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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
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アッズ環礁包囲セヨ

●39 アッズ環礁包囲せよ


「マッカーサーの航路ハ沿岸ニアラズ……文面はこれでいいんですか?」


「そう、それでいいんだ」


 ここ空母赤城の司令室では、夕陽が窓から差し込み、すべてを真っ赤に染めていた。


 メモを読んだ小野通信参謀が、まぶしそうな目でおれを見つめる。


「沿岸でないとすると、どこなんでしょう?」


「それはわからんよ」


 おれは笑って肩をすくめる。


「いいか、マッカーサーはフィリピンのコレヒドール島からミンダナオ島に向かうだろう。だけど、その航路が問題なんだ。彼らは沿岸部を通らず、外洋を抜けるはず。そのため見つかりにくい」


「はあ……」


 わかったような、わからないような顔で小野がうなずく。


「でもさ、詳しい航路はおれにもわかんないから、あとは山口多聞に任せるしかないんだ」


「なるほど」


「なに、もし見のがしてミンダナオに行ってしまっても、多聞の翔鶴にはレーダーがあるから、飛来するB17には気がつくだろう。重要なのは、そういうマッカーサーの動きをあらかじめわかっていることなのさ」


「ミンダナオに向かう魚雷艇を見つけられなくても、次は航空機、というわけですね。では、翔鶴にはそのように打電しますよ」


「ああ、たのむ。あ、今日の作戦会議は予定通り、一時間後な」

「わかりました」


 実際、おれもこの作戦がうまくいくかどうか自信がなかった。


 なんといっても、広大な海をわずか三隻の魚雷艇で航行してくるんだから、そう簡単に見つかるはずがない。


 山口多聞には、おれの知っているマッカーサーのコレヒドール脱出日程と、それに使われる船の種類を伝えてあるが、ただそれだけだ。どこをどう通るか、いや、それより、本当にこの世界線でも三月十二日に脱出してくるのかは、おれにもわからない。


 もし違っていればどうしようもないので、あとはオーストラリアに向かうB17を撃墜するしか方法がないんだ。


 それはそれで、仕方ないよね……。


 暗号電文を打たせたおれは、司令官室サロンに参謀たちを集め、作戦会議を開く。あいかわらず、艦橋の会議室はレーダー要員が百人以上も詰め、使えない状態が続いているからだ。


 実際、索敵範囲と精度のあがった二基のレーダー運用をはじめてみると、索敵とは別に、その内容を分析したり、すべての通達先に伝達したり、いろんな専門要員が必要になることがわかった。これは人海戦術でしか解決できなかったから、勢い担当官は増える一方だ。


 時間通りに司令官室に行く。


 この部屋は広くはないが、大きな木の机を田の形に四つ置き、もうずっと会議室として使っている。参加者はいつもの参謀連中だが、そこに草鹿はいなかった。


「さて諸君、草鹿に続けだ。イギリスから和議停戦の申し入れがある中、おそらくはこれが最後の対英戦になるだろう。しっかり戦果をあげようぜ。目標はアッズ環礁の破壊と、残るイギリス艦隊の撃滅だ」


 大石、源田、吉岡、雀部、小野、坂上の六名がおれ以外の出席者だった。

 みんな、真剣な面持ちでおれを見ている。


 あいかわらず船はローリングしているが、もうすっかり慣れっこでそれほど気にならない。

 この部屋に窓はなく、夜はいつも電灯が明るく灯されている。


「まずはおれたちの航路だが、艦隊の再編成はおまえらがすでにやってくれ、現在アッズの手前約百五十海里で順調に航行している。ここからはさらに三手に分かれて進むとしよう。これを見てくれ」


 なにより空母は一緒になって行動してもあまりいいことがない。それがわかった以上、そうしないのが当然の作戦だよね。


 みなは、おれの開いた海図をのぞきこむ。

 海図にはセイロンからアッズ環礁までの、四本の航路が描かれていた。


「この空母赤城はアッズの北方百海里で停止、加賀はアッズの西から、瑞鶴は南、蒼龍、飛龍は東から包囲するように近づく、さらに島とそれぞれ七十海里の距離をとること。赤城のレーダーを使って、島を出た艦船と敵航空機のようすは逐一無電で知らせる」


