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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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南南西に進路をとれ

●4 南南西に進路をとれ



 ジョン・D・バクルリーは、上下動の激しい船の操舵室にたち、苦労して双眼鏡を目に当てた。


 前方の波打つ海に、航行を邪魔するものはなにもない。


 船――マッカーサー司令官とその家族が乗船した魚雷船PT―40――は、朝の海上を跳ねるように航行していた。


 全長二十メートル、木造で軽く、速力が四十ノットも出て、しかも機関砲や魚雷を搭載して攻撃ができるという、機動力と攻撃力に特化した頼もしいボートだ。夜戦にも強く、聞くところによると日本からは『夜の悪魔』とおそれられているらしい。


 そういえば、日本にはこういうコンセプトの船はないと聞いている。


 その理由はわからないが、軽くていいエンジンがないのか、それとも漁船のように小さく防御力のない船を軍艦とは認めたくないのか……。


 しかし皮肉だな、とジョンは思った。


 この船は、あのゼロファイターに似ている。軽量、機動力、重武装、ほら、あの憎いゼロファイターのコンセプトとそっくりじゃないか。


『海のゼロファイター』


 ジョンはこの船を、ひそかにそう呼んでいた。


「現在の速度はディック?」

「三十ノットです」


 実際に操舵しているのはディック・グリービーという海軍兵士だ。彼は米国内の陸上大会で、なんども優勝したことがある。


「なあディック」

「なんでしょう?」

「知ってるか? オーストラリアって牛肉がまずいそうだぜ?」


「ええ? そうなんですか?」

「ああ、カンガルーかワニしかなくて、牛はほとんど乳牛だってさ。ほら、そういうのって乳を搾ったあとの年よりの牛だろ?」


 ジョンは笑って双眼鏡を外す。


「だから、固くてまずいんだ」

「オレは肉ならなんでもいいですよ」

「切って焼いたら固くて曲がらないステーキだぞ?」

「うわあ。それはアゴが痛くなりますね」


 二人はのんきに笑いあう。

 ついさっき、命からがら日本の戦闘機から逃げだしてきたとは思えない。

 やはり、二人ともそれなりの修羅場はくぐってきた度胸があった。


 フィリピンのコレヒドール要塞を三隻で出発した脱出隊は、早々、護衛機が日本からの攻撃を受け、撃墜されるというピンチに見舞われた。


 最初は脱出船が目当てかと青くなったが、幸い、敵は味方機との空戦をするだけで、特に海上に注意を払ってはなかった。


 航路を決定するジョンはすぐさま三隻の散開を決め、みずからは前方二隻のあとから、航跡をのこさないようにゆっくりと航行させ、おかげで敵に見つかることもなく、ここまでやってきたというわけだ。


 現在、この船にはジョンたち五名の将兵と、あとはマッカーサーと家族、随伴のサザーランド中将だけが乗っている。将兵は操舵室か、警戒や砲撃のために外に出ているから、狭い主船室には彼らしかいない。


 目的地はミンダナオ島デルモンテにある航空基地だった。なぜなら、B―17を離着陸できる空港は、フィリピンに二つしかなく、そのひとつがデルモンテだからだ。


 基地でフィリピン大統領のケソン氏と合流し、一行はオーストラリアに脱出しなければならない。進路は沿岸を避け、岸の見えない外洋を通る約四百三十海里のコース。このPT―40が、ぎりぎり一回の燃料補給で到達できる距離だった。


