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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
31/309

レキシントン撃沈!

●31 レキシントン撃沈!


「発艦機は、こちらの守備に徹しますか?」


 甲板を飛び立つ艦載機を見ながら、副官がシャーマンの目をのぞきこんだ。

 艦長のシャーマンはこぶしを握りしめ、副官の顔を見る。


 このまま、攻撃をあきらめろと言うのか?

 敵はあのナグモだぞ。


 モールスによる事前通告、真珠湾を三度にわたって完膚なきまでに叩き、その後は神がかり的な索敵能力を発揮してエンタープライズを襲い、ミッドウェーを占領したかと思うと、今度はわがレキシントンへ決戦を挑んで来た、あのナグモなのだ。


 防御に徹するかだと……?


「冗談じゃないっ!こちらは戦闘機十でいい。あとは全部向かわせろ!」

「アイアイサー!」

「絶対にただで返すな!」




 板谷飛行士がレキシントンへの攻撃隊長として海域に到着した時、すでに空母は右舷後方に魚雷攻撃を受けていた。見れば、五百メートル離れたところを並走する最新型の戦艦も黒煙をあげている。


「おお!潜水艦、やりよったばい!」


 興奮してつい郷土の方言が出る。


 レキシントンの飛行甲板からは、敵戦闘機がつぎつぎに発艦している。

 一刻も早く甲板をたたき、それを阻止しなければならない。


ガガガガガガガガガ!

ガガガガガガガ!

ドンドンドンドンドン!


「ぬおっ!」


 いきなり駆逐艦からの機銃掃射が機体をかすめ、高角砲の弾幕があらわれる。


 五十機の大編隊だから、艦隊の射撃手も必死なのだ。


 板谷が今回操縦しているのは九九式艦上爆撃機だった。


 ゼロ戦に比べると、かなり遅く、自重もあり飛行性能は劣ったが、操縦はお手のもんだ。爆撃だけでなく七・七ミリ機銃が操縦席と、後席尾部にもあり、空中戦にも強かった。


 レキシントンを離艦したF4Fがそのままの体制で向かってくる。


「六時に敵機!」


 後席の乗員が叫ぶ。

 たちまち後席から機銃の音がする。


 きりもみに避けようとするが、しぶとくついてきて振りきれない。


 後席の機銃音がやんだ。味方機が間に割り込んで来たのだ。


 制空を担当している九七式艦攻の戦友だ。後席が機銃を撃つようすが通りすぎざまに見える。


 敵戦闘機はそちらへと進路を変え、そのまま銃撃戦に入ったようだ。


ガガガガガガガ!


 一瞬、戦友がやられる光景が浮かんだが、今はそれどころじゃない。


 頭がかっと熱くなる。


 機銃しかない空の機体を使ってまで、おれに攻撃を完遂させようとしてくれているのだ。

 なんとしても、空母をしとめねばならない。


 海上の黒煙をたどり、空母レキシントンを確認する。


 腕時計を見る。


 厳命された攻撃時間は二十分。あと十分しかない。


「よし、いくぞ!」


 板谷は旋回し、空母の位置をもう一度確かめる。


 邪魔な目の前の敵機に機銃をあびせ、さらに高高度へと進路をとった。


 目に太陽の光が入る。


 エンジン音が高くなり、まわりの飛行機がいなくなる。


 そのまま、数秒間のGに耐えつづける。


 コックピットの、精密高度計を見つめる。


 二千六百、七百、八百……。


 針がぐんぐんと動いていく。まだだ…。


 九百……三千!


