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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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御前会議で玉音を

●19 御前会議で玉音を


 1942年4月9日水曜日。

 宮中、東一の間。

 おれは窮屈な正装をして、御前会議に臨んだ。


 出席者は、


 内閣総理大臣兼陸軍大臣 東條英機とうじょうひでき

 海軍大臣 嶋田繁太郎

 外務大臣 東郷茂徳とうごうしげのり

 陸軍参謀総長 杉山元すぎやまげん

 海軍軍令部総長 永野修身

 海軍中将 南雲忠一

 企画院総裁 鈴木貞一すずきていいち

 枢密院議長 はら 嘉道よしみち


 という、面々だ。


 おれたちは広い室内に招かれ、四角く並べられたテーブルに分かれて坐った。すべての卓面には瀟洒なクロスがかけられ、荘厳な雰囲気をかもしだしている。当然におれは末席である。


 東条英機首相なんて有名人が、昔の写真そのまんまの姿で現れたもんだから、おれは嬉しいプチパニックだった。なんとか気を落ち着かせようと深呼吸していると、それを見たひとりの男が薄ら笑いを浮かべている。


「あの、偉そうな男は誰です?」

 隣りの永野総長に小声で尋ねる。

「鈴木貞一だ、企画院総裁の……」

 重厚なバリトーンで返してくる。


(ふーん、あいつが東条英機のコシギンチャクと名高い鈴木貞一か)


 おれはじろじろと鈴木貞一を見てやった。

 ギクッとした顔をして、鈴木氏が顔をそむける。


 出席者のうち、おれを除くメンバーを見ると、この鈴木氏は企画院総裁とは名ばかりで、完全な陸軍派だから、結果的には陸軍派が東条、杉山、鈴木の三人、対する海軍派は嶋田、永野の二人だけ。そして両軍の板挟みになって、平和主義者の外務大臣東郷茂徳が一人苦しむという、なかなかどうしようもない構成だった。


 ちなみに、枢密院議長の原嘉道は、けして発言しない慣習の天皇に代わって、質問や意見を言う代弁者の役目らしい。


 ただ、この御前会議ってのは、なにかを話し合う、という場ではなさそうだ。すでに重要な議題は連絡会議などで結論が出ていて、それを天皇の信任を得るという、いわば報告会みたいなものだった。


 いずれにせよ、おれは初めてで勝手がわからないから、しばらくは黙ってようすを見るほかないよね……。そのうち、タイミングを見計らって、太平洋に残る対アメリカ戦をどう決着つけるのか、御前で閣僚たちの不見識を暴くという、でかい爆弾を落としてやる。


「陛下がおつきになりました」


 全員が立ち上がり深々と礼をする。

 背後に屏風が立てられた議長席に、陛下がお立ちになる。

 一番近くにいる枢密院議長の原氏に目を向け、軽く合図をする。


 うわあ、本物だあ……。


 生前に、さまざまなお写真で見ていた、まさに、あの感じのお姿である。

 ご着席を待ち、全員がゆっくり腰をおろした。


 まず東条英機が立ち上がる。

 陛下にうやうやしく一礼し、書類を読みはじめた。


「それでは開会いたします。お許しを得たるによりまして、本日の議事進行は、私がこれにあたります。まず本日の議題について、ご説明いたします。大東亜戦争におきましては……」


 は、はなしが長い……。

 ……ま、仕方ないんだけど。


 こんな棒読みをぐだぐだと聞かされて、みんな眠くなんないのか? 必死に言ってることを聞きとろうと頑張るが、なんとなくしか頭に入って来ない。


「……これら一連の戦いの結果、わが国は英国に対し圧倒的優位に至り、その結果といたしまして、在日トルコ大使館の仲介により、英国はわが国に停戦を申し出るに至ったものであります……」


