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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
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三つのお願い、聞いてほしいの

●11 三つのお願い、聞いてほしいの


 築地の海軍技術研究所所有地に、その一角があった。


 一見、ヨーロッパ風の建築物に見えるそれは、近づくとコンクリートの装飾をまとった、格納庫ほどもある大きな倉庫だ。


 高さは七メートルくらいあって、入口には十メートルほどの重い木の扉。

 銃を持った兵士が二人、厳重な監視をしていた。


 その前で、草鹿ともうひとり、恰幅のいい軍人が待っていた。


「あ、長官!」


 ふたりがおれと息子を笑顔で出迎えてくれる。


「よう、お待たせ!」


「草鹿少将、南雲進と申します。父がお世話になっております」


 おお!進はちゃんと敬礼してるな。いい青年に育ったもんだ。


「やあ、君が長官の息子さんか。草鹿龍之介だ。お父さんとはずっと一緒にやらせてもらってるんだよ」


「はじめまして。伊藤庸二と申します。技術大佐をしとります。お会いできて光栄です」


 へー、この人が伊藤先生か。

 なかなか、かっこいいチョビ髭と銀縁眼鏡のオッサンだ。


「この先生とは、飛行船のツェッペリン号に乗った帰りに、二週間ほど船旅をしたことがあるんです。とっても頭のいい先生だもんで、長官にご紹介したんですよ」


 草鹿め、まるで自分のことのように自慢してるぞ。よほど優秀な技術官なのか。

 おれたち四人は自己紹介をすませ、倉庫の中に入る……。




 しん、と静まり返っただだっぴろい倉庫の中央には、あのオパナで奪取してきた無線車両と、いくつかの計器が設置してあった。


 この寒い一月なのに、ストーブがたくさん並んでるせいか、かなり温かく感じる……。


 天井では、空気を循環させるよう、いくつもの大きなファンが、くるくると回り、十二のすりガラスが嵌められた一メートル四方ほどの窓が、壁際にいくつも並んでいた。


 何本もの電球が吊るされてるところを見ると、夜も相当明るいんだろうな。


「へえ……いい場所じゃん。なんたって、研究には場所が大事だもんなあ」


「お褒めいただき恐縮です。お口添えいただいた草鹿さんのおかげです。いつもはこうはいきません」


 若い助手が二人、計器から離れてこちらにやってきた。


「助手の岩間と塚本です。若いが優秀ですよ」


「南雲です。よろしく」


 おれは若い二人とも握手をする。岩間はやせていて技術者ぽく、塚本はメガネに四角い顔と、いかにもこの時代の若者って感じだ。


「こ、光栄です!」

「よろしくお願いしましゅ」


 あ、岩間噛んだ(笑)


「がんばってね。場所も人もどんどん増やしますよ」


「は、はいっ!ありがとうございます」


「あ! お客さんが来られておりますよ。なんでも民間の方とかで」


 若い助手のひとりが、奥を指さした。

 ……お、もう来てるのか。


 倉庫の奥の一角に、事務机をならべてつくった簡単な会議スペースがあり、そこにちょこんと所在なさそうな黒ぶち眼鏡の若い男が座っていた。


「あ、そこにいらっしゃるのは、本田さんですよね」

 おれは奥へと声をかける。


「え、あ、はい」


 本田はあわてて立ち上がる。


「本田宗二郎と申します。こ、このたびは、およびいただき……」


「こちらにどうぞ! みなさんにもご紹介します」


ひょこひょこと本田がやってくる。


「そうですか……あなたが本田さんですか」


「あ、お初にお目にかかります。昨日急に海軍の方からお電話いただき、びっくりしました」


「来ていただいてすみません。ぜひとも、あなたの力が必要なんです」


「!」


 彼、緊張してちょっぴりひたい後退中?


 おれは後年、技術の本田と称される大会社の社長の、若かりし頃を見て、ひとり感動していた。


「みんな、この人は凄い人なんだぞ。とくにこれからやる品質管理とモーター機械技術には、なくてはならない人なんだ」


「ほう」


 みんなが、なんとなく尊敬の目をむけると、本田氏は照れくさそうにうつむいた。


 あらためて、おれはみんなを見た。


「じゃあ、まずはみなさんに、おれから話があります。……黒板あるかい?」


 移動式の黒板が、すぐに引き出されてくる。

 おれはチョークを取りあげた。


 さて、授業だ!




