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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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ハルゼー壊れる

●60 ハルゼー壊れる


 八十機を超える攻撃隊が、すべての水雷や爆弾を使い終えた。


 必死に逃げ回っていたアメリカの空母艦隊は、すでに半数にあたる三隻が撃沈され、大量の油と漂流物を撒き散らしながら、海の藻屑と消えている。


 残された三隻の空母も、むろん無傷ではなかった。いずれも黒煙をあげ、わずか数ノットでのろのろと航行している。だが、このまま夜陰にまぎれれば、なんとか逃げきれるかもしれない……。



 戦果の報告を受けたおれは、いよいよ最後の詰めをやるときが来た、と思った。


「飛龍、および赤城艦隊は所定の島に帰港する。着艦した攻撃隊は補給ではなく収容とせよ。水上機と駆逐艦を出し、夜通し漂流している兵員の収容に努めてくれ」


 源田を呼び、飛行隊への方針を伝えた。


「それから大石、例の《連合艦隊》はどこにいる? アメリカ艦隊との距離はどのくらいだ?」


 おれの問いに、大石は書き込みでいっぱいになった海図をとりだし指で示す。


「五十時間前に出航した艦隊は海上を十五ノットで航行し、現在はナウル島南東五十キロの海域におります。残り四時間ほどで会敵できる計算ですね」


「なら、最後の仕上げはそれでいこうか」


「いきますか」


「うん。これはセレモニーなんだ。もしかすると、このあとの世界がこの攻撃で変わるかもしれないんだぞ。……なあ小野?」


「はい?」


 とつぜんふられた小野がびっくりした顔をした。


「世界……ですか?」


「そうだよ。おれはいつだって、世界と日本の関係を考えてるんだ」


 つい調子に乗って、言わずもがなのことを言ってしまう。丸くしている小野の目を見て笑い、おれはこれからやろうとしている作戦の最初の一手を命じた。


「小野、例のモールスをやってくれ。真珠湾のとき以来やってる三つの周波数帯域のやつだ」


「……はい」


「いいか。電文はこうだ。戦争を継続するアメリカ合衆国の意思により、ただいまより太平洋におけるアメリカ空母残存兵力を駆逐する。艦内に残る米兵員はただちに退艦され、身の安全を確保されたし。二一〇〇(フタヒトマルマル)、大日本帝国海軍、南雲忠一。これを英語の平文でな」




 ハルゼーはもともと激しい性格の男だった。ブルという異名の通り、気に食わないことがあれば、躊躇なく相手を罵る。敵意を抱けばとことん攻撃し、相手が弱っても容赦はしない。憐憫などという感情には縁遠く、完膚なきまでに叩き潰す。まさに暴力的なアメリカ人を絵にかいたような人物だった。


 だからこそ、彼には軍隊という暴力装置が向いていた。


 直情的なだけに裏表がなく、なにごとにも率直だった彼は、ニミッツやマッカーサーらの上官からも、また部下や民衆からも信頼された。


 日本への憎悪をいつも口にし、

「KILL JAPS,KILL JAPS,KILL MORE JAPS」というのが口癖だった。


 開戦以降は、海軍を統率する現場の指揮官として、ドーリットル空襲などの勇猛果敢な作戦を主導したし、もうすこしで成功するところだった。


 だが、真珠湾以来、彼は南雲になんども苦衷を味わされた。


 ドーリットルでも、その後の海戦でも、ずっと南雲にやられ続けた。持てる頭脳を強烈な自我と闘志で武装し、彼なりに全身全霊をかけて戦ったというのに、南雲たち日本人はそれを常に上回る戦略と武力でハルゼーを叩きのめしたのだ。


 真珠湾では不意を突かれ、ウェーク島では間に合わなかった。空母艦隊戦では完膚なきまでに叩かれ、今回の海戦でも裏を掻いたつもりが防ぎきられて逆襲された。終わってみればなにひとつ、目ぼしい戦果がなかったのである。


 いったいなにが悪かったのか……。

 自分のどこがいけなかったのか……。


 もともとかなうはずもない武力だったのか。


 いや、そんなことはないはずだ。

 では、なぜ負けつづけるのか……?


