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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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アインシュタインの警告

●15 アインシュタインの警告


「与太話なら、日本とアメリカはどこまでも殴りあって世界は落ち着くところに落ち着いていく。メデタシメデタシです」


「……」


「いいですか。原子爆弾についてはアメリカでも開発しているんです。物理学者のアインシュタインや、ルーズベルト大統領、アメリカ国防研究委員会議長のブッシュ、副大統領ウォレスなんかに訊いてみてください。それぞれの肩書は、確かじゃありませんがね」


 通訳にメモを書かせて渡す。


「さて閣下……」


 いぶかしそうな目でメモを眺めるマッカーサーにおれはその理解を待って、ゆっくりと語りかけた。


「ここからが本題です。この爆弾は四千度の熱線と、TNT一万五千トン分の衝撃波と、強烈な残留放射能によって、攻撃した都市のみならず、その地域全体を破壊し汚染するとんでもない威力を持っています。そして今の日本は躊躇なく貴国の主要都市を攻撃しますよ。貴国だって同じでしょう。そうなると、両国は滅んでしまいます」


 おれの頭の中に、キノコ雲があらわれ、アメリカの各都市を破壊するようすが浮かぶ。

 そして放射能の雨が降り、人々は泣き叫ぶ。


「信じられん」


 マッカーサーは呆然とメモを見つめている。


「半年後には嫌でも見ることになります」




 その少し前……。


 夏島の暗い海岸にたどりついた二人のアメリカ人は、あたりを警戒しながら、這うように砂浜を茂みへと移動した。


 顔や手足には化粧が施され、現地人に偽装しているが、屈強な上半身は隠しようもない。腰にはベルトを装着し、ナイフと銃、手榴弾をゴムにつつんで持っている。腰からはロープがのび、乗ってきたボートが遠く見えていた。


 海岸沿いをかがんで走り、目的の宿泊施設に近づくと、こっそりと裏へと回る。


 金網を乗りこえ、通用口をうかがっていると、従業員らしい若い男性の現地人が荷物を持ってあらわれた。仕事が終わって、いまから帰宅するのだろう。


「ビフ」

「オーケ、ジョン」


 ジョンとビフというのが彼らの名前らしい。符牒だろうが、彼らには十分だったし、今もそれだけで用がすんだ。


 音もなく近づいて、ジョンが後ろから従業員の口をふさぐ。黒い手をしているところを見ると、どうやらジョンはアフリカ系らしい。


「……!」

 ビフが足を持ちあげ、物陰に連れ込む。あっと言う間の早業だ。

 そのままジョンが自由を奪い、ビフが従業員にチューク語のメモを見せる。ビフはアジア系のようだ。

『日本語はわかるか?』

 従業員は目を剥いてうなずく。


「アメリカジン、ナカニ、イルカ?」

 たどたどしいが、なんとかわかる日本語で、ビフが尋ねた。


 従業員はこたえない。


 ビフがぎらついたナイフを抜き、首筋にあてた。

「アメリカジンハ、イルカ?」


 首筋を突かれて、激痛が走る。

 たまらず、うなずく。


「アメリカジンホリョ、イルノダナ?」

 従業員はすっかり怖気づき、なんども首をふった。


「コエヲアゲタラ、コロス」

 そっと手を離した。


「ナンガイニ、イルカ」

「よ、よんかいです」

「ミハリハ、ナンニンダ?」

「たくさんいます。部屋の前に……ふ、ふたり、階段に……一人、ロビーにはたくさん」


 それを聞き、ビフとジョンは短くやりとりをする。

 二人が建物の外階段を見てささやきあう。


「アノ、カイダンカラ、ヨンカイニ、イケルカ?」

 アゴで示した。

「え?」

 ぐいっとナイフを刺す。

 ぶちっと音が鳴り、のどの皮膚から血が流れる。

「ひ!」

「シ―――――!」


「いけます。ド、ドアを三回たたく……兵隊さん、開けてくれます」


 二人のアメリカ人はまた小声で相談しあう。

 ビフがナイフを下げる。従業員がほっとした表情を浮かべた次の瞬間、ジョンが太い腕を、従業員の首に巻きつけた。


「レッツ、ゴー」




「で、君は、どうしたいんだね? われわれに降伏してほしいのか? それなら無理な相談というものだ。私にはそんな権限はないし、君らがその原子爆弾を開発し、よしんば都市を爆撃されたとしても、合衆国は絶対に降伏しないだろう」


