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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
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真珠湾攻撃当日

●9 オヤジは戦記物がお好き¬


 ローカル線の電車がふるさとの駅に着いた。


甲浦かんのうら、甲浦ぁ~」


 車内アナウンスに顔をあげると、車窓からの陽射しが目に入る。強いが、なつかしい太陽だ。わざと顔いっぱいに浴びて、目を覚ました。


 圧縮空気の音がしてドアが開かれる。一週間分の衣類がつまった大きなスポーツバッグをかつぎあげ、かげろうに揺らぐ単線の狭いホームに降りたった。故郷の匂いがして深呼吸してしまう。

「はあああ!」

 両手にげんこつを作り、背筋を伸ばしては身体をほぐす。


 駅といっても、田舎のことだからごく簡単なものだ。ホームのはじっこに三角屋根を持つ小屋みたいな建物があって、改札からほんの数メートルあるけば、そこはもう駅前の石畳だった。


 「霧島さんとこのボンやない?」


 あっというまに知り合いにつかまってしまった。


はたけおばちゃん……まだ歩き出して一分すよ」


 はたけというのは苗字じゃない。苗字はわすれてしまった。畠をやってるおばちゃん、くら

いの感じで、小さいころからずっとそう呼んでいる。


「よう戻ったねえ。遠かったやろ」

「はい、八時間す」

「ありゃあ、そうかいな」


「大学の駅から、始発で出発して飛行機に乗って、何十こも駅を超えて、やっと今の時間に到着です」

 ふるさとに着いた安心感からか、おれは饒舌になっていた。

「聞いてるだけで疲れよるわ。またウチにも遊びにおいでな」

「あんがとう」


 ひとけの少ない田舎道を川沿いに二十分ほど歩き、海岸通りに出る少し手前を、山の方に折れた先におれの実家があった。


 伝統的な漁師の家。広い縁側の、軒には干物がたくさんぶら下がり、玄関横には魚を洗ったりする洗い場がある。その小窓から見える庭先の小さな野菜畑もそのままだった。


「ただいま~」

 奥に向かって声を張りあげると、おふくろがパタパタとやってきた。

「ああおかえり!」

 古びたエプロン姿で、シワの中に満面の笑みをうかべている。


「今着いたん?つかれたやろ」

「オヤジは?」


 でかいスポーツバッグを勢いよく置いて、畳に寝転がる。


「組合の寄り合いや。晩御飯までには帰るて」


 そう言いながら冷えた麦茶を座卓の上に置くおふくろを見て、少し白髪が増えた気がした。

 おれは寝転んだまま、


「あ~、やっぱ畳はええわ」

 と、畳の匂いを愉しんだ。


「ちっと休んどり。すぐお風呂入れるでな」

 おれは携帯をとりだし、電波を確認してみる。


 思った通り、圏外だ。


「やっぱ電波来てねえし」

「あ、ケンちゃんの部屋に、古雑誌置かせてもらっとるけど、ゴメンね。次の組合の回収で出すんよ」

「ああ、ええよ」


 携帯をポケットに入れながら答えた。

 それでも、おれはこの生まれ故郷が好きなのだ。


 田舎の漁師町。ひとことでいうとそれだけだが、なにより自然にめぐまれ、人もやさしかった。

 都会の大学にいると、少しずつ失っていく自分の居場所みたいなものを、ゆっくり取りもどすことができた。




 その夜、あいかわらず漁師ひとすじのオヤジが帰ってきて、ささやかな宴が開かれた。やがて、近所の人もおれの顔を見にやってくる。


 ほどよく酒に酔い、久しぶりに自分の部屋に敷かれた布団にくつろいだおれは、なつかしい子供時代や、大好きだった飼犬の写真を見て過ごし、やがて、かたわらの古い雑誌の束に目をやった。