 そのうち、なんとなくわかってきた。

 今日、ここにおれが呼ばれたのは、今日の議題が、イギリスとの講和だからだ。陛下のおれを見たいというご希望があって、ちょうど、この会議がふさわしいとなったのだろう。


「大東亜連盟なる合議体を形成し、議長国であるわが国が管理国の処遇を先導いたし……」


 嶋田大臣と、あと二人ほど同じような説明がつづく。

 とにかく、これからイギリスと和議を始めますよ、という話には違いなかった。


 つぎに、あの鈴木貞一氏から、国内の状況説明があり、東郷外務大臣も、アメリカを含む世界の状況を説明する。


 そして、枢密院議長の原氏が質問し、それに閣僚が答えるという、質疑応答の時間になった。


「英国との停戦ならびに和議について説明がございましたが、アメリカとはいかが相成りますか」


「米国とは別途の交渉にて、後日、これを行うことになろうかと存じます」


「英国の講和条件たる三国同盟の破棄は、受け入れるべく検討す、とありましたが、それはいつごろになりますでしょうか」


「この件は、東郷がお答えいたします。現在は関係各所において調整中であります。各省とも協調しながら、すすめてまいりたいと存じます」


 ふーむ、こういう席で発言すると政治責任が生じるから、陛下は基本なにも言わないのだな。そんでもって、陛下の訊きたいことや言いたいことは、あらかじめ枢密院議長がうかがっておき、代わって訊いたり発言するしきたりなんだ。


 それにしても、あの東条英機も、軍令部総長の永野さんにしても、陛下の前じゃ借りてきた猫みたいにおとなしいんだねえ……。ただひたすら、伏し目がちにうつむいている印象だ。


「では……ほかにご質問はございませんか」

 丸い眼鏡をずり落としそうな東条首相が、似合わないおだやかな口調で言う。

「……では、本日はこれにて御前会議を」


 よし、じゃあおれの出番だな。


 おれが口を開こうとしたとき、異変がおこった。

 陛下が片手を挙げたのだ。


 原枢密院議長が慌てて立ち上がって駆け寄ろうとするのを、手で制し、みんなの顔を見渡した。


 まさか、直接お話を……?

 全員がその異常事態に凍りつく。

 おれも爆弾発言の機会を失ってしまう。


「東条……」

「はっ」


 なんか、来た来たあ!


「さきほど、アメリカとは別の講和をいたす、とあったが、それはいつごろか」


 おお。すごく浮世離れしたお声だ。

 あの、あまりにも有名な終戦のみことのりと同じお声、しかし、ぐっと若くて聡明な印象がある。


「はっ。おおむね半年ほどと見ております」


 東条さん、元の世界じゃ半年後の十月に、南太平洋海戦やって空母がゼロになってるよ。がんばってね。


「その、根拠は、なにか」

「英国との講和がなり、戦線が縮小するとともに、米国の態度も軟化せると予想しております」


「東郷」

「ははっ」


「英国が提案する、三国同盟の破棄、について、いまだ国内関係各所に、調整中であると、回答があったが、調整とは……なにか」


「……同盟を、破棄せし時に生じる混乱を避ける措置であります」


 この人、きっと真面目なんだろうな。

 苦労がなんとなく表情ににじみ出てるよ。

 それにしても、この時代の偉い人って、なぜかみんな丸眼鏡にヒゲ……。


「南雲」

「わひゃ?」


 びびったあ!

 おいどうすんだ南雲ッち!


「真珠湾、豪州、インド洋での戦いは見事であった」

「あ、ありがとうございます」


「アメリカは、今後、講和に応ずると思うか?」


 しん、と静まり返った室内は、身動き一つもない。ただ異例のご発言と、おれの回答にここにいる全員が注目している。


「米国との講和締結には、核兵器の開発が必要かと存じます」


 うわあ、言っちゃったよ南雲さん。

 これ、ここで言ってよかったのか?

 この中のまだ誰も、原子爆弾について知らないんじゃあ……。


「のちほど、くわしい報告書をお出しください」


 枢密院の原議長が助け舟を出してくれた。


「はい」

 報告書はどのみち作るつもりだ。

 マッカーサー報告書を、ね……。


 だけど、今のおれの発言って、単に新兵器を欲しがるだけの、現場バカに見えたんじゃなかろうか。


「よろしゅうございますか?」

 陛下が軽くうなずき、立ち上がる。

 おれたちみんなを見て、やがてお言葉をのべられた。


「戦争終結には、アメリカとの講和を急がねば、ならない。あと半年の間に、各人が成すべきことを、せよ」


「ははっ」

 全員が頭を下げる。


 ふ~む、アメリカとの国力差をどう考えてるのかと、外務大臣の東郷さんあたりに質問して騒動をおこしてやるつもりが、なんか妙な展開になったな。


いつもお読みいただきありがとうございます。今回は微妙なシーンで普通はいろいろ差しさわりがあるのかも、と思いますが、まあフィクションだしぼくもアマチュアなので、なんとか大目に見ていただけないでしょうか。だめなら消します(爆)ちな、タイトルはかのカポーティの名作、ティファニーで朝食をのパロです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私は良い話だと思いますよ、今後も楽しみにしてます
2020/04/17 20:34 退会済み
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