魅災流FFAR
●56 魅災流FFAR
雷撃態勢に入ったアヴェンジャーたちが一斉に迫る。だが、おれは急降下爆撃の方が気になっていた。
「おい、あれなんか見えないか?」
独り言のように言い、窓から上空に目を凝らす。明るい夜空の下、真横から接近するアヴェンジャーの翼下に、先の尖った四本の筒が見えた。
「おいおいおいおい」
現代人の知識を持つおれには、それがロケット弾――無誘導のミサイル砲だと、すぐにわかった。
(……このタイミングで?)
アメリカが太平洋戦争中にその手のミサイルを開発、運用していたことは、おれも知っている。だが、翼を折る艦載機で、搭載が可能だったのか?
ミサイル機がくん、と機首をさげ、こちらに狙いを定めてくる。いかん、艦橋を狙っているぞ!
「噴進弾がくる! 総員窓から離れろ!」
参謀たちや兵士がおれの叫ぶ声を聞いて後ずさる。まだ状況がうまくつかめていないまま、おれに倣ってみんなは中央の階段へ降りる鉄扉付近に移動した。
プシャアアアア!
一本のミサイルが発射される様子が、しゃがんだおれの目に映る。
シャアアアアアアアア!
ミサイルは不気味な炎の光跡を引きずりながら、艦橋から五メートルほど離れた空中を切り裂き、海上へと消えていった。
なんとか外れてくれたようだ。
新兵器を発射する操縦員が、まだ照準に慣れていないのか。いや、それよりも速度が遅い。まだ初期型のFFARかもしれない。
おれは立ち上がり、ふたたび上空へと登っていくミサイル機を目で追う。空母赤城を飛び越えたそれは、赤城から発射される機銃の曳光弾をかわして、高い空へと舞いあがっていく。
その間にも、雷撃機たちはいっせいに高度を落とし、投下の態勢に入ってくる。見えるだけでも数機、いや、十機近くいるようだ。まさに、ぞっとするような光景だった。
「雷撃機水雷投下します!」
監視塔からの声が伝声管を通じて響く。
おれか? またおれの出番なのか?
水雷屋の血がうずく。
これだけの雷撃を赤城の航行だけで躱すのは至難の業だ。いくら水雷の速度がこの赤城とそう変わらないと言っても、これだけの数が襲って来れば、経験がなければ防ぎきれない。
たとえば、砲撃や機銃も雷撃の阻止には役に立つ。こういう場合は航行針路で躱すだけ躱し、砲撃によっても海面下の水雷爆破を狙うのが定石だが、任せておいて大丈夫なのか。
前回の海戦でも、おれは我慢しきれずに自ら回避行動の指揮をとった。そして、それが結果的には功を奏した。なんといっても南雲ッちはこれの専門家で、艦長の長谷川や、航海長より、おれの方がずっとうまいに決まっているのだ。
時間がない。やるなら今だ。距離三千メートルなら、水雷は三分ほどでやってくる。
「よおし、おれが……」
立ち上がろうとして、意図を察した大石に腰のベルトをガッと掴まれた。
「長官ダメです!上は危険です」
「なッ!……じゃかあしい!」
「艦爆やさっきみたいな噴進砲があればなおさらですぞ! 匹夫の勇はおやめください!」
「……んだとお?!」
匹夫の勇とはまた、言われたもんだ。現代的に言えば、アホの勇気、である。
「長官になにかあったら、誰がアメリカと戦うんですか!」
源田も必死の形相をしている。見れば他の兵士たちも、なにかに掴まりながらこちらを見ていた。
(ううむ……)
おれは力を抜いた。
たしかにミサイルが飛んでくる中、対空監視塔に司令官が出るのは危険すぎる。戦争に犠牲はつきものだが、司令官が自らの命を危険にさらして喜ぶのは、敵だけなのだ。これじゃあ匹夫の勇と言われても仕方ない。
それに、今は揉めてる場合じゃなかった。すでに船は赤城の航海長である三浦中佐の指示で、右へ左へと回避行動をとり始めていた。
「よしわかった。三浦に任す」
また火花を散らしながら艦橋のそばをミサイルが飛び過ぎる。
シャアアアアアアア!