 ひまにまかせて漁ってみると、古いファッション誌や組合誌に混じって、今まで見たこともない、昔の戦記物が何冊か出てきた。


『日本の戦闘機』

『太平洋戦争秘録』

『航空母艦』

『真珠湾攻撃と航空機動部隊』

『ミッドウェー海戦の真実』


 へえ、オヤジ、こんなの読んでたのか……。


 戦後まもなく作られた書物には、今ではあまり語られない視点もあって意外にも面白かった。特に開戦時の勇猛果敢な兵士たちの物語にはわくわくさせられた。

 おれはぱらぱらとめくりながら、これってうまくすると、世界史ゼミの論文のテーマに出来るかもしれないな、と考えていた。

 おれは旅の疲れも忘れて、遅くまでそれらの本を読みふけった……。




 ピリリーーーーーーー!

 起床の笛が鳴り響いた。


「総員おこし!」


「うおっ!」

 ぱちっと目が覚めた。


 南雲っちはたぶん、ずっとこういう生活をしてたんだろう。それほど苦も無く、身をおこすことができる。


 ギシギシ鳴る鉄パイプ製のベッドから素早く降り、部屋内の洗面で顔を洗うと、めちゃくちゃ冷たい水だった。

 当番の兵士が、ピシッとアイロンのあてられたシャツと、朝食を持ってやってくる。

 朝食をとり、昨日着ていた黒い軍服を羽織ると、艦橋に向かった。


 さあ、いよいよだ。

 南雲中将としてのはじめての朝。

 そして、今日は大日本帝国連合艦隊が、アメリカ合衆国ハワイ州真珠湾基地を奇襲攻撃する朝なんだ。


「おはようございます!」


 参謀や司令官たちはすでに来ていて、口々に挨拶をよこしてくる。狭い艦橋は十人ほどの人間でいっぱいだった。

 窓から見える外はまだ真っ暗で、眼下に広がるのは闇。そのむこうには、星のまたたきが少しだけ見えた。

 この昏い闇の中で、空母、戦艦、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、など、そうぜい三十隻以上もの大船団が、満を持しておれの命令を待っているんだ。


 敵に見つからないための僅かな明かりの中、艦橋にいる人間をみわたして、おれは胸をはった。

 全員がおれに注目する。


「さあ、始めようか。その前に、ひとつ気合を入れて各自決意表明でもしようぜ」

「それはいいですね!」

 ぱっと顔を輝かせて草鹿が言った。


「んじゃおれから行くぞ。真珠湾攻撃艦隊司令長官・南雲忠一である!われわれは今日アメリカに対し、歴史上はじめてノーを突きつけ、最初にして最大の攻撃を行う。諸君らの奮起を期待する!」


 あれ?なんかオヤジっぽい(笑)

 ……だいぶ南雲っち出てきてるよな。

 記憶って、こういうボキャブラリーにも出てくるんだな。

 おれに続いてみんなが順番に名乗りをあげだした。


「参謀長、草鹿龍之介、必ず勝ちましょう!」

「主席参謀、大石保おおいしたもつ、おう!やろう!」

 大石ってのはなかなか勇猛そうだな。

 おれって、参謀連中の中でも、どうやらこの二人――草鹿と大石の言うことをかなり重視してたみたい。おれの中の南雲っちがそう言ってる。


「航空参謀、源田実、正々堂々勝つでえ!勝って早う酒が飲みたいわ!」

 いっせいに笑いがおこった。たぶん酒好きなんだ。

 それに源田って男前だね。なんとなく、昔の武士のイメージだ。


「同じく航空参謀、吉岡忠一、やるだけです」

 お、彼、おれと同じ忠一っていうんだ。顔も四角くてなんかキャラかぶってない?ま、こいつのほうが落ちついてるかな。


「航海参謀、雀部さきべ利三郎です。ハワイの波は高いが、なに、世界の海はどこまでもひとつです」

 一同が笑う。背がひょろりと高くて、なかなか面白いやつだな。


「通信参謀、小野寛次郎、よろしく」

 あ、こいつが通信の責任者なのか!この戦争は暗号が解かれたことに大きな敗因があると言われてる。だからおれっちとしちゃ、通信に関してはこれ(真珠湾)が終わったら、すぐにでも重要な進言をしなきゃならない。よく覚えておこうっと!


