表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
71/309

雷撃四十発!

●35 雷撃四十発!


哨戒しょうかい長、潜望鏡をあげよ!」


 急速浮上した伊十六潜水艦隊旗艦は、潜望鏡深度を維持し、周囲の把握を急いだ。


「どうだ?」

 係員は潜望鏡で周囲を確認する。


 聴音室からの声を報告を伝える兵が、ふたたび口を開く。


「味方潜水艦、もとい、四隻の僚艦も浮上してくるようです。距離約九百に散開中」


「空母います!」


 潜望鏡係がするどく言った。


「見せて」


 草鹿も自分の目で確認する。

 波間の向こうに敵の空母艦隊が見えた。


 真っ平で大きな甲板、小判型の艦橋、全長が二百五十メートルにも到達する堂々たる姿。

 まちがいない、空母ホーネットだ。


 潜望鏡のむこう、敵の空母艦隊はわずかな速度で遠ざかっていく。

 中央にはホーネット、その周囲を駆逐艦が警戒にあたっているようだ。


 距離約五百。

 方位角左四十度。


 ここからだとよくわからないが、当然哨戒の護衛機も飛んでいるだろう。


 いや、そんなことは問題じゃない。

 これは……。

 この方位と距離は……。

 必中射点じゃないか!!


 草鹿は興奮を必死に抑えて、潜望鏡を離した。


「魚雷戦準備。全砲門開け」


 砲門は艦首に八門装備されている。


 そこから強烈無比の九五式酸素魚雷を最大で二十発、発射することが出来る。


「準備完了」


 味方の準備を待つか……?


 一瞬迷う。


 同時攻撃が効果的なのは、どんな戦でも同じだ。

 だが、そうするためには、もう数分は待たなければならない。

 無線や光通信が使えないこの状況では、準備の可否を問うすべもないからだ。


 だが、足並みにこだわって、時間を無駄にし、そのせいで敵の哨戒機に見つかれば、空母は全速で逃げ出し、駆逐艦は何百発の爆雷を落とすことになる。


 しかしこの艦が撃てば、当然僚艦も同じことをするはずだ。

 旗艦たるこの艦の動きを見れば、各船長の自己判断によって戦闘が進められるし、今もきっとそうしている。


 先手必勝ですよね……合理的に考えて……。

 草鹿はひとりうなずいた。


「……撃て」

「撃て!」


 伝声管の兵が叫ぶ。ほぼ同時に、ズボーン、という重い発射音が

鳴りひびいた。


 ズボーン!

 ズボーン!

 ボーン…!


 合計八発の魚雷が発射された。

 そしてわずかな沈黙がおとずれる。


 到達まで約三十秒。

 いまごろ、聴音室では必死に係がその音を拾っているだろう。

 佐々木半九が潜望鏡をのぞきこんでいる。

 草鹿は耳をすませた。


「……」

 佐々木が息を吸う。


「……命中!……五発!」


 空母艦隊にあがった水しぶきと火煙が、佐々木半九の視界に入ったのだ。


「おお!」


 水中は秒速千五百メートルで音が伝わる。

 ほぼ同時に爆発音が艦内にも伝わってくる。


「静まれ!」


 草鹿が小声で制する。


 グオオオオオン!

 グオ!グオオン!

 グオオ!グオオオオン!


 たしかに、五発だ。


「僚艦、魚雷発射しました!」


 どうやら、心配はいらなかったようだ。


 どの艦も、そして艦長も、日本で相当訓練を重ねてきた優秀な連中ばかりだった。逐一、この艦の動向を探り、予見し、すべて理解していたのだ。


 しかし、安堵しているヒマはなかった。


「深々度潜航!」


 草鹿の声に反応して、艦はすぐさま潜航を始める。


「取舵。その後深度を百メートルに保ち、無音潜航せよ」


 沈む方向を制御して、雷撃発射地点から離脱する。


 ゴウゴウと、他の艦からの攻撃も命中している気配がある。

 そのあとはひたすら爆雷に耐えるだけだ。

 だが、いくらまっても、爆雷の音がしない。


 ホーネットへの魚雷攻撃で、近くに帝国海軍の潜水艦がいることは、もうわかったはず。


 だとすれば、駆逐艦は散開しつつ、爆雷の爆発深度を百~百五十ほどに設定して、あたりの海にばらまく。


 こちらに動きがあれば、その推進音を聴音して、追いかけてくる。わからなければ、爆雷が尽きるまで、投下を繰り返す。


 しかし、さっぱり爆雷の音がしないのだ。


 船内の温度はどんどん上昇する。

 もはや四十度を超えているだろう。


「何分たった?」

「十五分です」

「おかしいよな。こんなに待たせるなんて、どういうわけだろう?」

「わかりません」


「このままではホーネットのようすもわからん。まさか、罠?」

「……」


「そうか……駆逐艦は、そんな状態にないんだ」


 草鹿がぽつりと言った。


「自分たちの潜水艦は全部で五隻、それらが八門の雷撃をしたとすると、合計四十発……」


 草鹿と佐々木は顔を見合わせた。


「せ、潜望鏡深度浮上!」

「浮上します!」


 待ちかねて潜望鏡をのぞきこんだ草鹿に、大破している空母と、すでに傾き、沈みかかっている駆逐艦三隻が見えた。黒煙がもうもうと上がり、水蒸気もあたりに立ちこめている。


「三隻とも命中だ!」

「やりましたね司令官!」


 全長七メートル、重量一・六トンの大型酸素魚雷である。

 それが四十発もやってきたのだ。


「油断しちゃいけない。まだ護衛機だって飛んでる。敵の被害状況を報告せよ。無線を開き、僚艦との連絡を行なうんだ」




「長官! 草鹿がホーネットをやったそうです!」


 レーダー室で電探砲撃のやり方を打ち合わせているところへ、小野が飛び込んで来た。


「マジか!」

「マジです!」


 すぐ上の司令室に向かう。


 そこにはすでに参謀たちがつめかけていて、みんなが興奮しているところだった。


「草鹿やったか!」

「さすが草鹿だ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