由にもなります」


「それが収入以上の支出にはならないとしても、この場所を訪れる行商人が増えれば、作って頂いた事務所が市場になる可能性もございます」


「……それはもっとずっと先の事でしょうけどね」


 フーケは静かに頷いた。リオネルは手を組み、親指を回しながら、中空を眺めている。暫くして手を止めると、のっそりとタルトに手を伸ばした。


「返済に集中する方を優先すべきだとは思いますが、まぁ、ジョアンナ様にお任せしましょう」


 ギヨームが腹を摩っている。私の前にある見た目にも美しい高価に見えるタルトは、既に2切れ分減り、残りは6切れとなっている。

 私はジュスタンの方を向き、ギヨームを指さす。ジュスタンはすかさず木皿ごとタルトを持ち上げ、始めにフーケに、そしてギヨームに一切れずつ配膳した。


「一度始めてしまった以上、一先ずは続けて非難を避ける事は必要だと思うわ」


 私は分け合ったご馳走を持ち上げ、生地の底を覗き込む。綺麗な小麦色に焼けた生地は、果物の水分によってぼろが出始めていた。


「……賢明なご判断かと。民衆は与えられるものを奪われることを嫌う」


 ギヨームは冷静に続ける。しかし、暫くすると、自分の目の前に置かれたものをちらちらと見るようになった。


「では、一先ずは報酬については継続と言う事でよろしいでしょうか?」


「えぇ、一先ずはね。タルトが萎びてしまう前に食べてしまいましょう」


 そう言って私が口を付けると、フーケは控えめに、ギヨームは嬉しそうに高級品を口にした。艶やかな卵のような肌が持ち上がり、満足げな溜息が漏れる。窓の向こうでは、生活必需品を満載した荷馬車が、市場の前に訪れていた。


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