表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
87/309

おれ氏、覚醒する

●10 おれ氏、覚醒する


「また雷跡らいせきです!」


 見張員が叫ぶ。おれは窓から海面を見る。

 こちらの右舷にむかって、何本もの敵の雷跡が迫っていた。

 まだ距離があるのか、それぞれ三十メートル以上の間隔がありそうだ。


「おれがやる!」


 ああっ?!

 おれなに言っちゃってんの?!


 同じく窓を必死の形相で見ていた勝見が、ふりかえる。


「お願いします!」


 えええ?マジかよ!

 おれは四方がよく見えるように艦橋の中央に立つ。

 左手で計器机の角を持ち、しっかり両足をふんばった。


「行くぞ操舵長!」

「はいっ!」


 航海長もコンパスを握りしめている。


「前進全速、取舵いっぱあい!」


 おれは敵水雷の進路を読み、間隙を縫うように航行指示をする。

 エンジンが高鳴り、艦がゆっくりと右に傾く。


面舵おもうかあじ!半速」


 ふっと浮く感じがあり、今度は左にGがかかる。

 時速四十ノットもある水雷を避けるのは並大抵じゃないが、おれならやれるという、奇妙な自信があった。

 艦がまっすぐになったタイミングで、また令を出す。


「前進全速」

「水雷来ます!」

取舵とおりかあじ


 遠心力が右に左にかかり、身体をささえるのがつらい。


「回避~~~~っ」


 必死の回避航行が続いた。

 三度目の水雷を、またギリギリですり抜ける。


「神業だ……」


 誰かのつぶやく声がする。

 一瞬ほっとするが、まだまだ安心はできない。

 雷跡の間隔はどんどん近づいてきている。

 これは敵が近づいてきている証拠なのだ。


 ドンドンドンドンドンドン!


 敵の艦隊が白煙をあげ、一斉砲撃をはじめる。


 バシャアアアアアァァァァァァァ!

 ドバッシャアアアアアァァァァァ!


 すぐそばでいくつもの巨大な水しぶきが上がる。

 じっとしていては、撃たれてしまう。

 早く敵砲弾の散布界から脱出しなければならない。


「勝見、つっこんで爆雷で攻撃するぞ!」

「はっ!」


 おれの脳裏に敵潜水艦の動きが浮かぶ。艦後方を沈ませ、角度をあわせてこの艦に魚雷を発射してきている。やっつけるには敵の海域に近づいて爆雷を落とすしかない。


「水雷発射音に注意せよ」


 だが今は敵の水雷と砲撃を避けることが先だ。

 雷砲を避けつつ、だんだんと近づいてやる。


 知らぬ間に真上に陣取り、あとはありったけの爆雷を落としてやる。そのときの深度はおそらく百から百五十か……。


「取舵」

「面舵」

「前進全速」


 おれが操舵をやっているあいだ、艦長の勝見は艦橋の天蓋から頭を出し、敵の動きを見ては、砲撃長に指示している。彼も落ちつきを取りもどしているようだ。


「砲撃用意、――」


 ドンドンドンドンドン!


 しかし、むこうの砲弾もどんどん迫ってくる。


「敵艦隊は軽巡一、駆逐艦二、このままでは囲まれます」


 航海長が叫ぶ。

 もしも囲まれて砲撃されれば、どうしようもなくなる。


「勝見、軽巡を狙え」


 幸い、敵には航空機はいない。

 とにかく見える敵への反撃をやるのだ。


 ドンドンドンドンドン!

 ドンドンドンドンドン!


 前後の十二・七センチ連装砲による砲撃が行われる。


 ドバアアアアアアアアアアアン!


 ぐらあっと艦が傾く。水しぶきが凄い。

 艦橋にもざばあっとかかり、潜水艦のようになる。


 防ぎ、戦うといえども、多勢に無勢だ。

 さすがに……もう、だめかも……。


 必死に計器机につかまりながら、おれは海上を見つめていた。


 すでに敵の潜水艦は見えない。水平距離五百、深度五十ってところか?つまり爆雷の投下にはまだ少し早い。


 敵艦隊はもう肉眼でも見える距離に近づいている。

 遠くに見えるあの巨大な一隻が軽巡洋艦だろう。

 艦隊三隻は散開して、砲撃を雨あられと打ち込んできている。


「水雷発射します!方位九十距離千」


 勝見が言うのを見て速度を落とし、発射を合図に、ふたたび全速をだす。


 ドバシャアアアアアアアン!

