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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
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近接信管に現代QCを生かせ

●25 近接信管に現代QCを生かせ


 もうすでに陽は傾き始めている。


 進の要請で、湾内の無人の小島に大型クレーンが設置され、そこに古いトラック一台がつるされた。それが飛行機の代わりになるのだという。


 司令官サロンで談笑していたおれたち参謀は、準備完了の連絡を受け、磨き上げられた空母赤城の甲板に集まった。草鹿や大石、源田、それに艦長の長谷川もいる。


 この赤城と島との距離は約一キロ、まわりには船もなく、無人島の向こうにはただ海があるだけで、万一弾丸が外れても、事故がおきることはない。


 やがて右舷甲板下部から突き出た四十五口径十二センチの高角砲に、たった四発の新型砲弾が装填される。


「用意できました!」


 いつもは砲についている砲撃手が、今回だけは甲板の端にいて大声で叫ぶ。


「じゃあお父さん、号令をお願いします」


 進がおれを見た。


「よしきた」


 おれは右手をいったん上げると、二キロほども離れたその無人島に向けて振った。同時に砲撃手が叫ぶ。


「撃て!」


 ドン!

 バーーーーン!


 黒煙がトラックの上方十メートルほどの地点でぱっと上がり、激しい爆風でトラックが揺れる。同時にざあっという砲弾の破片がトラックに食い込む音がする。


「……お?」


 みんな、ただゆらゆらと揺れるトラックを見ている。

 おれは双眼鏡を目に当てた。

 車体には、無数の穴が開いていた。


 ……。

 ……これって、成功じゃね?


 ……。

 ……まあいいか。あと三発あるしな。


 おれはふたたび右手を差し上げた。


「撃て!」


 ドン!

 バーーーーーン!


 今度も同じだ。

 黒煙があがり、トラックに穴が開く。

 やっぱ成功じゃねコレ?


「撃て!」

「撃て!」


 やはり結果は同じだった。高角砲は無人島の上で爆発し、トラックに甚大な被害を与えた。もしこれが戦闘機であれば、きっと炎上するか、もしくは乗組員に致命傷を与えているだろう。


「え~と」

 おれはとまどっていた。


 たしか、アメリカのVT信管は開発からマンハッタン計画にも匹敵する予算と一年以上もの時間をかけてやっと完成したはず。それがわずか二か月ほどでできるわけがない。


 遠くで汽笛が鳴った。


「進よ」

「はい」


 進がおれをふりむく。

 ずいぶん真面目な顔してるな。


「どうなってんの?」

「どう……と申されますと?」


 参謀たちもただぼおっと見ている。なぜなら、これが電波を発信して、反射波を受信して爆発したものか、それともあらかじめ決められた時限で爆発しただけなのか、判別できなかったからだ。


「今のって、成功なの?」

「はい!いちおう成功です」


 簡単に言うなよ。


「おいマジかよ。だったらもう完成してんじゃん」

「いえ、それがですね……」

「?」


「実験性能的には成功しましたが、まだ真空管は半分アメリカ製なんです」


「半分?」


 赤城からあらかじめ降ろされていた内火艇が、無人島に向かって進んでいく。きっと、被害のもようを写真や記録にとるためだろう。


「待て待て。なんとなく素直に喜べない状況はわかったが、成功は成功だ。みんな拍手!」


 おれに言われて、ようやく参謀たちがまばらな拍手をする。


「なんだか知らんが、成功だそうだ」

「進くん、やったな!」

「となれば、めでたい」

「いや、ははは……」


「よし、話はゆっくり聞こうじゃないか」


 おれは進の背中を押した。


「説明は中で聞こう」




「つまりですね。三個中一個の真空管フィラメントがまだ作れてなくて、アメリカ製の無線機をばらして、その中の真空管を壊し、フィラメントをとりだして小型のガラス管に入れなおし……」


 司令官室にすわって、おれたちは進の説明を聞いていた。

 当番兵がお茶を淹れてくれる。


「それでも信管には入らないので縦に二本と一本、三本を配置したら長くなりすぎたので爆薬を減らしました。さらにどうしても発射の衝撃が強すぎるので信管の底に和紙を折りたたんで入れ、全体の衝撃を吸収するようにしてあります」


 おれはあきれた。


「たしかに一応の成果だわな」


「あと電池のアンプルも安定した強度がとれなくて、運搬には厳重な注意が必要です。装填にも気をつかいます」


「そりゃあダメだよ進君」


 大石が溜息をついた。


「いつ爆発するかわからん砲弾なんかよう使わんですわい」


「だよなあ……周波数はカニンガム報告書通り?」


「はい。七十メガヘルツです」


「現在、本田さんが生産体制の構築に骨を折ってくれていますが、とにかく安定した製造をすることができないんです」


「ふーむ」


 1942年のいまはもうすぐ三月、しかしアメリカでは一月にも同じような試作機が完成し、そろそろ量産品の製造にかかりだしているころだ。電子技術はともかく、工業製品としての精度と量産体制は、日本と比べるまでもなかった。


「伊藤大佐からは、この現状をお父さんにお知らせし、今後どうすればよいか、助言をもらってくるように言われました」


「ふうん……やっぱ、真空管をちゃんと作れるように工場作るのが一番だろうな。フィラメントが作れないんだっけ?」

「はい」


 おれは頭の中でアメリカの真空管を分解して、その緻密さとわからなさに途方に暮れる技術者たちを思いうかべた。


 おれは腕を組んだ。


「調査には人海戦術。あとは工程設計と品質管理だな」


「と、申されますと?」


「とにかく人数がいるってこと。フィラメントが作れないと言うが、たとえば電極の先端に未知の鉱物がつかわれているとして、それがなにかを調べる調査班がいるわけだろ? 素材が判明したら、その切片を切り出す方法を考える班もつくらないといけない。切り出し削るとしたらそれ専用の工具を作る班もいるわけだ。たったそれだけにも、何百人もの専門職が必要になるんだ。だからとにかく大勢でかからないと」


「大変なんですね」


 進が人ごとのように言う。


「中身がわかって設計図が書けたら、次は工場と工程の設計だ。まず第一に、ああいうのは埃を嫌うから、清潔な環境と広い敷地がいる。そして大事なことは工程をできるだけ細分化すること。切る人、曲げる人、組む人、それぞれを分業してやるんだ。で、その工程ごとに速度と効率の調整役をつける」


「ははあ、遅い工員のケツを叩くんですな」

 と、大石。


「いや、そうじゃない。遅い工程があったらそこは人員を増やせばいいんだ。それか工程をさらに細分化する」


「ほう……」


「で、なにより大切なことは品質管理と徹底した検査体制。最初は合格品の割合が少なくてもいいから、けして検査の厳しさを落とさないように。不合格の理由を分析して、その精度をあげるためにはどうすればいいか、毎日のように現場の工員が中心になって考えて提案して、工場内の全ての工程を改善しつづけるんだ」


 おれがそう言うと、みんなが驚いたような目でおれを見つめた。

 いや、現代的には常識的な品質管理の考え方なんですけど……。


「なるほど。伝えます!」


 進がメモをとっている。


「なんか、あっという間にアメリカ追い越しそう……」


「な、すごいだろ?! これが南雲長官なんだ」

 草鹿、なんでちょっとお前がうれしそうなんだよ。

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