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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
86/309

死ぬしかない

●9 死ぬしかない


 三日後……。


「さあ次の人、来なさい」


 おれたちは狭い艦橋前の甲板に畳を三枚敷き、格闘技に嵩じていた。やっぱ南雲ッちは柔道の達人らしく、そこにおれの現代人的格闘技知識を併わせて、若い兵士とも結構いい勝負になった。


「ルールは蹴りあり、殴るなし、関節か絞めでの参った合戦な。ただし本気は出すなよ」

「勉強させていただきます! いやああ!」

「ローキック!」



「いました!距離千……駆逐艦二隻です!」

 一キロ先の海域を、日本の小さな駆逐艦が二隻、黒煙をたなびかせて航行していた。


 アメリカ合衆国ガトー級潜水艦グロウラーの司令塔で、潜望鏡をのぞきこんでいた白人の兵士が、緊張した面持ちで報告を行う。


「間違いありません。内閣戦時執務室から連絡のあった、ナグモの船でしょう」


「二隻か……」


「はい。駆逐艦二隻、速度二十ノット、おそれくあのどちらかにナグモが乗っているものと思われます。……いま撃てば確実に当たりますよ。どうしますかギルモア艦長」


 ベテラン壮年のギルモアは、顔をひきしめた。


「いや、二隻なら、攻撃すればどちらかを逃がすことになる。失敗は許されんのだフレンドル大尉」


「それでは、直線上に二隻を補足し、浮上して全砲門で同時攻撃を行いますか。それなら同時に撃沈が可能です! 発見されるリスクもありますが、見つかるころには沈めてますよ」


「駆逐艦の間隔は?」

「おそらく……三百から五百」

「よし、ではそのように進路をとれ」


「わかりました……深度三十、面舵!」

「深度三十、面舵」


「しくじるな……ナグモはどんな犠牲をはらっても倒さねばならん相手だ。通りすぎたら追いつけん。チャンスは一度きりだ」


 潜水艦グロウラーは静かに進路を変えていく。



「あいたた。殴るのなしって言ったろ」

「す、すみません!つい……」

「……ふう」


 やっぱり年には勝てませんでした!


 若い連中はやっぱ順応性高いよね。さっそくおれの考案したルールにも慣れて、意外に本格的なMMAぽい動きをしている。そもそも、みんな足腰が丈夫だし、中には高専柔道や空手をやっているものもいて、ぶっちゃけかなり強い。


 それにしても、この揺れる船で、よくまあキビキビと動き回るな……。


 おれは畳のそばに置かれた木の椅子にすわって、目を冷やしていた。


「まあいいや。ホレ、次はおまえだろ」

「あ、はい……ようし、いくぞ!」


 おれは駆逐艦の鉄柵に寄りかかった。

 太陽を浴びて、空を見上げる。


 あんなに五月蠅かった掩護の艦載機も帰って、空には雲一つない青空が広がって波も静かだ。


 ずっとこんなだと、海もいいんだがなあ……。



 日本の駆逐艦二隻が並走する中、米潜水艦グロウラーは慎重にまわりこんでいく。


 ほぼ二隻をその射線上に補足すると、一気に排水し浮上する。


 海面に黒い影が見えたかと思うと、盛りあがり、ざあっとかき分けるようにしてその姿を現す。



「おい!」

「あれは?」

「なにっ!」


 艦橋後部が急に騒々しくなって、おれは思わずふりかえる。


 見ると艦橋後方の二十センチ双眼鏡で、海域を警戒していた兵士が、なにやら叫んでいる。


「おい!どうしたあ!」

 おれに気づいた兵士が、身をのりだす。


「二時の方向に潜水艦です!敵かもしれません!」

「なにっ!」


 この海域に潜水艦だと……?

