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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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できすぎの不安

●68 できすぎの不安


(で、でかい!)


 おれは立ち昇るキノコ雲を見て思わず唸った。それはあまりにも大きく、そしてどこまでも育っていく。


 あれは本当におれたちの原爆なのか……?


 百マイルもの距離から見ているのに、あの大きさは?! どう考えても、大きすぎじゃないか?


 呆然としながら見つめるおれの目に、あまりにも巨大な傘が開いていく。広島型の原爆では数百メートルのだった半径が、あれではどう見ても数キロはある。


「おお!あれがキノコ雲か!」


 おれの隣で、腰に手を当てた山本さんが無邪気に叫んでいる。


 彼にはおれの感じている違和感や、原爆の残留放射能や、これでおれたちが変えてしまった世界のことなど、なにもわかってないに違いない。ただ、恐るべき新兵器を手にしたという、沸き立つ高揚感があるだけだ。


 白の軍装で颯爽と立ち、さっそくキノコ雲をバックに記念撮影の用意を始める彼らを横目に、おれはしばらく無言で佇んでいた。


 最初はただ茫然と息をのんでいた参謀や兵士たちも、徐々に大騒ぎをしはじめる。


「やった!」

「南雲長官おめでとうございます!」


「おめでとう南雲くん!」


 握手を求めてきた山本さんの手を、複雑な思いで握り返す。


「やったな!」

「え、まあ、はい……」


「ん……どうした? 元気がないぞ。なにか気になることでもあるのか?」


 微妙なおれの反応に怪訝な表情になる。


「はあ……ちょっとばかり、でかすぎるんですよね」


「でかい?」


「はい。計算じゃ、あんなにでかいはずはないんですよ。もしかすると、なにか計算違いが……」


「つまり、なんだ。成功は成功だと?」


「ええ、まあ」


「で、成功しすぎてると?」


「想像の十倍は……」


 山本さんはわはは、と笑った。


「ま、まあいいじゃないか!大きいことはいいことだ」


 ……ですかね?


 おれはしばらく考える。


 もしかすると、核反応の効率が良すぎたのかもしれない。たしか、おれの知ってる原爆はウランの全部が核爆発したのではなく、ごく一部だったはず。


 でも、おれたちの原爆はウラン235の分離精度か、あるいは爆縮の方式か、そのいずれかが優秀すぎたのかもしれない。


「ま、まあいいじゃないか。しょせん爆弾なんだから、威力は大きいほどいい。……さ、それよりも記念撮影だ」


 うながされて仕方なく甲板に整列する。


「では、まいります!」


 キノコ雲をバックに、奇妙な記念写真が撮影された。


 地響きのような音が聞こえてきたのは、それから十分もたったころだった。


 ズズズズズズズズ……。


「おおお、すごいな……」

 山本さんが絞り出すように言う。


 甲板のみんなも、今は耳を澄ませてその音を聞いている。


 いくら海上で音の伝播が良いと言うものの、それはあまりに不気味な音だった。なにかとてつもない物が爆発したような、たとえるなら火山の噴火にも等しい轟音だった。


 とにかく、原爆は爆発した。それは確かだ。

 ただ、おれの予想よりは、はるかに大きな爆発だったのだ。




 模擬艦隊の被害を撮影した板谷たちが帰って来たのは、それから三十分後のことだった。


 粉塵付着を恐れてあらかじめガソリンで磨かれていた天山の六機は、ガイガー計数管で調査された結果、わずかな被曝が認められ、ふたたび海水で洗い流される。


 それがすんでから、ようやく搭乗員が降り立ち、同様に被曝の調査がされた。幸い、彼らにはほとんど反応がなく、天山が厳重に隔離収容されたのとは裏腹に、全員が無事入艦を許される。


 だが、おれにはまだ重要な任務が残されていた。


「現像を急げ!」


 撮影班に指示を行い、自ら板谷たちが撮影した千枚近い写真の中から、数点を厳選する。


 やはり、想像した以上に、原爆の威力は絶大だった。直下の艦船は完全に破壊され、エンタープライズはありえない高熱にさらされ、ぐにゃりと曲がっている。報告では沈没してしまったらしい。


 この日のために急遽現像室に改造された大きな別室で、まるで洗濯物のようにずらりと吊るされた中からおれが選んだ写真は、こんな感じだった。


 一、巨大なキノコ雲近景

 二、巨大なキノコ雲遠景

 三、燃えあがる模擬艦隊群の空撮

 四、破壊され船体がぐにゃりと曲がった空母エンタープライズ

 五、エンタープライズの甲板に作られた家の残骸空撮

 六、真っ二つに折れ曲がる老朽艦

 七、表面のペンキが燃え上がる老朽艦


 これらを百枚づつ現像させ、係のものをクエゼリン島へと急がせる。かねての手はず通り、この偉大な実験の成功を、記者たちに渡し、ラジオファクシミリで全世界に向け発信するのだ。