ドオオン!
「おわ!」
どこかわからないが、かなりの衝撃がある。被害の確認に兵士が電話をしている。
あのミサイルは無誘導だから、それほど精度は高くないし、破壊力も五百キロ爆弾などには及ばない。しかし艦橋や甲板への狙いすました攻撃は、やはり艦隊にとって脅威だった。
その新兵器を搭載したアヴェンッジャーの数は、ここからではわからない。だが、このままではいずれどこかに被弾してしまうだろう。いや、さっきの衝撃からすると、もう船のどこかがやられたのかもしれなかった。
艦橋の窓からは銀色のチャフがあいかわらず空を舞っているのが見える。やつら、今回どんだけ用意してきてるんだよ……。
『機関停止~ッ!』
三浦のカン高い声がして、ぐおおおっとつんのめりそうになる重力がかかる。
『左舷後方に水雷接近っ!』
監視員からの報告に、みんなが窓をのぞき込む。
シュシュシュシュ……。
投光器が追い、不気味な白い雷跡が、左舷を通過していった。
『また来ます!右舷 二ッ!水雷が接近!』
敵の第三次攻撃は戦闘機、攻撃機合わせて三十機ほど。だが、戦闘機はチャフを撒き、アヴェンジャーは同時攻撃をしかけてくる。おまけにその中の何機かは、ミサイルを搭載している。
対するわが方はすっかり弾を撃ち尽くし、補給がすみしだい増えてくると言うものの、現況では二十機ほどで、対抗するには数が足らない。むろん、この空母赤城はもとより、駆逐艦や重巡にも攻撃がしかけられている。
司令官は頭脳を使わねばならない。
それがおれの役目なんだ!
おれは必死に考えた。頭の中で、空母を中心に、周囲に重巡四や駆逐艦七を配備した、六キロにも広がるわが艦隊のイメージを思い描く。ただし、チャフのせいで電探連動高角砲を停止させ、今は各艦の距離を通常の二キロ程度へと、徐々に接近させているところだ。
そこへ雷撃機が一斉に攻撃をはじめ、ミサイル機もある。こちらが使える手ごまは?
(よし!)
おれは立ち上がった。
「大石!」
「はい」
「重巡や駆逐艦はもとの六キロ間隔にもどせ」
「わかりました」
「源田」
「はッ」
「直掩機は、この空母赤城の上空に集結させ、敵機を徹底して攻撃しろ。そのかわり、とうぶんこの赤城では機銃も対空砲も禁止するぞ」
どうせたいして当たりっこない対空砲など、ないほうがいい。
「諒解です」
「駆逐艦と重巡では電探連動高角砲を解放しろ。チャフは周辺空域ではうんと密度が薄い。それから、補給を終えた増援が来たら、それらはすべて赤城から十キロ以遠で戦わせるんだ。連動砲が誤爆しないようにな。わかるか?」
おれは源田の目を見つめた。彼はおれの命令を、すぐに理解した。
「赤城を戦闘機で護らせ、他の船では連動高角砲を使う。そして距離をとった敵は増援隊が墜とす」
「その通りだ!」
さすがは頭脳明晰な参謀だ。おれはうなずいたあと、窓の外を指さしながら言った。
「まずは、あの噴進砲を積んでるアヴェンジャーを墜とせ! ……勝負はこれからだ」
民明書房ならきっとこんな命名したのかな、みたいな当て字ですみません。冒頭からネタバレしたくなかっただけです(汗 風雲急を告げる南雲艦隊、ようやく南雲ッちも落ち着き取り戻し始めました。ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。つまらない、飽きた、などなんでもお寄せくださいませ。ブックマークをよろしくお願いいたします。