 板谷は操縦かんをぐいっとひねった。同時にフラップを立て空気ブレーキをかける。


 九九式艦爆はくるりと反転するように、機首を真下に向けた。


 後席は反対を向いているので、後ろ向きのままあおむけになる。


 本当なら恐ろしさで悲鳴をあげるところだが、もちろん身じろぎひとつしない。恐るべき熟練度だった。


 眼下にレキシントンの流す黒煙が小さく見えた。


「急降下爆撃用意!」

「後席用意よし!」


 スロットルを引き絞る。


 艦爆機が三千メートルの高高度から速度を一気に上げ、レキシントンへと急降下をしていく。自機のエンジン音が高鳴る。


 はじめは小さくしか見えていなかった敵空母が、ぐんぐん目の前に近づいてくる。


 微妙な調整をしつつ、飛行進路を修正する。


 空母からは激しい銃撃がまるで下から降る雨のようだ。


 もうすぐ空母は目の前。


(外すかよ!)


 まさに、この一瞬のために、何年もかけて厳しい訓練をやってきたのだ。はずすわけがない。


「投下!」


 二百五十キロ爆弾が、切り離される。


 がくん、と衝撃があり、すう―――っと、爆弾が空母の甲板へと吸い込まれるように落ちていくのが見えた。


 板谷は、攻撃の成功を確信して操縦かんを引き上げた……。


 ド―――――――――ン


「命中―――――っ!」


 後席の叫び声をかすかに聞きながら、板谷は全身の血がたぎり、高揚感につつまれるのを感じていた。




「艦長、退避を!」

 負傷した右腕をかばいながら、副官が必死の形相で司令塔に入ってきた。


「わかっておる」

 艦長のシャーマンは落ちていた帽子を被りなおし、それに従った。


 あちこちに掴まりながら、なんとか司令室の外に出る。

 それでも、甲板におりるまでには、何人もの若い兵士の助けが必要だった。


 汐の匂いがする。空は、嘘のように晴れ、海上には、もうすでに大勢の兵士とボートが浮かんでいた。


 わが空母、レキシントンはもう大きく傾き始めている。

 結局、水雷を二発、甲板には四発の爆弾を受けていた。


(おそらく、あと三十分はもつまい……)


 となりの戦艦も大破し、いつまでもつかわからない状況だ。

 駆逐艦は水雷攻撃で、すでに一隻しか残っていない。


 まさに、大敗だった。


 しかも、敵はたった二十分の攻撃で、こちらの戦力のほぼすべてに致命傷を与え、あっというまに飛び去ってしまった。


 こちらの戦闘機、攻撃機は一機も帰ってこない。

 いや、帰ってきたところで、着艦する母艦はもうないのだ。


「やつら……化けもんだ」

 傍らの兵士がくやしそうにつぶやくのが聞こえた。


 ガチャン、と音がして、甲板上の飛行機どうしがぶつかる音がした。

 船体が不気味に軋む音がして、さらに傾きが大きくなった。


「あわてるな。全員は乗れんからケガ人を優先せよ。泳げるものは救命衣をつけて出来るだけ遠くへ」


 シャーマンが落ち着いた声で指示をだすと、兵士たちはこぞって負傷したものをボートに乗せていく。


「君も乗りたまえ」

 副官をふりかえる。


「いえ、わたしは泳ぎます。艦長こそ」

「君はまだ若い。リベンジは生きてこそやれるってもんだ」


「イエッサー」

 しかし、副官は動こうとしなかった。


 海上に新たなボートが降ろされ、乗組員を受け入れはじめる。


 まだ空席がある段階で、乗組員がうながした。


「では艦長、ご一緒にいかがですか」


 この男は私が乗らねば動くまい、と思った。


「うむ、では一緒に行くか。戦争はまだまだこれからだよ」


 この戦闘にひとつだけ良かったことがあるとすれば、敵が素早く帰投してくれたことだ。


 おかげで、乗員の救助は問題なく行える。


「サラトガが近海にいるはずだ。まちがいなく救助に向かってくる」


 そう言いながら、シャーマンは、ふと不安な気持ちになる。


 やつらは、なぜ、急いで引き上げたのか……。


 もしや……?

 まさか……!


 その理由を思いつき、シャーマンは絶望に襲われそうになった。


 また、船のどこかが、不気味に鳴りひびいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 某名作の獅子帝か紅茶提督みたいだよなぁ~ 離陸?発艦ないしは離艦。離陸する陸地ってどこにあるっけ?
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