「そろそろ全速を出したいなディック」

「そうですね。急がないと日暮れにはつけません」

「もうジャップの戦闘機は来てないだろうな?」

「後方はウィロビーが監視しています」


 ジョンは操舵室の窓から顔を出した。


「おーいウィロビー!」


 後方を警戒する仲間に叫ぶ。


 海上はエンジンと波の音が激しく、大声をあげないと通らない。


 波にぶつかるたびに、船は上下に激しく跳ねた。


「なんでしょう!」


 ウィロビーと呼ばれた男は、大きな双眼鏡を首から下げ、船から後方に突き出た大きな機関砲にしがみついていた。


「敵機は見えないか?」


 念のため、もう一度後ろの空を双眼鏡で確認する。


「はい。見えません中尉!」


 操舵室にもどり、操舵を握る将校に声をかける。


「大丈夫だディック、そろそろ全速にしよう。司令官に声をかけてくる」


「イエッサー」


 ジョンは操舵室の後ろの船室をノックした。


 いいわけのような、簡単なつくりの鉄板のドアが取りつけてあった。


「なんだ」

「失礼します」


 ドアを開け、中をのぞくと、そこにはマッカーサー司令官と、その家族がいた。


 司令官のとなりには妻のジーン、その懐にまだ幼い息子アーサーが抱かれている。


 隣りには、サザーランド中将もいる。


「司令官!そろそろ全速に移行します。揺れますのでお気をつけください」


「うむ」


 ダグラス・マッカーサーは、どういうわけか、軽装ではなく、きちんとした軍装を身に着けていた。


 ジョンが腕時計を確認すると、出発からまだ二時間しかたっていない。


 ミンダナオ島までは四百海里以上あるから、まだ十時間はかかる計算だ。先は長い。


(司令官はやや青い顔をされているようだ。揺られるのには慣れておられないのだな)


「申しわけありません司令官、ご気分は大丈夫ですか」

「大丈夫だ中尉」


 妻の肩を抱きよせて、倒れないようにしている。


 ディックがゆっくりとエンジンを全開にさせていく。


 船首が徐々にあがり、上下動が激しくなる。


「それではしばらくご辛抱ください司令官」


「うむ。警戒をおこたるなよ中尉。この船にはレーダーは装備してあるか」


「もちろんです司令官、航空用ですが使えますよ」


「よろしい。では職務を果たしたまえジョン」


「イエッサー」


 操舵室にもどり、レーダー要員に変わりがないかを聞く。


「前にも注意をなブレリ……」

「……」

「?」


 要員がレシーバーで耳をしっかり抑え、方向と角度を調整している。


 なにかあったかと、自分も前方を見つめるが、なにもない。


「……中尉」


「なにかあったかブレリトン?」


「前方の空にいくつかの反応があります」


「エンジン停止!」

「エンジン停止します」


 船がゆっくりとエンジン音を下げ、水平になっていく。かなり離れたところを航行していた追随の二隻からも、エンジン音が小さくなって停止するようすが聞こえてくる。


「どうしたジョン」


 後方のドアが開いて、マッカーサー司令官が顔を出した。


「なにかあったかね」


 随伴のサザーランドも緊張した顔をしている。


 ここらで敵の潜水艦や、駆逐艦と遭遇したら、万事休すだ。


「お待ちください」


 そう言ってから、ジョンは後ろをふりかえった。


「どうだブレリトン?」


「やはり……空ですね。このようすだと、通過予定だったコロン島との海峡の空に、いくつもの航空機が飛んでいると思います」


「なぜ、やつらにこの航路がわかったんだ……?」


 ブレリントンは答えない。

 もともと彼に訊いたわけでもなかった。


 ジョンはズボンの尻のポケットから海図をとりだし、計器の上にひろげた。


 わざわざ沿岸を避け、コロン島とミンドロ島の間を抜けて、ミンダナオに向かうつもりでいた。それが一番見つかりにくいと判断したからだが、なぜかこのコースは敵に察知されて航空機が海峡を封鎖している。


「よし、コースを変更しよう。南南西に進路をとれ。コロン島の西から南へ向かい、スールー海に出る」


 ジョンは海図を指さした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第3次ソロモンまで電探技術はアメリカでも有視界の鳥海の熟練見張り員よりお粗末ですよ。鳥海の見張り員が9000メートルで発見したのに対してアメリカの電探の有効索敵範囲は6000位でしたので。む…
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