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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
65/309

神よ……

●29 神よ……


 ……大艦隊、だと?


「コロンボ港に、でかかったウンチか」

 それを聞いたジョシーがぼそりと言う。


 おっと、坂上がとまどってるな。

 冷静に、冷静に。


「敵の航空機は?」


「いえ、映っていません。おそらく飛んではいないかと」


 緊張した面持ちで言う。


「ふーん……なら、史実通りドーセットシャーとコーンウォールか? いや、それだけなら大艦隊にはなるまい。たぶん、空母もいるんじゃないか?」


「………?」


「いや、なんでもない。源田、重巡利根から九四式水上索敵機を出して。やつらの眼前で引き返し、航空機を誘いだそう。敵が飛んだら、坂上は敵航空機の高度を高度レーダーで割り出して、高空からゼロ戦で叩こう」


「は!」


「それとコロンボ出撃隊は、敵戦闘機を落としつつ引き返させてくれ」


「コロンボはよろしいので?」

「あとで徹底的にやるさ。今はイギリス艦隊の撃滅に集中するんだ」

「わかりました!」




「江草隊より入電!」

 受声機に耳を傾けていた小野通信参謀が顔をあげた。


「なんだい」


 小野が素早くメモをとり、それを読み上げる。


「コロンボ港、重巡コーンウォールに爆弾十八発、軽巡エメラルド同二十二発命中、その他駆逐艦二隻、撃沈セリ」


「そっちかよ!」


 なんてこった。


 イギリス艦隊の重巡洋艦コーンウォールは、コロンボ港にいたらしい。


 しかも、もう江草隊が撃沈したという。


「まだあります。制空隊はハリケーン十四機、スピットファイア七機と交戦し、これを撃墜」


「やりたい放題だな。味方の損害は?」


「は……爆撃機一機、ゼロ戦一機」


 とんでもないな……。


 さすがに二百機近い攻撃部隊はコロンボには贅沢だったかも。


「わかった。攻撃しちゃったんなら、あとは帰還するしかない。でも、まだ弾がある機はこちらの艦隊に攻撃目標をかえさせてくれ。コロンボから南下して、そこから東に向かい東洋艦隊を東西から挟み撃ちにさせるんだ」


「わかりました!」


 そうこうしているうちに、索敵機から報告がある。


「敵艦隊を発見!」

「来たか!」


 これでレーダーで大艦隊と映った影が、実際はどういうものなのか、わかるはずだよな。


「敵は戦艦一隻、空母……」

「空母がどうした?」


 小野通信参謀が青ざめている。

 なんか、イヤな予感がするぞ。


「……空母……三隻! うち一隻はヨークタウン」

「なんだって?!」


 なんとまあ……。

 こんなところにヨークタウンがいるのは驚きだった。


 空母『ヨークタウン』は、あたりまえだが、アメリカの航空母艦だ。


 おれたちが真珠湾からミッドウェーにかけて撃沈した空母は三隻、エンタープライズ、レキシントン、サラトガだった。それと、現在パナマ運河を出てくるホーネットを、草鹿の潜水艦隊が虎視眈々と狙ってる。


 ヨークタウンは、確かに行方がわからなくなっていたんだが、まさか、こんなところにいるとは思わなかった。


「ヨークタウンがここに……」

 もちろん怖いのはヨークタウンじゃない。


 それに搭載されている、F4Fワイルドキャットや、ドーントレスという優秀な戦闘機、爆撃機が脅威なんだ。


「ふむ……イギリスとアメリカはこういう貸し借りをよくやっているからな。なんせ言葉の壁が無いし、さすがは同じ民族だ」


「あとの空母二隻はなんでしょうか……」


「そこまではわかんないが、たぶん、イギリスの空母じゃないか。そんなことより、空母三隻ともなれば、二百機近い航空機がいることになるよな」


「……」

 みんながしんとなる。


 通信と、電探の兵のやりとりだけが、艦橋に響いている。

 マジで爆弾と魚雷の換装をしたくなってきた。

 南雲ッちの気持ちがようやくわかってきたよ……。


「望んでいた通りになったな南雲」


 ジョシーが平然とつぶやいた。

 空気読まないのも、ここまでくると大したもんだ。


 ふっと肩の力が抜ける。

 

「……ま、その通りだな」


 コロンボ港を攻撃している最中に、敵の大艦隊が接近してきた。タイミングは少し悪いが、陽動はそもそもの目的なんだ。


 おれは笑ってみんなを見渡した。


「みんな、聞いてくれ。いよいよ決戦だ。空母対空母、大日本帝国海軍対英米連合軍ってわけだ。だが、こちらには最新鋭の航空機と熟練の飛行士たちがいて、おまけに次世代型レーダーもある。みんなには存分に力を出してもらうぞ」


