黄金色の祝祭1
芳ばしい肉の焼けるにおい、ぱちぱちと脂を滲ませる川魚のはぜる音、領民から買い取った野菜は目にも鮮やかで、塩茹でや油で炒める事によって初々しい瑞々しさとは違った質感を見せてくれる。
ジュスタンが一人手配を進める料理が食卓に並ぶたびに色味のない卓上には様々な彩が添えられていく。陶磁の器……とはいかないが、特別固くなったトレンチャーや木製のボウルに盛り付けられた料理の数々は、器の与える視覚的効果が食欲に影響を及ぼす事を如実に教えてくれる。光沢のある陶磁の皿が小奇麗に食卓を彩るのもまた粋であれば、慣れ親しんだ食器達が豊かな表情を見せる様もまた、粋と言って差し支えないだろう。
「うーん、良い匂い!久しぶりの肉料理ね」
礼儀作法など忘れて高揚しきった心が、脊髄で思いきり鼻から空気を吸い込む。支度をする使用人に混ざって食器を並べていたギヨームは、両手を擦り合わせる私を見て苦笑した。
「冬になればまた干し肉にあり付けますよ」
「そうじゃあないのよ、分かってないわね。いい?食事とは五感で楽しむものよ、見るによし、香りも良し、食べてよし!見なさい、肉と野菜で芸術のよう!匂いも体にこびりつけば取れない様な強くて濃い匂い!こんなのまずいはずがない、これは豆じゃあ味わえないわねぇ!」
私は興奮気味に食器を見る。思わず漏れた鼻歌に、家臣一同顔を見合わせて笑っている。私は自然と彼らと同じように笑っていた。何よりも、宴会の楽しみはとは準備である。終わってしまえば味わえない興奮が、私の中に湧き上がっているのを感じた。
食卓に彩が散りばめられると、緑や茶の斑模様が立体的に浮かび上がる。濛々と湯気を立てる丸焼き肉は、一つで一週間分の食事代だ。兎の肉は狩りの喜びを思い起こさせてくれるうえ、皮は加工を施して利用できる。金に換えられる部分は全て金に換える。これで野菜の分の出費を何とか抑えられるだろうか。
私が一人はしゃいでいる間に、階段から足音が響き始める。布巾で手を拭う使用人も、一人端に控えるジュスタンも、期待の眼差しで食堂の扉を見つめた。
数多の視線が集まる中、建付けのために高い音を立てて扉が開かれる。生真面目な表情をしたフーケが、脇に書類を抱えていた。
「ジョアンナ様、ただいま戻りマシ……」
「タ?」
一瞬間をおいて目を丸くしたフーケは、首をかしげる。借金の減殺に成功し、実質的には出資まで取り付けたフーケに向けて、私はすべて私の手柄だと言わんばかりの横柄な態度で応えた。
「これはギヨームの獲ってきた兎、後これが鹿、それでこれが……肉!」
「それは豆で作った肉団子もどきで御座います」
ジュスタンがすかさず修正する。自分でも分かるほど上機嫌な私は、「そう、豆団子!」と笑って誤魔化した。
フーケは後ろ手で静かに扉を閉ざすと、キョロキョロと食卓を見回して、丸くなった瞳のままで、私に向けて首を傾げた。
「これは、その……。おいくらほど……?」
「なるべく節約したわ。ギヨームに狩りに出てもらって、リオネルと私で魚釣り、野菜の調達だけは領内から安値で仕入れてきたわ。首尾よくいけばここまで贅沢できるのね」
フーケは口を開けたまま呆然としている。外出用のかつらを外し、食卓の上で湯気を立てる肉料理を再度見まわして、目を瞬かせる。
「宜しいのですか?」
「部下が意を決して、しかも私の無謀かもしれない会社の立ち上げに貢献した手柄が、こんなに安上がりならいいんじゃない?……あー……、まぁ、分かるわ。批判なら受け入れるわ」
彼は、我慢が水泡に帰したという喪失感で目を丸くしているのかもしれない。そう思うと、彼の丸い目を直視できなくなった。
逸らした視線を恐る恐る戻していったが、彼の視線とは交わらない。彼は足元に視線を送り、怒りに震えた風にも見えた。
かつらを握った手に力が入っている。少し俯くフーケの表情を窺う事が出来ず、不穏な空気がどよめきを作り始めた。
しかし、彼は鼻水を啜ると、涙ぐんだような声で続けた。
「いえ、少し、かつらを片付けてきます。それくらいなら、冷めませんよね?」
上ずった、若い男の声だ。落ち着いた声よりもなお人間味を帯びて声帯を震わせる時、彼は果たして何を思っていただろうか。
私は、口角を持ち上げた。
「……そうね。先ずは、お疲れ様」
フーケは俯いたままで深く頭を下げる。そして、その姿勢のままでいったん食堂を出て行った。
すぐに戻ってきた彼は実に晴れやかな表情で、どこか、父の治世の頃を思わせる賑わいが、食卓に戻ってきたようだった。