 大石が心配そうに言う。

「そんなことしたら、赤城の場所が知られませんかの?」


「知られてもいいんだ。この赤城の次世代レーダーは、短波のパルス発信方式だから、そもそも二つの包囲測定アンテナがないと正確な位置がわかりにくいが、それに今回はわかったとしても敵からの雷撃、爆撃機があれば直掩機で(おと)す」


「え?そうなんですか?」

 と、雀部航空参謀。


「意外かい?」


「だって長官、ぜったい(おと)すとか、そういう理由のない精神論はお嫌いでは?」


 源田航空参謀もうなずく。


「ですね。長官らしくありません」


「まいったな……」

 おれは笑った。


「みんなも成長したよな。だが、これには根拠があるんだ」


「まさか、またなにか新兵器が?」


 なんだよ坂上……。

 相変わらずの好奇心じゃないか。


 ここのところ、レーダーやVT信管などの新兵器を見ているので、またなにかおれが持ち出すのでは、と思ってるのかな?


「新兵器はないよ坂上。そんな都合よくはいくもんか」

「すみません。長官なら、やりそうで……」


 坂上が頭を掻いた。


「まあこれを見てよ」

 おれは別の紙面を出した。


 そこにはいくつもの時刻と数字が鉛筆で記入してあった。

「時系列と距離、その時の戦闘機の数の推移を表にしたものだ。しっかり計算してさえあれば、常に優位な状況をキープできる」

「?」


「まずだが、この前の戦いで敵には今空母がハーミーズしか残っていないはずなんだ」

「空母は一隻ですか」


「うん、その上、空母ハーミーズの搭載能力は十二機しかない。だとすると、彼らはあわてて護衛機を飛ばしつつ、海洋に出るのでせいいっぱい。あとは基地内の航空戦力だが、おそらく三十機がいいところ」


「なるほど」


「だから、作戦はこうなる。まず赤城から基地爆撃隊が定時に発艦。その後赤城が囮になり、レーダーの電波を発信しながらアッズ環礁に接近する。そのとき、他の空母の戦闘機は直掩機を残してすべてこの赤城の空域に集結させておく。それぞれの発艦時刻はこのとおり、そしてその数およそ百機だ」


「しかし……基地を叩くのは赤城だけですか?」


「本番はそのあとなんだ。敵戦闘機の壊滅を確認したら、包囲した巡洋艦駆逐艦からアウトレンジの砲撃、同時にハーミットへの攻撃、そして、全爆撃隊による攻撃だ」


 時刻表を示しながら、説明していく。


「ははあ、最後に残る本当の狙いは、基地と重巡ですかの……」


「そのとおり」

 おれは大石を見て笑う。


「整理しよう。まず赤城の爆撃隊が基地を奇襲攻撃する。その後敵の攻撃機を赤城におびき寄せ、百機のゼロ戦で叩き落す。艦砲射撃で砲台を沈黙させると同時に沖合のハーミットを攻撃。港に停泊する重巡と基地そのものは、加賀、瑞鶴、蒼龍、飛龍の爆撃隊で完膚なきまでに破壊する」


「おお」


「リスクがあるとすれば赤城以外の空母に敵機の攻撃が集中した場合だが、その時は赤城上空のゼロ戦がその現場に急行すればいい。最南端の瑞鶴までも三十分持ちこたえれば到着するだろう」


「赤城爆撃隊の発艦は明日の0500てとこですか」


 源田が表を見ながら素早く計算する。この赤城だけなら、夜間の発艦はお手のものだ。


「いいね。それでいこう。……どうだい、論理的だろ雀部くん?」

「は。お見それいたしました」

「心配があるとすれば……」


 おれは宙を見つめた。

「あの人だなあ」

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