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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第二章 世界戦略編
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ウェーク島上陸しない作戦

●4 ウェーク島上陸しない作戦



 この上陸戦には問題がいくつかある。


 一番の障害は、この島には船の接岸ポイントがなく、まともな上陸戦ができないことだ。


 このせいで第一次攻撃隊は


・夜間上陸に失敗して中止

・昼は艦砲射撃に近づきすぎて砲台の反撃を食らい

・おまけにもう掃討したと思い込んでいたF4Fからの航空攻撃を受け

・なんと駆逐艦二隻を失い、撤退


 という大失態を演じたんだよね。


 実のところ、史実ではもうこの時点で敵の航空戦力であるF4Fワイルドキャットは二~四機しか残っておらず、ウェーク島は陥落寸前なんだ。


 とはいうものの、おれは力押しをできるだけ避けたかった。


 それにしても、第四艦隊司令長官の井上成美中将も、ウェーク島攻略部隊司令官の梶岡定道少将も、おれたちに自分たちの拙攻を責められないかと警戒しまくりだ。


 さっきから、ずっと仏頂面で虚勢を張っているし、やたら反抗的だ。


(……こりゃいろいろ難儀しそう)


「そんなことはわかっておるっ! 問題はこれからの作戦をどうするかなのだ」


 ……あ~はじまった。


 井上中将が大声をあげたのを見て、梶岡少将も遠慮がちにそれに続く。


「真珠湾でお疲れのところ、来てもろうた南雲さんには悪いけんど、ここまで来たら、われわれだけでも攻略は可能じゃき……」


 まあ、そうですよね……。


 しかし、おれにはおれの目的があるんだ。


 草鹿や大石が苦笑いするのを目で制し、おれはあらためて彼らと向きあった。


「井上さん、梶岡さん」


「……な、なんだね」


「その通りっす」


 がくっと二人から力が抜ける。


 あはは……、ほっとしたような、照れくさいような、複雑な表情をしてるな。


「たしかに、敵の飛行機はもうないだろうし、あとは爆撃やって艦砲射撃やって上陸すれば、時間の問題だと思いますね」


「……」


「ただ、その場合、まだまだ味方の犠牲も出る。思うに、今までの武運は向こうにあって、それなりのメンツも立ててやった格好だから、ここらでちょっと違う戦法に出れば、がっくりと戦意が消失するんじゃないですか?」


「それって、どうやるんですか長官?」


 草鹿が楽しそうに言う。


 草鹿や大石は今までのおれの戦い方を知ってるから、もはや面白がるフェーズに入ってる。でも、井上中将と梶岡少将はまだよくわかってなくて、おれがなにをしようとしているのか、予想もできないみたいだった。


「そこで、おれの作戦骨子は次の通り。まずは、味方戦力の開示。つまり、こっちがどれだけ多勢たぜいなのかを教えてやります。彼らにしてみればただこちらの攻撃に反応しているだけで、それも情報がないから考えようがないからですよ。だったら数を見せてその情報を与えてやればいい」