 あわてて目の前の若い兵士たちに声をかける。


「おい!休憩は終わりだ。もどれ!」

「は、はい!」

 畳を片づけにかかる。

「急げ!」


 着がえるひまもない。

 おれは傍らにあった上着をひっつかむと、艦橋の司令室に駆け上がった。


「敵かっ?距離は?」


 双眼鏡を持つ艦長勝見に尋ねた。


「敵の潜水艦です。距離二千!」

 そう答えた勝見艦長は、かたわらの連絡員にもするどい声をかける。

「……浦風にすぐ打電してやれ!」


 勝見が右舷の窓を双眼鏡で見ている。

 数百メートルの間隔を開けて並走する浦風のむこうに、たしかに、敵らしき潜水艦の影があった。


 すでに浦風の甲板でも、あわただしく兵員が動きまわっている。

 通信員が浦風のマストを見る。


「信号マストに通信があがりました。敵潜水艦見ゆ。ワレヨリ方位四十」

 まちがいなく敵の存在に気づいていた。


 われわれも急いで戦闘態勢を整えねばならない。


「砲術長砲撃用意せよ」

「砲撃用意!」

「水雷長、発射準備」


雷跡らいせき~っ!」

 誰かが大声で叫ぶ。

「敵の水雷です!」


 あの潜水艦から魚雷が発射されたのだ。


「航海長、取舵!」

 勝見が伝声管を掴み指示を送ると同時に、ぐうっと船が傾く。


「二時の方向、水雷が六、いや八、そ、それ以上です!」

「かわせっ!」


 エンジンが唸りを上げていく。

 近くの机につかまり、衝撃にそなえる。


「くるぞ~~~~っ!」


 艦橋右舷の窓を凝視する。


 白い軌跡が扇のように広がりながら近づいてくる。


 このままでは、どう考えても最右の一本は当たる。


「衝撃にそなえろっ!」


 全身に力を入れる。


 ガアアアアアアアァァァァァァァン!

 ド―――――――――――――――――ン!


 なぜか、魚雷による爆発はなかった。

 だが、右舷後方二十メートルの海上に水柱が上がり、転覆するかと思うほど船が左に傾き、甲板に、ざばあと大きな波がかかる。


「どうしたっ!」

「助かりました。船体で水雷の頭をはじいたんでしょう」


 え? そんなことがあるのか……。

 ……。

 いや、ある。

 南雲ッちの記憶がよみがえる。


 水雷戦ではかすめるようにやってくる魚雷の頭が船体にはじかれて、直撃を免れることがよくあるのだ。


 てか、それって当たってんじゃん!!!!


 ドオオオオオオオオオオォォォォォ!


 新たな爆音に驚く。

 音のした遠右の方向を見ると、並走していた浦風が黒煙をあげ、蒸気を噴き上げている。


「う、浦風がやられました!」


 船体のど真ん中に直撃を受けたようだ。


 船幅が十メートルしかない駆逐艦なのだ。戦艦と違って装甲も厚くないし、一発の被雷が致命傷になる。なにより、航続距離が特徴のこの駆逐艦は、六百トンもの重油を積んでいる。


「潜水艦を撃てっ!」


 ドンドンドンドンドンドンドン……


 前部の十二・七センチ連装砲が火を噴く。

 砲あたり六秒で連射、三百発の装填ができる。三門あれば九百発だ。


 だが、こちらも動いているなか、正しく当てるには時間がかかる。


 敵潜水艦が急速に潜航していく。


 こうなっては一対一だ。海中からまた魚雷で狙われることになるが、こちらにも爆雷がある。


「レーダー、電探はどうだっ!」

 おれは思わず叫ぶ。


「反応あり!」

 連絡員が顔をあげる。

「七時の方向!」

「え?」

「七時だ、と?」

 思わずふりかえる。


 勝見が走り、双眼鏡で見る。

「なにかいます! 上に訊いてこい!」

「はっ!」


 兵員がラッタル(はしご)を駆けあがり、二十センチの水雷双眼鏡を確認しにいく。


「敵艦隊です!距離二千五百」

「艦隊…?!」


 僚艦はおそらくもう動けない。

 海の中には敵の潜水艦。

 そして新たな敵が出現、それも艦隊だという。

 とうぜん、味方はいない。


 油断してしまった!

 なんてこった!

 これじゃまるで……。


 まるで……

 ……死ぬみたいじゃないか!

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― 新着の感想 ―
[一言] この時期のアメリカの欠陥魚雷にやられるとは浦風、運の悪いやつ。
[気になる点] 米帝の不発魚雷が作動した、だと?
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