表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
70/309

消去法で考える

●34 消去法で考える


 もう、いつこちらに気づかれてもおかしくない状況になってきた。


 アメリカの駆逐艦三隻は湾を出て、空母の到来を待ち受けるように展開している。こちらはその遠洋わずか約三キロの海中で、五隻の潜水艦が、逆Vの字の陣形で待ちかまえている。


 しかしこのままだと、見つかるのは時間の問題だ。いや、見つからずとも、駆逐艦が邪魔すぎて満足に空母への雷撃は無理だろう。


 そもそも、空母は出てくるのか?

 駆逐艦がこうして警戒している以上、充分安全を確認してから、空母ホーネットは出てくるつもりなんじゃないか?


「湾内の水深はどのくらいある?」

「深くて五十です」


 ならば、危険を冒して湾内に突入しても、空母は沈められない。

 おそらく何発かの雷撃はできるだろう。

 だが、それくらいでは空母は沈まず、逆に浅瀬で爆雷を落とされれば、あっという間に仕留められてしまう。


 では、誰かが囮になってあさっての方向に駆逐艦をひきつければ?

 ……いや、それもダメだ。

 草鹿は首を横にふった。


 もしもなにかがいるとわかれば、その時点で空母は外には出てこない。

 それに、こちらの最高速は浮上時でも二十一ノットしかないのだ。

 囮としては危険が大きすぎる。

 その間に空母をやれるならともかく、出てこない相手に攻撃はできない。


 どうする?

 どうする草鹿?


 事前の作戦では、空母に駆逐艦などの護衛がいた場合、潜水して待機し、攻撃するかの判断は現場にて行うことになっている。しかし相手が駆逐艦の場合、相当深く潜らないと敵に見つけられるし、その状態では、こちらは空母のようすも、駆逐艦の動きも、わずかな音でしかわからないのだ。


 だから、実質的には、あきらめるしかないと思われていた。


 このまま、本当に帰るしかないのか……?


「諜報員からの連絡は一時間ごとだよね」


「はい、一時間ごとにあります。しかし、それを受信するためには、こちらも一時間に一度、浮上しなければなりません」


「うん。今から一時間ごとに浮上して、それを空母が出るまで続けるなんて、無茶だ」


「それに、空母が出てくるころには護衛機が飛んでいます。空からも見つけられてしまいます」


「今の時間は?」

「0625です」


 万事休す。


 あと四時間だとすると、ちょうど視界の良い十時ごろに空母が出てくることになる……。


 そこへノコノコ浮上すれば、すぐに護衛のF4Fに見つけられてしまうだろう。そのあとは、駆逐艦に追い回されるだけの戦闘になってしまう。


 草鹿は知らず知らずのうちに消去法で考えていた。

 では、残る方法は……?


「わかった。じゃあこうしよう。このまま四時間ずっと潜航する。四時間たったら、聴音で状況を把握、ころあいを見計らって一気に浮上。空母に雷撃をくわえて破壊し、その後離脱する。一度きりの勝負だ」


「なるほど、大勝負ですな」

 佐々木半九が目だけで笑った。


 これしかないです長官………。

 草鹿は決断した。



 艦内の温度がだんだん上がっていく。


 現在の深度は五十メートル。


 なんとか海面近くの音を拾える距離だ。しかし、敵の音が聞こえると言うことは、こちらの音も拾われるわけで、そうならないためには、エンジンはもちろん、冷却、送風、すべての音を停止させて文字通り身を潜めていなくてはならない。


 時間が来るまで、なにもすることはないが、かといってシャワーもできず、トイレすら気をつかうのは神経にこたえた。


 佐々木半九を相手に将棋を二番指した草鹿は、その後、握り飯を無理やり詰めこみ、あとはウトウトとして時間をすごした。もうクジラの夢は見なかった……。




 時計が十時十分を過ぎた。


 すでに諜報からの第一報があってから、たっぷり四時間は経過している。


 潜水艦内は蒸し風呂のようだ。


 一刻も早く、浮上したいが、しても今回はゆっくり換気してはいられない。敵の位置確認をして、その方向に大急ぎで回頭し、とにかく魚雷攻撃を行う。そして可能な限り撃ったあとは、すみやかにふたたび潜航するのだ。


 いまごろ、空母ホーネットは湾から外洋に出ているころだろうか。

 それとも、まだ、湾内で護衛機の発艦をやっているのだろうか。


 聴音の兵士からは、頭上の海域で複数の大型船のスクリュー音が聞こえるとの報告があがっている。しかしそれが空母なのか、それとも駆逐艦のものなのかは、わかっていない。


 草鹿はずっと伝声管の兵士をにらんでいる。彼は耳当てを手で抑え、聴音室からの連絡を聞き逃すまいと神経をとがらせる。


 十時二十分……。


「……む!」

 兵士に反応があった。必死で音を探る。

 草鹿は無言でたちあがる。

「……」


「湾の方角から、あきらかに大きな推進音が聞こえます。駆逐艦らしき船三隻は東西に分かれました。西に二隻、東に一隻」


「来たか!」


 司令部のみんなが草鹿の命令を待つ。

 もう浮上すべきか、それとも待つべきか。


 しかし、それは潜水艦にいる誰にもわかりはしない。


 ただ、勝負の機会がただの一度きりで、そのすべてが草鹿の浮上命令にかかっている。


 そのひとことを、総員はシャツ一枚に滝のような汗、そして真っ赤な頬で、ただひたすら待ち続けた。


「大型船動きます」

「距離……五十」

「頭上にいます」


 草鹿が小声で言う。

「総員戦闘配置につけ」

「総員戦闘配置」


 佐々木が同じく小さい声で繰り返している。

 聴音の兵がふたたび告げる。


「大型艦……南へ移動します」


 しばらく、静けさが司令部に訪れる。

 それから、ふたたび草鹿が動く。


「微速回頭せよ」

「微速回頭」


「駆逐艦も行きます」

「離れます。距離……百」

「……」

「距離……百五十」


 後を追う形が望ましいが、全速で湾から離れられると、こちらは追いつけない。まだ速度が出ない今なら、軽い潜水艦の機動力は生かされる。


 そしてついに……。


「よし、潜望鏡深度に浮上だ!」

「浮上!」


 草鹿と佐々木の命令が艦内を駆け巡り、一気に空気が放出され、艦が上昇していく。



 海面がごぼり、と鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この頃の日本潜水艦の潜航深度100m程度だけどね。水中だと10ノットも出ないし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