 そうなのだ、いぜんとして、こちらは圧倒的に有利な状況にある。


 なにより乗員の戦闘経験が違う。むこうにはゼロ戦に勝てる戦闘機もなく、飛行士の経験や練度も違う。おまけにこちらには、目となる次世代レーダーがあって、そのおかげで敵艦隊を見つけることができたんだ。


 おれは自分に気合をいれなおす。


「よし、五航戦はただちに発艦。そのほかも直掩機をのぞく残りのゼロ戦、艦爆、艦攻をすべて出撃させよ。爆弾と水雷はそのまま半数ずつ。今なら空母の甲板に痛撃を落とせるぞ!」


 源田を見る。

「よし、出せ」

「はっ!」


 源田がすぐに命令を伝える。


「でも、戦艦には注意しろよ。敵にも射撃管制レーダーがある。油断はしないに限るぞ」


 敵艦隊との距離は七十キロ。わずか五分の勝負だ。


 敵はいまごろ、こちらの索敵機を見て艦隊の位置をはかろうとしているだろう。コロンボからの二百機のうち、いくつかでも爆撃機か雷撃機が残っていれば、挟撃戦になる。


「急げ!」




『コロンボ港より南六十五海里、西八十海里に敵艦隊アリ。未だ攻撃せざる機は急行セヨ』


 源田航空参謀からの通信を受け、江草はすぐに全軍をセイロン島南南東へと向かわせた。幸い、彼自身を含め、四十機ほどが、まだ攻撃をしていない。


 コロンボの飛行場からあがってくる敵の戦闘機はまばらで、すぐにゼロ戦で堕とすことができた。


 トリンコマリーから飛来したと思われるスピットファイヤもゼロの敵ではなかった。コロンボの港に停泊していたのは巡洋艦二隻だけで、それには十分すぎるほどの打撃を与えている。


 曇天の中、機首をひるがえし、指示のあった海域へと急ぐ……。




 このとき、第一航空艦隊からは、すでに五航戦と残された航空機がつぎつぎに発艦していた。


 爆撃機、雷撃機、戦闘機の合計三十機ほどが高度四千メートルに占位する。

 すぐに敵艦隊が見えてくるはずだ。




 こちらはイギリス東洋艦隊。


 この三月にジェフリー・レイトン大将の後を受け司令長官となったサー・ジェームス・サマビルは当年とって五十九歳、歴戦の勇将であり、冷静な司令官だった。


 彼はセイロン島の東岸トリンコマリー軍港を停泊地としていたが、


(ここにいたらやられる……)


 という、直勘にしたがい出航、おかげで艦隊はナグモの攻撃を躱すことが出来た。


 そのままアッズ環礁に移動するところ、例のナグモからのモールスが入り、すぐに艦隊を反転させた。自分たちがまだこの海域にいたこと、それがナグモにとって運のつきだったのだ。


 いまごろ、ナグモはいい気になってからっぽのセイロン島、それもほとんど商船しかいないコロンボを空爆していることだろう。敵の索敵機も発見し、彼らの位置もほぼ見当がついている。


 あとは、敵の攻撃隊が帰艦するタイミングを見計らって攻撃すれば、まず勝利はまちがいない。


(それにしても……)と、サマビルは思った。


(ナグモ……いったい、どんな指揮官だろう……。巧みな戦術で東洋の果てからとうとうこんなところにまでやってきた。噂によれば、とてもフランクな性格らしいが……)


 旗艦戦艦ウォースパイトから見える一列にのびる彼の艦隊は、空母インドミタブルとフォーミダブル、そしてアメリカからの援軍、空母ヨークタウンである。


 駆逐艦六隻も両側に控え、堂々と曇天のインド洋を西に向かっている。索敵機がさきほど敵の水上機を見たと報告があり、現在は敵の艦隊の位置を探らせているところだ。この艦隊を護衛するための直掩のF4Fも二十四機を飛ばし、警戒はゆめゆめ怠りなかった。


 これまでは順調だ……。

 そのとき……。


「六時に敵機襲来!距離約三千!」

 そばにいた兵士が大声で叫んだ。

「六時?」

 サマビルは双眼鏡を手にし、見晴らしのいい戦艦の艦橋を後方へと移動した。


 海上のはるか遠方に、無数の黒い機影が見える。


「十二時にも敵機ですサー!」

 また兵士が叫ぶ。


 すぐさま、F4Fが二手に分かれて、迎撃に向かう。


 だが、サマビルの口から出たのは、実にこの老提督にらしからぬ言葉だった。


「神よ……」

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