 ザバッシャアアアアア!

 バシャアアアアン!


 また砲弾がばらばらっと至近距離に落下して、艦がもみくちゃになる。

 その拍子に倒れ、肩を計器の角にしたたかに強打する。


「ぐうっ」

 ごりっと嫌な音がして、右手が動かなくなる。


「航空機が来ます!」

「なにっ!」


 なんと、空母がいたのか……。

 絶望の文字が浮かぶ。

 このうえ、空母が来て航空攻撃を受けたら、ひとたまりもない。


 だが、なんという空母だ?

 イギリスとは停戦中だからハーミットじゃあない。

 ではアメリカの新造船か? ついに製造チートに突入したのか?

 週刊空母とか、あいつら、無敵だな。


 いや、もういいよ。

 南雲ッち、アンタは十分やったよ……。

 後悔はなかった。

 今までせいいっぱいやってきた。

 もうこれで、さよならだ。

 あとは頼んだぞ、草鹿、大石……。


「日の丸です!」


 勝見が天蓋からひっこめた顔をこちらに向けて叫んだ。


 ……え?


 窓を見る。


 ほんの百メートルほどの距離を轟音をあげて飛行機が通り過ぎた。


 双発、葉巻のような胴体。

 あれは……一式陸攻だ!


 誰かが叫び、そしてそれは声にならない歓声となって一気に艦橋が活気づく。あちこちで味方、とか日の丸、とかつぶやいている。


 おお!はやぶさもいるぞ!


「援軍です司令官!」


 見ると、勝見も笑みを浮かべている。


「マジかああああああ!」

「マレーのコタバル飛行場からの援護が来たんですよ。その数約百です!」

「百かあああああああ!」


 中には気が早くバンザイを叫んでるやつもいる。

 たしかにその予定にはなっていた。しかし、なにもこのタイミングで……。


 グオオ……オオオ……オオン!


 海の底から鈍い爆発音が鳴りひびいた。


「今度はなんだ?!同士討ちか……?」

「わかりません」


 大きく船が揺れる。


「海中でなにかが爆発したようです」

「海中……?」


「入電!」

 伝声管の係が叫ぶ。

「コレヨリ草鹿隊加勢ス」


 ……なんだと?

 草鹿……?

 そうか!


 ようやくさっきの海中での爆発に意味が理解できた。

 草鹿の潜水艦隊が来てくれたんだ!


「草鹿かあああああ……」

 おれは肩をおさえてへたりこんでしまった……。


 この海域を俯瞰する少し離れた場所で、無電を打った伊十六號艦隊草鹿艦が、その司令塔を海上に現わしていた。



 海域にはもやのような硝煙の煙と、真っ二つにちぎれた浦風があげる黒煙の中、重油の匂いが立ちこめ、海上には浦風の乗組員が数十ずつの塊になって浮かんでいる。


 米軍の艦船は軽巡洋艦が撃沈し、二隻の駆逐艦は機銃攻撃を受けながら逃げてしまった。いまごろはマラッカ海峡をインド洋へと遁走していることだろう。


 ここでも航空機は圧倒的な威力を発揮したのだった。空母のない彼らはこちらが駆逐艦だけと見て、潜水艦と軽巡洋艦艦隊による決戦を挑んで来たが、草鹿艦隊の奇襲と、百機を超える飛行機に成すすべもなくやられてしまった。


 どうやら、おれはぎりぎりのところで、生き残ったのだ。


 草鹿の潜水艦が近寄ってきた。


 ハッチを開け、甲板にあのなつかしい笑顔であらわれる。手に帽子を持ち、ちぎれるほど振っている。

 残り四隻の伊號潜水艦が二隻の駆逐艦を取り巻くように浮上し、その上空を陸軍の一式戦闘機が旋回している。


 おれは肩を抑え、兵士に支えられてなんとか甲板に出る。


 奇跡的にも、谷風には被弾がなかった。


 おれたちは、前後が分断され今にも沈みそうな浦風に近づき、こちらの胴体を寄せて遭難者をつぎつぎに救いあげていく。


 戦闘はようやく、おわったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