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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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総攻撃、始まったら終わってた

●58 総攻撃、始まったら終わってた


 一時間が経過した。


 あれほど降り注いだチャフが、今はすっかり消え去っていた。


 米軍機たちも、ありったけの水雷を投下し終わって、この空域を離脱していく。ようやく、三次攻撃が終わったのだ。


 ロケット弾による攻撃を受けた赤城の飛行甲板最後尾には、今も消えない嫌な炎があがっている。


 だが、受けた被害はそれほどでもなかった。二重に張られた甲板の表層がめくれ、飛び散った薬剤により火は噴いた程度で、幸いにも艦内への類焼はなかった。


 幾多の経験を重ね、ダメージコントロールに習熟した兵士たちは、献身的な消火活動と修復作業によって、離着艦には支障がないような、応急措置を施しつつある。


 甲板にいる水兵服の兵士たちも、すでに所定の配置についており、いつでも艦載機を受け入れる準備が整いつつあった。まもなく、着艦が許可されるだろう。




 おれと参謀たちは、艦橋の窓辺にずらりと並び、後ろ手をして外を見つめている。


「あらかた、ケリがつきましたな」


 周辺の空域を見ながら、源田がほっとしたように言う。


 まだ遠い船には赤い炎と、もうもうと立ち昇る黒煙が見え、周辺の海域にも撃墜された敵味方の艦載機が漂流している。被害の状況はこれからの分析であきらかになるが、ひとまずは護りきった、と言えるだろう。


「にしても、あの新型戦闘機には要注意ですな」


「そうだな」


 おれはうなずく。


「あれはF8Fって新型機だ。ぶっちゃけ、かなり性能がいい」


「速度、頑丈さ、敏捷さ。すべてにおいて一目置かざるを得ません。疾風を軽々と引き離しておりました」


「心配はいらんよ雀部。こっちはもうすぐジェット機時代だからな。次はこうはいかん」


「ジェット……ですか。性能は戦いを制す。空技廠に発破をかけねば……」


「ですが、腕はこっちが上ですわい。敵もそれなりじゃが、いかんせん経験が違う。開戦以来、激しい局地戦を経て実戦経験を積み上げた第一航空艦隊の飛行士たちは、まず、別格!」


「無線技術も役立ってましたよ」

 お?今度は小野も参加か?


「高度に発達したわが帝国海軍の無線技術により、飛行士たちは互いに連携しあい、即応しておりました。これぞ、無線の勝利でしょう」


「ま、そうとも言えるな」



 さっきから、おれたちは実にお気楽な会話をくりかえしていた。


 いつの世も、勝利の反省会ほど、無責任で盛り上がるものはないのだ。


 さすがに笑みこそないが、誰もが過ぎ去った危機を思いやり、ようやく決した勝利の安堵に気を緩めていた。


 とはいえ、もうそろそろいいだろう。こほんと咳をひとつして、おれは顔を引き締めた。


「よし、まだ終わってはいないぞ。最後まで油断なくやろう」


 みんなもはっとして、顔に緊張を走らせる。


「わが方の被害は大石?」


「は。空母赤城に砲弾一、重巡愛宕に水雷一、駆逐艦大潮に水雷一であります」


「大破以上はなしか?」


「ありません。本艦の着艦準備も整いました」


「では、これより着艦を許可する」

「はっ」


 源田が兵士を呼び、着艦命令を発した。


 俺はもう味方だけになって、自由に飛びまわっている航空機を見あげた。


「小野、クエゼリン島の被害は?」


 通信員のところに報告書を取りに行った小野が、ファイルを読みながら答える。


「基地建物や砲台はかなりの被害を受けたもようです。しかし重要な器物はすでに避難済みでしたし、兵員への被害も最小限にすみました」


「電波塔は?」


「なんとか西村たちが護りました。被害は今夜中になんとか回復させると言っております」


「そうか……」

 ほっと息を吐く。


「なら……あとは、敵をぶっこわすだけだな?」


 おれは艦橋から見える暗い甲板を指さした。補給を終えた戦闘機が飛びたって行く。


「はい……」


 戦いはまだ終わっていなかった。敵艦隊はまだ生きている。


 二人の目を見て、おれはするどく言い放った。


「なら、徹底的にやってくれ。太平洋に、敵空母を許すな!」




 こちらはアメリカ機動艦隊である。


 六隻の軽空母と、重巡、駆逐艦あわせて二十隻にもなる大艦隊が、ぎりぎりにまで直掩機を減らし、捨て身の攻撃に出ていた。


 それが裏目となり、半径十キロ近くに分散した艦隊は、今はもうほとんど裸艦隊になっている。そこへ八十機以上にもなる大編隊の総攻撃を受け、めちゃくちゃな被害を被っている。しかも、敵は続々と増援してくるのだ。


 最初はきれいな輪形陣をとっていた艦隊も、雷撃、爆撃と次々に攻撃が加えられ、それに呼応して回避行動をとるうちに、だんだんバラバラになり、対空陣として機能しなくなっていた……。




「おい、もう終わっとるじゃないか!」


 高橋赫一が明々と炎を上げる敵艦隊を見おろして、不満そうに言った。


 戦闘機の役目は囮となって、艦攻や艦爆の攻撃機の攻撃を成功せしめることだ。そのための危険なら厭わないが、こうして見る敵の艦隊はすでに破綻しているように見える。


 空母六隻のうち、すでに三隻が黒煙をあげている。


 駆逐艦からは高角砲も発射されているが、こう陣形が崩れてしまっては、いくらでも隙があった。


 もちろん、狙いは空母だ。


 さんざん攻撃されたお礼をせねばなるまい。


 高橋はもうほとんどいない敵機を探してあたりを旋回した。


 だが、あれほどうるさかった敵機が、今はほとんどいない。たまに身を挺して攻撃を阻止する勇気ある者もいたが、そいつらはすでに弾丸を撃ち尽くしてしまったらしく、むなしく飛び回るばかりでほとんど反撃らしい反撃もない。


 こうなったら、日ごろ訓練した連携攻撃で空母をやってやろう。高橋は彗星艦爆と雷撃天山からなる攻撃隊に無線を送った。


「いくぞ!」


いつもご覧いただきありがとうございます。気がつけば敵は裸艦隊。こちらは無傷の天山と彗星で総攻撃であります。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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