「今のアメリカでおこっていること、またはこれから起こることをお話します」


 草鹿、進、伊藤、岩間、塚本、そして本田を前にして、おれは真剣な顔になる。


 ……うん、やっぱいいな、こういうの。

 みんなも、知的好奇心をみなぎらせた、ぎらついた目をしておれを見ているぞ。


「いま、科学と工業技術のアメリカは、おそるべき底力を発揮しようとしています」


「……」


「おれたちが真珠湾をやったせいで、現在、アメリカでは、戦争遂行にむかって国家総動員態勢をとりつつあります。特に科学技術の分野でその対応は際立っていますよ。すべての大学は一時的に閉鎖され、理科学系の学生は全員、三分の一は国の研究施設に、残りはすべて軍隊に強制的に入隊させていこうとしています。これが意味するところはもうおわかりでしょう。これにより、アメリカは、次世代のレーダー開発や、操作要員の育成はもとより、次なる新兵器、新技術の実用をどんどん成しとげていくんです」


 みんな、青ざめてるな。


 若い学生の人数が、科学の分野を牽引することを、みんなはよく知ってるんだろう。


 経験に裏打ちされた老獪な研究者もいいが、こういう武器や攻撃的な開発には、なんといっても若い力が必要だ。この世代のとりくみの差が、そのまま国力の差になると言ってもいいくらいだ。


 実を言うと、もちろん帝国海軍だって頑張ってはいる。


 史実では、1942年の三月卒業予定だった大学生については卒業を三か月繰り上げ、1941年十二月卒業ということにして、八百人ちかい学生を海軍技術中尉や短期現役として確保したのだ。


 しかし残念なことに、そのうちの電気、電波系の人間は百名ほどだった……。


 ひりつく空気を抱いたまま、おれは続ける。


「われわれ日本も、新たな技術開発に取り組む必要があります。そこで、あらためてレーダーの第一人者、伊藤先生と、みなさんにお願いしたい!これからおれが言う三つの技術について、全力を挙げて研究をしてもらいたいんだ!」


 ああ、本田氏はひとりぽかんとしてるな。

 ま、そりゃそうか。

 きっと、なぜ自分がこんな恐ろしい話に参加させられてるのか、さっぱりわからないんだろうな。


 おれはちょっと気の毒になり、フォローを入れる。


「本田社長、あなたにも働いてもらいたい。そして、あなたの力を貸してほしい」


「あ、あ、はい」


 ちょっとずっこけそうになる。


「こほん……」


 気を取りなおそう……。


 おれは黒板にむかう。


「その三つとはコレです」


 チョークで三つの言葉を書いていく。


「一、レーダー(電探) 二、VT(近接)信管 三、原子爆弾……」


「そ、そ、それは!!」


 伊藤先生がものすごく驚いたような顔をした。

 南雲ッちみたいな人間から、こんな話が出てくるとは思わなかったんだろうか。


「まず第一にレーダー。いいですか、よく聞いてください、八木アンテナというアンテナがあります。それをつかった三メートル波長という大型から、最小は十センチ波長という小型のものまで、実用型次世代レーダーの開発研究をしてほしいんです。発展技術はモーターで回転することと、受信電波のオシロスコープへの投影。必要なのは真空管の精度向上と品質管理、半導体という技術開発にも着手してください」


 半分も理解できない顔をしている。

 でもまあ、みんなおれよりうんと優秀な人ばかりだから、おれのうろ覚えの知識なんてすぐに凌駕しちゃうだろう。


「二つ目は、電波兵器の応用、VT信管です。これは高角砲などで、電波や音波で近づく敵を察知して自動爆発する信管のことです。これで、航空海戦のあり方が変わってしまうんです。と、同時に、この技術で対空砲撃された場合のチャフによる防御技術」


「ちゃふ?ってなんでしょうか」


 若手の塚本ってやつが首をかしげる。


「んー、実はおれもくわしくは知らないんだけどねー。たとえば空中に銀紙みたいなのをばらまいて、VT信管の電波を妨害する技術があるらしいので、そいつを研究してほしいんだ」


 実際、おれの生前世界線じゃ、太平洋戦争中に日本にもVT信管があるのではと疑った米軍が、銀色のチャフと思しきなにかをバラ撒いてたって記録があった。


 であるならば、実践的に有効な技術なんだろうと思う。


「あ、三つ目の原子爆弾はみなさんの専門外なんで、ある機械に関する論文を書いてもらいたいだけです。実物はまだ無理」


 これは軽~くながしておこう。

 

「無理じゃあない」


 伊藤先生がぶすっとつぶやいた。


「ほえ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] おお~原子爆弾ですか。 南雲長官の活躍、楽しみにしています。 ちなみに私は小沢中将が好きです
2020/02/21 08:56 退会済み
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