 ハルゼーは駆逐艦ニコラスの指令室に立ち、全身を覆う激しい倦怠感のなか、そうなんども自問自答しつづけた。そもそも反省する習慣は彼にはなかったが、こんどばかりは考えずにはいられなかった。突き詰めるまで考え抜いた。


 その結果、彼が得たものは、自我の崩壊であった。


 日本人への敵意を戦争遂行の原動力としてきた彼が、言い訳のできない敗戦を繰り返した結果、精神は無惨にも崩壊し、あとに残ったものはごく単純な感情――すなわち、自分への完膚なきまでの絶望だったのである。


「司令官」


 ギャラウェイが夜空を見続けるハルゼーに声をかけた。


 ゆっくりと振り向くハルゼーの貌は、焦点の合わない目をした老人のそれだった。


「お疲れのところ、申しわけありません。たった今、ナグモからの電文が入りました。読み上げますか?」


 そう言いながら、ギャラウェイは不安になった。太平洋のど真ん中を祖国に向け東へと航行する自分たちの艦隊は、今もなおこの老提督の掌の中にあるというのに、振り向いた司令官の表情は、とてもそんな重責が果たせるとは思えなかった。


「あ、ああ、読んでくれたまえ」

「はい」


 意気消沈は敗戦の将だから仕方ない。しかし日ごろのハルゼーを知っているだけに、ギャラウェイは手に持った電文を読むべきかと一瞬躊躇してしまう。だが、こればかりは読まないわけにはいかなかった。


「では、申し上げます」


 そう言って、ギャラウェイは南雲からの電文を読み上げた。


「……との内容です。補足申し上げますと、この電文はモールス信号による英語の平文で、世界の三つの地域に対する周波数で発信されております。英明であられる司令官には蛇足で申しわけありませんが、これはわが艦隊に、というより合衆国政府、もしくは世界に向けて発信されたものと思われます」


「……」


 ハルゼーはなんの感情もあらわさないまま、目を何度かしばたかせた。やはり、なんだかおかしい。こんな時だから、いつものような罵詈雑言を期待してはいないが、いくらなんでも冷静すぎる、とギャラウェイは思った。


「いかが、いたしましょうか?」

「そうだな……」


 そうだな、とは、いったいどういうつもりだ? この電文で南雲はわれわれを追撃すると宣言しているんだぞ。それも、暗に悪いのは戦争を継続しようとする合衆国だと言っている。


 普通なら、その口惜しさに怒りをぶつけ、だがすぐさま臨戦態勢を命ずるのがハルゼーだった。たしかに残った空母は傷だらけで、補給や迎撃の飛行機を飛ばす余裕はない。いや、それどころか、着艦できない多くの航空機が、艦隊周辺に不時着をくりかえしているせいで、兵士の収容に手間がかかり、まともな航行すらできない事態に陥っている。


 だとしても、兵員を安全な船に分散するなり、少しでも飛べる戦闘機に上空の警戒を命ずるなり、なんらかの手段はとれるはずだった。それが司令官の責務ではないのか?


「司令官、いかがいたしましょうか?」


 焦れたギャラウェイは重ねて老提督を促した。憐れな上官がこれほどまでに疲労し、思考力を失っているのなら、気つけ薬の代わりに熱いコーヒーを持ってくるべきだった、とギャラウェイは今さらながら後悔した。


「……しよう」


 そのとき、ハルゼーがぽつりと呟いた。


「は?」


 聞き返すと、ハルゼーの目にほんの少しだけ、意思らしいものが浮かんだ。


「空母を放棄しよう」

「え?」


 ギャラウェイは耳を疑う。ハルザーはくりかえした。


「空母は放棄して、総員を残った船に分乗させるんだ」


 およそこの男らしからぬセリフであり、決断だった。しかしいかにこの艦隊の司令官とはいえ、ニミッツやワシントンへの打診なく、やってよい決断ではなかった。


「よろしいので?」

「ああ、仕方ないだろう」

「……」


 ギャラワエイは深いため息をついた。将が気力をなくしているのに、副官の自分だけが戦意を維持しても意味がない。


 それに、確かにこの状況では、意気地をなくしたこの老人でなくても、これ以上抵抗することが最善手とは言えなかった。日本軍に朝まで攻撃される悪夢のような一夜を想像して、ギャラウェイは思わず身震いした。


「わかりました。……ワシントンにはなんと?」


「君に任せる。適当に報告しておいてくれ」


「提督のご決断と申し上げてよろしいので?」


「ああ、かまわんよ」


 そう弱々しく言って、ハルゼーは目線を逸らした。

ハルゼーさんが気の毒で、ついクドいセンテンスになってしまいました(汗 次回は盛大な雷撃祭りです。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハルゼーは敵なんだから配慮する必要ないべ。
[良い点] ここで情報戦を仕掛ける鬼畜ぶりが素晴らしい。アメさんにとって世論操作されるのが一番嫌でしょうし。ついでにルーズベルトが共産主義者でホワイトハウスや米軍がソ連のスパイの巣窟だってメディアに暴…
[良い点] ブルさん、自決覚悟ですね。 アメさんは信賞必罰ですので、生きて帰っても退役は避けられないです。 サムライらしく最後を迎えさせて下さい。 彼はアメリカのサムライです。
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