「機関参謀、坂上五郎です……」

 みなが次の言葉を待っている。

「……って、ないのかよ!無口すぎんだろ!」

 おれは思わずつっこんだ。

 坂上はにこりともせず、頭を下げている。

 ……あ!

 発電機点検してた木村が言ってた、技術畑で頭のいい少佐って、こいつだ!

 なるほど、いかにも技術者っぽい。

 あとまだいるな。


「赤城艦長、長谷川喜一です。」

 へえ、この艦の艦長って、おれとは別にいるんだ。

 階級章を見ると大佐だからみんなより少し偉い。

 ま、おれは中将だから、一番上なんだけどね。


 そのほか、連絡係の者や海図担当なんかのものもいて、狭い艦橋にはマジで人がいっぱいだった。

 ひととおり点呼が終わり、艦橋は一気に活気にあふれた。

 それにしても人がいっぱいだなあ……。

 こんな司令塔みたいな構造物は、もっと大きくつくれよ、と思うが、弾が飛び交う戦場ってのは、やっぱ的を小さくするのがセオリーなんだね。


「ようし!みんな聞いてくれ!」


 おれは生徒にむかって話しかける教師のつもりで、みんなを見わたした。


「今日の攻撃の優先順位を決めておきたい。航空参謀は特によく聞いておいてくれ」


 大事なことは、わからせるために、ゆっくりしゃべる。

 授業のコツだ。

「目標は敵空母と戦艦、つぎに、格納庫にある戦闘機、それから、爆撃機の破壊だ」

 反応を待って、つづける。


「そして最後は、修理工場と石油タンクだ。これをやっておけば、当分は枕を高くして眠れる」

 自分で言っててなんだけど、枕たかくってどういう意味?

 みんなは黙って聞いている。


「いいか、特に空母はかならずやるぞ。いなかったら探して追いかけてでもこれをやる。これだけは覚えといてくれ」

 おれのなみなみならぬ決意がわかったのか、全員が大きくうなずいた。


「んでもって、絶対気を抜くなよ。おれたちには真珠湾攻撃のあとにも、重要な任務がいくつも待ってる。これは第三次攻撃・・・・・の後で、諸君らと会議を行うから、そのつもりでな」


 みんなが息をのんだ。


 実は、南雲っちの記憶でも、今回の真珠湾攻撃で正式に指示されているのは第二次攻撃までだった。

 史実でもそうだったはず。

 真珠湾攻撃は第二次攻撃までしかやらず、それが現代の批評家たちからは中途半端だと批判されていた。

 これは確かにそうで、このときの南雲っちは反撃をおそれて基地の破壊をある程度でやめてしまったし、そのため備蓄石油や修理工場が温存されてしまった。


 おれから、今予定の二次ではなく、三次攻撃までやる、という宣言をされ、しかも、まだ自分らが聞いてない任務があると言われたのだから、参謀たちが緊張したのも無理はなかった。


 それに、いつもは鈍重な印象の南雲っちが、こんなにしゃべるのだって、違和感ありまくりなのかもな。

 

 うん、ここらで好感度あげておくか……。


「それとこの際言わせてくれ。草鹿、それに大石、参謀のみんなも!君らにはいつも助けてもらってたよな。マジ感謝してるよ。ありがとう!」


「長官!」


 おいおい草鹿、もう泣くのか?

 気が早すぎだろ。

 他のみんなも嬉しそうにおれたちを見ている。

 この時代の軍人って、人情家なんだねえ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今更だけど、口調とか大丈夫なのかな。 マジとか絶対伝わらないと思うんだけど笑
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