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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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夜明けとともに

●62 夜明けとともに


 ハルゼーの空母艦隊が日独ソ連合艦隊のおそろしい雷撃にあい、身も心も壊滅的なダメージを受けて本国へと引き上げていったころ、クエゼリン島では西村たちがようやく急ごしらえの救護所をつくって、米軍からの空爆に傷ついた兵士たちの手当てを始めていた。


 灯火管制の徹底されたこの島では、夜半の襲撃はただひたすら、耐えるのみであった。それがアヴェンジャーが発射するロケット砲の火炎だろうと、爆撃機から投下される五百キロ爆弾だろうと、抵抗しないことがなによりも被害を小さくすることだった。


 沖へと逃がしていたさまざまな資源や医薬品を回収し、テントを再び建てると、急ごしらえの指令所とする。そうして破壊された島の設備の点検を行い、あくる日の原爆実験に支障がおこらないだけの、最低限の補修を急いだ。


「おおい、そっちを起こせええ!」


 倒された電波塔の下部にロープを渡し、手動のウィンチを兵士たちが引き起こす。


 爆撃によって曲がってしまった鉄骨は仕方がない。電波塔の役目は高さであるから、多少の見栄えは気にしないことにした。


 電波塔の下部が立ったら、今度は上部を乗せなければならない。下部鉄骨の一番上は平らな五メートルほどの作業場になっている。そこにクレーンを載せ、地面にころがったままの上部をひきあげていく。


 ただし、曲がった鉄骨のせいで、きちんとした水平を保つには、地面を掘ったり、ボルトにナットをいくつか入れて嵩増ししたりと、けっこうな時間がかかった。そんなわけで、電波塔が見事クエゼリンの環礁帯に高さ三十メートルの――やや曲がった――雄姿を見せたのは、すでに太陽が東の空に昇り始めたころであった。


 電波塔の天辺まで電線を引っぱりぴんと張る。その電線の一方の端を指令所としたテントに運び込まれたラジオ・ファクシミリに接続し、発電機を動かして電源を入れると、稼働を示す計器の針が動き出した。


「やりましたね……」


 泥だらけのランニングシャツを着た兵士たちが、砂浜に疲れ果てた顔で座りこんでいる。その海岸沿いの傍らに立ち、西村は首に巻いた手ぬぐいで顔を拭くと、げっそりと疲れた顔を、ようやく輝かせた。


「これで、南雲長官の顔が見れるわい」




 アメリカ風の家が建っている。白いペンキが塗られた瀟洒な建物である。


 玄関に入るには、敷地から階段を何段かあがり、人形の座るベンチシートの軒下を通らねばならない。その上がすぐ赤い屋根になる一階建てだが、なぜかその向こうには、空母におなじみの、艦橋塔が屹立して見えている。


 ここは空母エンタープライズ――かつてそう呼ばれていた船の甲板だ。戦闘機が離発着するはずの飛行甲板の中央に、そのアメリカ式の家屋は建てられていた。


 さらに空から見ると、そこには奇妙な光景が広がっていた。


 まるで空母を護衛するようにして大小さまざまな船が浮かび、その周囲には、かろうじて浮いているような巡洋艦や駆逐艦が取り囲む。……いや、それだけではない。よく見ると、帝国海軍の所有する老朽艦や漁船、水上艇なども浅い海に投錨されて漂っていた。


 総数は約四十隻くらいだろうか。半径十キロほどにわたって広がる大艦隊は、まるで地獄の果てから蘇ってきた幽玄の軍隊に見えた。


 これらは無論、原爆の投下実験に使用するため、トラック島から何日にもわたって航行、または曳航されてきたものだ。


 中には可哀そうだが生物実験のための動植物が積載された船があったり、熱や風力などの計器類が積まれた船があったりした。エンタープライズ上の家屋もまた、そうした実験のひとつだったのだ。


 その海域を何周もして観察飛行した天山が、赤城に帰艦したのは午前七時を回った頃だった。おれはそれを、司令官サロンの窓から知った。


「あ、おはようございます。お目覚めですか?」


 小野に言われ、椅子からゆっくりと起き上がる。身体中がぎしぎしと痛んだ。


 おれは周囲を見回した。もとは司令官サロンと呼ばれた部屋だが、今はすっかり様変わりして、大勢の兵士が詰める指揮所と化している。


「もう少し眠られては? できれば寝台で……」


「う、うう……いや、結構眠ったぞ。それに腹が減った。顔を洗ったら飯を食いに行くよ」


 がしがしと頭を掻くと、ドアに向かう。


 洗面場で頭から水をかぶり、階段を降りて食堂に行くと、兵士たちが一斉に立ち上がって挨拶をよこした。


「おはようございます!」

「長官、おつかれさまです!」

「そのまま、そのまま」


 そこにいるのは、主に直掩とクエゼリン島を護衛するために、早朝から任務につくはずの飛行士たちだった。中には激しい海戦をくぐり抜けたばかりの猛者もいる。おれは感慨深く目をしばたかせて、席に着き、深いため息をついた。


(やれやれ、今回も生き残ったか……)


 夢中で戦争やってるつもりだけど、本当はみんな彼ら兵士のおかげだ、とおれは思った。司令官として指揮はするものの、現場で血を流してるのはいつも彼ら若い兵士たちなんだ。


 すぐに誰かが茶を淹れ、膳を運んできてくれる。おれが将官用のそれではなく、一般の兵士たちと食事するようになって久しい。今では彼らともすっかり馴染んでいた。


「長官」


 呼ぶ声がして振り返ると、そこには大石がいた。


「こちらと伺いましてな」


「おお、大石、大丈夫か?お前も疲れてるんじゃない?」


「なんの、平気ですわい」


 そう言いつつ、やっぱり彼も疲労の色が濃いみたいだ。目の下には隈があるし、汗ばんだ軍装には汚れも目立ってる。しかしそんなことをおくびにも出さず、大石は白い歯を見せた。


「勝ち戦は疲れんのです」

「おい無理するなよ」

「長官こそ!」


 おれたちはひとしきり笑いあう。そんな指揮官二人を、食堂内の兵士たちも嬉しそうに見ている。


「ところで……いよいよだよな? 大本営の様子はどうだ? 米軍が大和と武蔵へ攻撃する件は? 連中、夕べの海戦でまた強気になってないか?」


 少し声をひそめて言う。


「その件は……山本長官からお話があるかと」

「ほう……で、山本さんはどこに?」

「甲板におられますわい」


「わかった。で、富嶽は予定通りに出たのかな?」


「ええ、午前四時に千歳基地を出発したと暗号電文を受信しとります」


「あ、そう……」


 どうやら、おれが惰眠をむさぼっているあいだに、いろんなことがおこっていたらしい。


 とにかく、今日の原爆実験のため、帝国海軍がその工業力のすべてを賭けて製造した二つの新兵器――つまり原子爆弾と高高度爆撃機『富嶽』は、日本の北海道を出て、今日の午後三時に予定されている原爆投下実験のため、今も太平洋を二千三百マイルもの距離を高度一万メートルで飛行しているのだった。


「いよいよだな……」


 おれはもう一度そう言って、敬礼する大石を見送ると、ごはんとみそ汁に湯気の立つ、朝食を頬張った……。

いつもご覧いただきありがとうございます。いよいよ原爆投下実験がはじまりました。ですがその前に、ちょっぴり気になる大本営です。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドイツはともかくソ連の潜水艦まで米空母への魚雷攻撃しますかね? 魚雷一本で家が建つと言われるくらい高価なものなのに。
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