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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
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ガスマタ出撃

●18 ガスマタ出撃


 ここは赤道からさらに南へ五百キロのニューアイルランド島。


 この日も、抜けるような深い群青の空の下、こんもりとした熱帯雨林が生い茂る緑の山々は、透き通る穏やかな海を見おろしていた。


 遠くには火山の白い煙が、悠然と漂っている。


 ヤシの木を揺らす風が岸辺をわたり、心地よい。

 昨日と同じ日が、今日もまた、やってくるだろう。


 テイウィ・ピチャンチャチャラは、この基地近くの居住地から通う島の原住民であり、この基地の労働を担っている屈強な青年だった。



 ほんの少し前まで、このんびりとした基地に働くテイウィたち島民は、世界の動きやうわさに聞く日本の軍隊のことや、最近になって警戒を強め、拡張と増援による整備が活発になってきた空港の事情など気にもせず、来月行われる『精霊の儀式』のことで頭がいっぱいだった。


 なぜなら、その儀式には他の島からの花嫁候補がやってくるのが習わしで、今年はテイウィの伴侶となる女性も、その中にいるはずだったからだ。


 テイウィは空港での労働による現金収入のほかに、父といっしょに造った木の船を一艘持ち、魚も毎日のように採っていた。


 彼にとって、この島では暮らすことはそれほど難しくなく、ただ精霊に捧げものをしつつ、たまにやってくる疫病の年を、なんとかやりすごせばよかった。


 彼は若い花嫁との暮らしを、なによりも楽しみにしていたのである。


 だが、そんな村人の想いをよそに、突然千馬力のレシプロエンジンと、プロペラの轟音が島中に響きわたったのは、二週間前のことだった。


 トラック島から出撃した、大日本帝国南方部隊所属、第二十四航空戦隊の九六式陸上攻撃機十六機が、オーストラリアのラバウル基地を爆撃にやってきたのだ。


 当初、突然の攻撃で、オーストラリア軍はただ驚くばかりで、満足な反撃もできなかった。


 真珠湾攻撃の報は、勤務する兵士たちはもちろん知っていたが、まだ一月もたっておらず、ここまで戦線を拡大してくることには、半信半疑だった。


 爆撃機は基地にある旧型の戦闘機と格納庫を確実に攻撃し、夜には九七式飛行艇九機が、まだ戦闘機もまばらな飛行場を破壊していく。


 カビエンと、ラバウルの飛行場では、この日を起点として、もうなんども日本軍の蹂躙が続いていた。



 テイウィは来月の精霊の儀式はどうするのかと、ふと不安になった。


 ただ広いだけの原っぱのような航空基地は、すでに日本軍の連日の爆撃により、大きな穴がいくつも開いていた。


 彼はスコップを操り、めくれあがった土を一生懸命に穴へと戻した。明日には増援の飛行機がやってくるそうだが、ここの兵隊たちはあまり熱心ではなさそうに思える。


 テイウィは、背筋をのばし、南国の強い日差しを手のひらで遮った……。




 トラック島において綿密な作戦会議をすませたおれたち第一航空艦隊は、パラオに先攻していた空母蒼龍、飛龍とも合流し、一路ニューアイルランド島をめざした。


「レーダーはどうだい?」


 おれは天井をみあげるようにして、傍らで真剣に受聴機に耳を傾けている坂上機関参謀に声をかけた。


「ええ、やっぱり海の上だと調子がいいですね。あの受像機で見るやつよりは、自分で敵を探っている気分がします」


「マジかよ」


 受像機で見るやつ、とはオパナのレーダーサイトから奪取してきた最新型のタイプだ。ベル研究所のウィリアム。ショックレー博士が改造して、オシロスコープに投影する実験をしている最中だったから、敵を視認して発見することができる。


 対空母の戦闘では、ずいぶん役に立ってくれたが、このニューブリテン島のガスマタに設置するため、すでに調整をすませてある。


「索敵感度はどうなんだ? 海軍技術研究所の伊藤先生、あのオパナレーダーの解析でずいぶん検波回路の精度があがったと言ってたぞ」


「いやはや、正直言って驚きました!特に音の性能ですね、出力波音と反射波音の差がはっきりして、音の大きさも大きくなったし、雑音もありません。わたしは受像機よりこっちのほうがいいですね」


「ほお。……さすが海軍技術大佐だな」


 レーダーの原理は、当たり前だが電波を発信してその反射波を測定するものだ。初期のタイプはソナーのように音でドップラー効果を聞き分ける、という原始的なものだった。


 今回の伊藤式は、今までより短い周波数の電波を使用するもので、オパナの長波と比べても索敵性能がよかった。そのうえ、反射波の検波精度があがり、視認用受像機もあるが、総合的な索敵能力はむしろ音による受聴機が上回っているかもしれなかった。


 おれの進言やカニンガム報告書で、上層部も電波兵器の重要性に気づき、ようやく重い腰を上げ始めていた。


「ところで、ガスマタへの上陸部隊はどうだ?」

 草鹿に話しかける


「は! まもなく、第十七駆逐隊が沿岸に到着します。」


 おれはうなづき、源田を見る。


「しっかり上空を警戒しておけよ。絶対敵には手を出させるな」


「はい。いつもより直掩機の数も範囲も増やしちょります」


 われわれの空母翔鶴、瑞鶴を含む艦隊は、ニューアイルランド島の東をまわって、ニューギニア島のラエ基地やポートモレスビー基地からの敵襲を警戒している。


 陸軍南海支隊の兵士千人を駆逐艦と輸送船に分乗させて、ひそかに送り届けるのが任務だが、時刻を示しあわせて、カビエンとラバウルの空襲にも参加する手はずだ。


「む?」


 坂上ががっと受聴機を両手でおさえた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 史実で初めて艦載電探装備したのは1942年5月だもんな。随分早まったな。
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