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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
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コロンボ襲撃と、なにか

●28 コロンボ襲撃と、なにか


「紅茶でも飲むか?」


 おれは湯飲みに紅茶をつぎながらジョシーを振りかえった。


「セイロンだからか? 遠慮しておく。ワタシはコーヒーしか飲まん」


「手間がかかるやつだな」


「おい。艦載機が発艦するぞ」


「うむ」


 振り返ると、小さな窓から艦攻、艦爆、ゼロ戦が離艦していくのが見える。おれは紅茶をひと口含むと、帽子をかぶる。


「よし、行こう」


「ああ」


 おれたちは私室を出て、艦橋に向かった。




「今回コロンボに向かう航空機数は?」


 近くにいた雀部航空参謀に尋ねる。


「はい。第五航空戦隊を除く百八十八機です」


「よし、残りの半分は雷装して抜かりなく待機しろ。近くに空母や戦艦がいないともかぎらんからな」


 もちろん制空も怠りなかったし、各空母にも余力は残してある。


 とくに、マッカーサー拿捕の密命を受けオーストラリアに残った翔鶴を除く、瑞鶴の第五航空戦隊をまるまる温存してあるのは、この付近にひそむイギリス艦隊を叩くためだった。


 ミッドウェーじゃないけど、途中で爆雷を積み替えるのは、よほど必要な時だけにしないと危険だ。


「レーダーにはなにも映ってないか?」


 坂上を振りかえる。

 彼はとうとう電探参謀となり、今は索敵任務を担当していた。


「ありません!」


 現在午前十時。この分だと二時間もかからず、コロンボの爆撃はおわるだろう。

 大石がまだ不安そうな顔をしていた。


「しつこいようですが、第二次攻撃の必要が報告されても、五航戦の換装はされないんですね?」


「そうだよ」

 おれは笑った。


「思いだしてくれ。セイロンのコロンボ港を空爆するのは、そこに停泊している艦隊だけでなく、アッズ環礁のイギリス艦隊をおびき寄せるためだ」


「わかっとります」

 大石はおれを見て軽い敬礼をする。

 そこへ坂上電探参謀が顔を出す。


「イギリスのやつらは、われわれに強力な次世代電探があることを知らない」


「そゆこと。だからゆっくりおっとりやってきたところを、各艦の残りと五航戦の雷撃で沈める。軍港のトリンコマリーならいざ知らず、商港のコロンボはいつでもやれるから、換装してまで追撃する意味がないんだ」


 小野がやってきた。


「南雲長官、そろそろモールスを打ちましょう」


「よし……ジョシー」

「文面はこれでいいか?」


 ジョシーが伸び放題の金髪を揺らして、背伸びするようにしておれにメモをわたした。


「ん、用意がいいな……どれどれ」

 みんなでそのメモをのぞきこむ。


『ワガ艦隊コレヨリセイロン島コロンボ港ヲ撃滅セントス。民間人、兵員ノ退避ヲモトム 大日本帝国 第一航空艦隊司令長官 南雲忠一』


「ひえー、おれよりうまいじゃん」


 おれはあきれてそのメモを目の前に掲げた。

 横にはちゃんとその日本語を訳した英語が書いてある。


「大事なのは英語の方だ。相手にはそちらが伝わるのだからな」


 ジョシーがそう言って横を向いた。


「いつもながら、味方にとっては待ち伏せにつながる、危ない通告ですがね……」


 小野通信参謀はとまどいを隠せない。


「たしかにな。だから攻撃の五分前を厳守だ。だけど、こんなことはもうすぐ意味がなくなるよ。レーダーで索敵がすすむと、とうの昔に敵はそれを察知して迎え撃ってくることになるよ」


 いずれ奇襲が意味をなさなくなることを、おれは知っていた。


「戦争はしだいに消耗戦になっていくんだ。そうなれば物量がものを言いはじめる。その前にこの一戦で、イギリス艦隊は壊滅させる。」


 技術力の優位だって、とらせはしない。


 こちらの攻撃隊の到着時刻を予測し、そのちょうど五分前に英語モールスでの通知を指示する。


「よし! あとは果報を待とう」




 空が白い。

 一面に雲が広がり、天候はあまりよくなかった。


 爆撃隊長、江草隆繁えぐさたかしげ少佐は、九九式艦上爆撃機から見える真っ白な上空をいい兆候だと思っていた。なぜなら、爆撃や空戦を行う際、晴れていると太陽に視界が奪われ、敵を見失う危険性があったからだ。曇天は好きだった。


 セイロン島を東から西へと横断したので、とっくの昔にこちらの存在は知られている。いったん海に出て、それから海岸戦を北上するとすぐにコブのように突き出たコロンボ港が見え、それとほぼ同時に、敵機が見えた。


「来たぞ!ト送れ!」


『ト、ト、ト……』


 通信士に攻撃開始の『ト』合図を送らせ、機体を振って下のようすを確認する。


 江草は使い慣れた機を器用にあやつり、コロンボ上空から港に停泊する船舶を遠く見た。


 敵機――イギリス軍の戦闘機ホーカーハリケーンは、なぜかかなりゆっくりと向かってくる。十分な速度を持つ機体のはずなのに……?


 ゼロ戦の制空隊がふわっと上空から襲いかかる。


 たちまち空戦が始まった。


 江草はそれに巻き込まれないよう注意深く旋回しながら、港を視認する。戦艦、駆逐艦と、商船が見えているようだ。


 (よし、わしの出番じゃ)


 方向舵のペダルを左に踏みこみ、スロットルを引く。

 操縦かんを上に引いた。


「ほな、いくけえのう!!」




「電探に反応です。セイロン島南東距離約五十海里、大艦隊です!」


 坂上が慌てた口調でやってきた。


「なに?」


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