◇◆◇



 その夜、空母赤城では関係者が集まり報告会が行われた。


 この赤城は本来三段の飛行甲板があり、上部は着艦用、下部二段は発艦用として使っていたが、大正年間の改装を経て今では最上部甲板だけが使用されるようになり、その下の甲板は今では区画されて会議室などに転用されている。今日の現像室や、報告会として使用されたのは、その一部だった。


 まだ戦時中だし、明日も原爆被害の調査があることから、あまり浮かれた祝勝ムードはまずいということで、一応それぞれの兵員に感状が配られる。今も本土に向けて飛行中の淵田にも、クエゼリン島にいる西村たちにも、無線でホットラインがつながり、その旨が伝えられた。


 だが厳粛なムードもそこまでだった。


 酒が配られると、次第に声は大きくなり、原爆のようすや模擬艦隊破壊の様子が板谷たちによって声高に語られるころ、報告会は祝賀会のような雰囲気に変わっていった。


 おれはその様子を見て、そっと部屋を抜け出す……。




「長官、ここにおられましたか!」


 一升瓶を抱えた大石が、下部甲板最前部にいるおれを見つけて近寄ってきた。夜にここから海を眺めるのが、おれのクセになっていた。


 投錨中のうえ、波も穏やかでローリングもほとんどなく、全長二百六十メートルの舳先は、気をつけないとわからないほど静かだ。頭上には最上階の飛行甲板があって、空は見えないが、それだけに、夜、月あかりを反射する海は、キラキラと輝いてきれいだった。


「どうぞ」

 湯のみを差し出す。

「お、すまんね」


「いやあ、今日は大成功でしたな!」

 屈託のない笑顔を見せる。


「ああ。やることはやったけどな。これで講和が成立するかが本題だよ」


「しなけりゃ原爆でアメちゃんをやっつけるまでですわい」


 注がれた日本酒を一気に飲み、湯吞みを大石に返す。


「ま、そうなるよな」


「……いかんですか?」


 心配そうにおれを見る。酒を注いでやると、彼も一気に飲み干し、おれにふたたび差し出す。おれは首を横に振った。


「悪くはないよ、戦争だからな。特にこの時代からすると、殺して当たり前なんだから……ただ」


「ただ?」


「富嶽や原爆を世界中が開発して落しあう未来ってのは、イヤだろ?」


「あ、あれが、世界中に落ちるんですかい?」


「そうだよ。東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、モスクワ……もしもおれたちがしくじったなら、そうなるよ」


「そ、それは……イヤですなあ」


 この時代を生き、海外の都市や文化をほとんど知らない彼にも、なんとなくわかったのだろう。


「核を開発し、その威力で世界を震撼させ、やがて互いの抑止力で平和をもたらす。それがおれの戦略だけど、アメリカや世界がピンと来るかどうか、それが問題なんだよ大石大佐」


「へ、へえ……」


 大石はつい最近海軍大学の教官に就任が決まっていた。そうなれば大佐への昇進が見えている。


 その時、別の兵士が駆け寄ってきた。


「南雲長官はおられますか!」


「ここだ」


 おれが手を上げると、腰に手をやった駆け足の姿勢でやってくる。


「大本営から入電がありました。すぐに情報管理室にお越しください」


「ほう」


 おれは大石の方に手をやった。


「じゃ、行ってくる」


 どうやら答えが出たらしい。


 それを知ったおれは、大石と別れ、艦内へと戻った。

ヒロシマ型の10倍以上。それが南雲ッちのもたらした核実験でした。その威力に不安を覚えつつ、大本営からの入電。はたして結果は?  さて、みなさまの望む未来とはどんなものでしょうか。ご感想、ご指摘お待ちしております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 福島の事故以降にガイガーカウンターという名称がテレビなどで使われるようになったので一般の人でもガイガーカウンターと呼んだらしますが、ガイガーミューラー計数管を略してGM管の名称で原子力施設で…
[良い点] 成功しすぎの不安:まさに前世知識のなせるわざ 核によるデタントは、一強では成り立たない。 日本が最強では世界平和の座りが悪い、そうした部分までお考えになっているのは素晴らしい [気になる点…
[一言] 気になる点が一つ、合衆国政府内の大量の共産シンパどうなるんやろ? ルーズベルトもほぼ共産主義者みたいなもんだし。 それも原爆でどうにかなんのかなぁ。
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