「な、なん、だと?」


「彼らアメリカ人は合理的なんですよ。挑発には世界一怒りまくるけど、同時に無理はしない。こっちが多勢で降伏を待ってるとわかれば、そわそわしだします」


「し、しかし……」


「つぎに、しつこいぐらいに降伏を勧告します。つまり戦うことから、交渉することへ目を向けさせるわけです。そのことで彼らの闘志を削ぐ」


 大石がにやりとした。


「それ、どうやりますか?またモールスですか?」


「それもやるが、それだけじゃ足らない。なので特使としてこの二人を送ろうと思います。おーい!」


 部屋の真っ白い木の扉をあけて、ウィリアム先生とドリスが入ってきた。

 井上、梶岡の両指揮官はがたっと身をおこす。


「あ、大丈夫です。彼らは真珠湾からこっち、おれたちの客分なんです」


 目を剥いて、井上中将がなにか言いかけたが、さらに入ってきたジョシーを見て、口をあんぐりと開ける。


「あ、この子は通訳のジョセフィン・マイヤーズです。ミッドウェーで雇いました」


「こ、子供ではないか!」


「そうでもないんですよ。彼女ったら結構トシ……」


「だまれ!このオロカモノ!」


「な、な……」


 梶岡さんたら、驚きすぎて何を言ったらいいかわかんないみたい。


 ドリスが軍服のポケットに手を突っこんだまま、口を開いた


「おいナグモ、今度はオレたちになにをやらせる気だ? 言っておくが、祖国を裏切ることはしないぜ」


 先生もそれにつづく。


「右に同じだ。こう見えても、われわれは名誉あるアメリカ軍人なのだ。たとえ民間から出向中の科学者だろうとも、国を売るほど落ちぶれてはおらん」


「わかってますよ」


 おれは笑った。


 おれたちの会話は、ジョシーが同時通訳している。


「あなたがたにはなにも強制しません。言いたいことを言い、ご自分で思ったことを話していただきます」


「……どういうことだ?」


 そう言われても、意味が分かんないのは当然だろう。

 もう少し、補足説明するか……。


「ウェーク島の状況をかいつまんで言うと、米軍の守備隊は五百名ほど、軍属は千五百名ほど……かもしれない。で、日本の第一次攻撃隊が上陸を試みましたが、敵の航空機と砲台からの反撃を食らって大損害、やむなく撤退となりました。ここまでは、まさに敵ながらあっぱれ……」


「よし!」

 ドリスが指をならす。


「き、きさま!」


「ま、ま、ここはおさえて井上さん」


「し、しかしだな……」


「で、海軍司令部におれたちが呼ばれて来た。トラック泊地で整備を完了した航空機四十機を擁する第一航空艦隊です。もちろん米軍は現在空母のすべてを失っているから応援はよこせない。その上、こちらには井上さんや梶岡さんの艦隊もいるし、はっきり言って戦力差がありすぎる」


「……」

 ウィリアム先生とドリスは顔を見合わせている。


「おれは無駄な戦いによる犠牲をだしたくない。島の兵士たちは士気も高く、勇気もあるけど、このままじゃ消耗戦になって大勢が死ぬでしょう」


「降伏を勧告してこい、というのかね?」


「いえ、さっきも言ったでしょう。なにを言うかはお任せします。こちらの情報も全部言ってもらって構わない」


「……」


「まず、われわれはモールスで司令長官の交代と、攻略方針の変更を告げ、それから今後の予告をします。すなわち、明日は砲台からの攻撃が届かないアウトレンジからの砲撃を少しやったあと、全艦隊を射程範囲外で展開、さらに戦闘機を島の上空に旋回させて、残存のF4Fを落とし、その後、お二人を島にお届けします」


「オレたちを、ちゃんと国に帰してくれるんじゃなかったのか南雲?」


 ドリスがおれを睨んでいる。


 たしかに約束はしたんだけど、寄り道しないとは言ってないんだよなあ……。


「まあまあ、ちょっとだけつきあってよ。おおぜいの仲間を救う崇高な任務だぞ」


「ふん、勝手なことを言ってやがる」


 ウィリアム先生が心配そうな顔になった。


「われわれを島にどうやって? 君たちと間違えられて、射撃の的にされるのはごめんだよ」


「大丈夫ですよ、お二人をお届けすることもちゃんと事前に通告しますから。上陸方法は白旗と手漕ぎ内火艇です」


「ひでえ!」


 いやいや、その方が逆に安全なんですって。鉄の大発なんかじゃ警戒されるし、下手すると撃たれる可能性もある。


 一同は目を丸くしておれを見ている。


 梶岡少将がおずおずと口を開く。


「あのう、それ以降の攻撃はどうなるんかの?」


「その日はもう行いません。ですが、彼らが降伏しなければ、明後日、総攻撃です。艦砲射撃と空爆、砲台を無力化したあと、島を包囲して四個中隊千五百名で上陸し降伏勧告を行います」


「おお!」


 おお、じゃないよ。横で三人のアメリカ人が目を吊り上げてるだろ……。

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