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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
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拝啓降伏しませんか

●5 拝啓降伏しませんか



「でもまあ、そうはならんでしょう。おれの予想だと、冷静になった彼らは、白旗をあげて投降、上陸したおれたちは、敵を武装解除させて拿捕し、そのまま運搬船に乗せて上海あたりに……」


「そううまくいくかな?」

 ギロリ……。


 おいジョシー、なにを言い出すんだ。


「アメリカ人は相手が強いほど、ケモノみたいにカーッとなって向かっていくぞ? どうやって冷静にさせるんだ?」


 ……むう、そうかもしんない。


 おれはここに来たばかりだが、彼らはずっと死闘を繰りひろげてきた。その闘志は簡単には収まらないってことか。


「じゃあ、おれが手紙でも書くよ。真珠湾とミッドウェーで収集した情報によると、敵の指揮官はウィンフィールド・カニンガム中佐と、ジェームズ・デベル少佐だったかな……かもしれない。となると、二人を送るのが先になるな……」


 草鹿と大石が、またはじまったな、みたいな顔をしておれを見ている。彼らの中で、どういう理屈でおれの過剰な知識を納得させているのか、気になるが、今は黙っておこう。


「それは、どこで?」


 はい、Wiki情報です。


「だから言ったでしょう。ミッドウェーの捕虜に訊いたんです。なあ、ジョシー?」


 だからそのにやにや笑いをやめろっての。


「ミッドウェーには捕虜が五百人いて、中にはウェーク島の情報に詳しい人間もいた……そうだろ?南雲」


「こ、この子には、いつもこんな喋り方をさせているのか?」


 井上中将が真っ赤な顔をしておれを向く。


「アメリカじゃ親愛の情を見せるとき呼び捨てにするんですよ。下の名前を呼ぶのが普通ですがね。でも忠一ってよばれるとオフクロみたいなんで、苗字にしてもらっているんです」


「し、しかし……」


 おれは手を叩いた。


「ではそういうことで。みなさん武器を整備して待っててください。あとはこの二人がなにを言うか、徹底抗戦か、時間稼ぎか、はたまた……」


 ウィリアム博士とドリスが真剣な表情でおれを見ている。


「……人命の尊重か」





『アメリカ合衆国海軍ウェーク島守備隊

 ウィンフィールド・カニンガム中佐殿

 ジェームズ・デベル少佐殿


 拝啓


 ウェーク島における一連の戦闘行為について、わが軍の突然の侵攻にも関わらず、貴下の見事なる作戦および貴下部隊の勇猛果敢な奮闘により、緒戦の勝利をあげられたこと、まことに感服いたしました。この貴軍の勝利はアメリカ海軍の数多あまたある栄誉の一つとして末永く称えられるものと存じます。特に寡兵顧みず出撃すること九度くたび、ついにわが駆逐艦二隻を沈没せしめたるF4Fの勇姿は、両国の歴史の記憶に深く刻まれることでしょう。


 しかしながら、わが軍は、空母六隻、戦艦八隻、駆逐艦二十隻以上の大艦隊をすでに集結せしめ、早暁同島を包囲いたしました。この上は貴下ならび貴軍に、あるいは両軍に、無意味なる犠牲を出すことなく、貴下にこの栄光の戦いを中断せしめる勇気ある決断をお願い申し上げる次第であります。


 国家に忠誠を尽くす同じ軍属の一員として、今回はからずも敵、味方に別れ、雌雄を決する立場となりましたが、われわれは武人として互いへの尊敬を常に胸に抱き戦いに臨むべきと拝察いたします。われわれといたしましても、心中はけして憎悪にあらず、むしろ貴国への尊崇そんすうの念多きことをお伝えし、よって勇敢なる貴軍への命の保証のみならず敬意ある待遇をお約束しつつ、名誉の降伏をお選びくださることを、切に願っております。


敬具


大日本帝国海軍 第一航空艦隊司令長官 南雲忠一


追伸

 降伏にご承諾いただけるのであれば、本日のうちに島の南東先端に白旗を掲げてください。

 すぐに特使をお送りします。


追伸2

 太平洋地域に貴国の空母は現在存在しません。

 よって当分の間援軍の到着なきこと

 これを老婆心ながら申し上げる失礼をお許しください』


(……ま、こんなところかな?)


 おれはペンを放り出した。

 丸い窓からはまたたく星が見えている。

 ここは戦艦比叡の一室、もう太平洋の上だ……。


 トラック諸島からウェーク島までは約千海里、時間にして三十五時間ほど。手紙ではちょっとばかり数を盛ってしまったが、おれたちの大艦隊はウェーク島の攻略に向けて、すでにトラック島を出発、明日の未明には現地に到着する予定だった。


 ちなみに、おれたち司令部は動きの遅い赤城から、この比叡へと乗りかえている。敵に航空機が無いに等しく、空母も付近にいないとなれば、この戦艦が現在もっとも安全で、作戦遂行上も適していると判断したからだ。


「できたのか?」


 横合いから、ジョシーがひょいとあらわれた。

 背伸びして、机の上の手紙をのぞきこんでいる。


「ああ。おれは国語の先生じゃないからあまり名文は書けないけど、せいいっぱいの気持ちを込めた。これでどうかな?」


「どれ、見せてみろ」


 その上から目線、どうにかならんもんかね……?


 それに、いくらオレ専属の通訳だからって(おれ的にはむしろこっちが面倒みてるつもりなんだが)おれの部屋に泊まり込むのもどうかと思うぞ。


「ふん、よく書けているな。つい降伏したくなったぞ」


「よく言うよ。こんなのでそんな気になるか? 正直言って詭弁にしか見えん」


「ほう。よくわかってるじゃないか。これは降伏を勧告する側のいいわけ文書だ。ここには心がない、本気で降伏してほしい気持ちがこもっていない」


 ……やっぱり皮肉だったのかよ。


「ならどうすればいい?」


「そう睨むな南雲忠一。いいか、相手は疲れ果てている。そこをおもんばかって本能を刺激するような文章を書け。降伏するとどんな利益があるか、具体的に示すんだ」


「……あたたかくお迎えしますよ、とか」


「オロカモノめ」


 その口、引き裂いてやりたい。


「たとえばこの最後の部分はこうだ」


「?」


 ジョシーがあたらしい手紙に達筆でこう書いてみせた。


『……よって勇猛なる貴軍への命の保証のみならず、清潔なベッドと穏やかな睡眠、水とあたたかい食糧など、敬意ある待遇をお約束しつつ、なにとぞ名誉の降伏をお選びくださることを、切に願っております』


「おお!降伏したくなったぞ」


「そういうことだ」


 ちょっと得意そうに鼻をうごめかす。


「ジョシーすげえな!アメリカ人なのにおれより達筆なのも凄いけど、なんかすげえ!」


 おれはなんだか嬉しくなった。たしかにこれなら、無駄な戦闘をせずに、素直に降伏してくれそうな気がする。


「ジョシー、すぐ翻訳を頼むよ。ウィリアム先生とドリスにも中身を説明しといて」


 おれは有頂天になる。

 もはやこの攻略戦が、すでに無血開城をはたせたような気がしていた。


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