「降伏は無理でしょうね。日本がありったけの原爆を積んで、アメリカの各都市を絨毯爆撃したあとなら、わかりませんが」


 マッカーサーとの必死の攻防が続く。


「アメリカは日本と違って広い。国民も多くそう簡単にはやられんよ。そういう日本はどうだ?もしも君の言うとおり、原子爆弾をわが合衆国も開発したとしたら? あの狭い島国で、天皇が死んだらどうするのだ?」


 おれの中で、激しい忌避感が衝撃のように走る。

 これはきっと南雲ッちの経験値だろうな。


「それは困りますね」


「こう言っちゃなんだが、アメリカの大統領はいくらでも代わりがいる。しかし、君らの国は、天皇が死んだらおしまいじゃないかね?」


「……」


「わかったぞミスタナグモ、原子爆弾を落としあったら、結局困るのは日本なのだ。だから君はそれを避けたくて……」


「違いますよ閣下」


「そうだろう! 万一にも皇帝が死んだら、狂信的に崇拝する君らの軍隊は、だれが責任を取るのだ!」


 ここぞとばかり、机をどん、と叩く。


「閣下、核戦争に勝者はいないのですよ」

「……」


「さっきのアインシュタインが言ったそうですよ。……いや、まだ今は言ってないか……。もしも、核戦争の次に世界大戦がおこるとすれば、その時使われる武器は木とこん棒だろう、とね」


「……」


 なにか言おうとして押し黙る。

 じっと未来を見るように、マッカーサーが目を閉じた。



 コンコンコン……。

 階段のドアがノックされた。

 南洋にふさわしい水色の木の扉だ。


 当番の兵がのぞき窓に目を近づける。歩兵銃を後ろにまわす。

「なにものか!」


「キノです。スミマセン、エレベーターウゴキマセン」

「キノ……? フロントのお前がどうして」


 言いつつ、鍵を回す。

 開いた瞬間、どおっと押しこまれる。


 声をあげる間もなく、廊下に倒れた兵士は、ふたりがかりで抑えられ、首を絞められる。ぐったりしたところを、シャツを脱がされ胸にナイフを突き立てられた……。


「うぐッ」


 ビフはすぐに兵士の服を脱がせる。

「ヘヤハ?」

 おびえて竦んでいるキノに尋ねる。

「つきあたり、みぎに、曲がる」

「ジョン、反対からまわれ」

「イエス」

 ジョンが手前の廊下を右に消えた。



 通訳が紅茶を淹れてきた。

 おれとマッカーサーの前に置き、ふたたびちょこんと座る。


「まあどうぞ。毒は入ってませんよ」

 おれは勧め、ひとくち飲んだ。


「だとしたら、原子爆弾は、戦争に使うべきじゃない」


 ようやく、マッカーサーがその認識にたどりついた。

 おれはそれを待っていた。


「おれもそう思います。だが、このままじゃ日本は使ってしまう。アメリカもそうなると開発を急ぎ、報復するでしょう。それが怖いから日本はさらなる絨毯爆撃を行うし、アメリカもやる。それだけじゃない、ドイツもイタリアもイギリスもロシアも……」


「そして、木とこん棒の世界になる……か」


「だがチャンスはあるんです。おれは半年後、核実験を行います。世界に原子爆弾の恐怖を見てもらうためにね。そしてその後、両国が講和のための話し合いを行うのです。それまでに、おれは日本の世論を、閣下はアメリカの世論を導いておくのです」


「そんなこと、いっかいの軍人である私には無理だ」

「おれだって軍人ですよ」


 おれたちはようやくほんの少し笑顔になった。


「ん?」


 廊下でなにやら物音がした。

 ぼそぼそと声がしたかと思うと、どすん、となにかの倒れる音。


「なんだ?」

「見てきましょう」


 通訳がいそいで立ち上がる。


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