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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
29/309

制空に秘策あり!

●29 制空に秘策あり!


「敵位置、定時報告!」

「定時報告、確認せよ」


 駆逐艦不知火のSCR―271レーダー車両からは、定期的にレキシントンの位置を赤城艦橋の司令部へと知らせてくる。


(こうやって、レーダーでつねに自分の位置と敵の位置がわかれば、先制攻撃がやれるわけだ。これって圧倒的だよな)


 おれは自分の生前に見た、SCRレーダー装置の、無骨だが先進的な姿を思いだす。

 と、言っても、写真だけどね。

 

 いまごろは、きっとあの、四段十字の巨大なアンテナを、不知火の甲板で精いっぱいひろげ、索敵をやってくれているだろう。


 もっとも、敵も味方もレーダーを装備するなら、あとはレーダー感度と攻撃射程の勝負になる。

 圧倒的なのは、最新の技術をいちはやく実際の戦闘に運用システムとして取り入れた、今だけのことなんだけどね。


「板谷らはもう出たのかい?」

「はい。長官のご指示通りに」


 源田航空参謀は表情ひとつかえない。

 もうひとつの制空の秘策を、おれはやろうとしていた。


「レキシントンには変わった動きはないかい」

「報告では、なにもないようです」

 小野通信参謀からの報告を聞いていた草鹿がふり向く。


「オーケー、モールス打てば向こうもあわてて発進するだろう」


 おれは遠い海上をこちらにむかって進んでくる、レキシントン級空母の勇姿を思いうかべていた。

 南雲っちの知識も相当なもんだが、おれだって敵空母についてはガチ勢なみの知識を持ってる。


(レキシントンなんか、プラモデルだってつくったもんね……)


 この時点で、まだレキシントンにはレーダーが配備されていなかった。


 アメリカ海軍において実用化された初めてのレーダーは、1940年に6セット完成し、戦艦カリフォルニア、空母ヨークタウン、重巡シカゴなどの艦艇に搭載された。


 また、1941年の時点では、戦艦ペンシルバニア、ウエスト・バージニアなどにも搭載された。しかし、レキシントン級二隻の空母には、未搭載だったのだ。これらに搭載されるにはあと、ほんの三か月ほど……配備は1942年の春になる。


 それがこの戦いの明暗をわけることになるのだ。





 ミッドウェーイースタン島の滑走路には、淵田隊長ひきいる八機の制空隊が、出撃準備のため四機二列に並べられていた。いずれも無傷ではなく、なにかしらの損傷を抱えている飛行機たちだ。


 この島に上陸した整備員たちの必死の作業によって、なんとか修理を終えてはいるが、敵の機銃によってあいた穴を、別のジュラルミン板でつぎはぎ接合するのはまだましな方で、中にはめくれあがった金属をハンマーでたたいて元に戻し、テーピングしただけの、応急措置もある。


 とにかく限られた時間と材料で、やれるところまでやったという印象だ。


「よく整備してくれたな!感謝する!おおきに!」

「ハッ!隊長こそ、ご武運を」


 汚れた手のまま、敬礼をしてこたえる彼ら――整備員たちは、この最後の戦闘が終わった後、ふたたびこの地にやってくるはずの駆逐艦で回収される手はずだった。ジョセフィンら捕虜の監視をしている兵たちも同様だ。


 だがもちろん、戦況によっては、駆逐艦がやってこないこともある。


 その場合、いずれは残された米兵の救出に、なにかしらの米軍はやってくるわけで、そのとき、彼らは、生きて虜囚の辱めを受けず、という教育に従って自決するか、陸戦隊の一員として戦って死ぬかという、おそるべき二択を迫られるのだ……。


 淵田は整備員への礼を丁寧にすませると、相棒の九七式艦上攻撃機にのりこんでいく。

 すでに通信士と操縦士が搭乗をすませていた。


「総機、エンジン始動!」


 各機についていた整備員がそれぞれの始動機を操作する。


 晴天の下、白く輝く滑走路に並ぶ八機の戦闘機が、プロペラを回しはじめた。

 前席の操縦士がスロットルレバーをしぼり、送声機に叫んだ。


「前席出発準備よろし。隊長、いきましょう!」

「後席よろし。……出撃や!」


 敵地イースタン島にいても、海軍の整備員だ。

 みんなきれいに整列し、激しく帽子をふってくれている。


(すまんなみんな。必ず迎えに来るさかい、待っとれよ) 





 明るい陽射しが水色のサンゴ礁を照らしている。

 上空から見た北西ハワイ諸島は、とても美しかった。


「赤城からの無電は?」


 淵田の九七式艦上攻撃機はましな方の修理を受けて、ほぼ万全の状態だった。前席には操縦士がおり、今回、淵田は落ち着いて進路を決めることが出来た。


「はい。さきほどレキシントンの位置を知らせてきました。にしても隊長、電探ってのは便利なものですな」


「ふん。こちとら、北緯や西経や言われてもな。実際は三百海里を目で飛んどるだけや」


 そう言いながら、淵田は地図と操縦士からの羅針計器の数字をしきりに気にして、点在する小島を確認している。隊長機が万一迷うようなことになれば、八機の友機が全て運命をともにすることになるのだ。


 だが、この海域は幸いにも小島やサンゴ礁などの目印が多く、しっかり下と海図を見てさえおれば、コース通りに飛ぶことはそう難しくなかった。


(それにしても弾がない……)


 淵田は後席機銃の弾倉を確認しながら、そのあまりの心細さにため息を吐いた。


 空母赤城の戦闘機整備では、残り少ない残弾を公平に再配布したが足りず、別の空母から調達もしたが、それでもまだ心細かった。もともと、機銃弾は余裕が極端になかったのだ。


 この艦攻にしても、九二式7.7ミリ機銃の弾倉が2つしか渡されていない。これではいつもの三分の一、弾数にして194発……。


(でもま、泣き言を言ってられる場合やない。やるしかないんや)


 淵田は眉根をぎゅっと寄せた。




 やがて、飛行して二時間あまり、ミッドウェー南東約三百三十五海里のレーザン島の手前で、赤城を中心とする味方艦隊を発見した。


「第一航空戦隊、第二航空戦隊います!」

「おお、見えとるで。降下や!」


 淵田ひきいる艦攻、ゼロ戦ら八機が、高度をさげゆっくり艦隊を旋回すると、甲板の兵士たちが激しく帽子を振っているのが見えた。




「お、来たか!」

 草鹿が双眼鏡を目に当てた。


 九七式艦攻とゼロ戦の編隊八機が、赤城空母、加賀のいる第一戦隊艦隊のまわりを旋回して飛んでいる。


 あの九七艦上攻撃機は、まちがいなくミッドウェーに着陸していた淵田とその編隊だ。

 しばらく雄姿を見せつけた後、淵田隊八機は所定の位置へと飛び去って行った。




「敵との距離、三十海里!」

 受声機から耳を外した小野が、声をあげる。


 おれは白い手袋をした右手を通りすぎる編隊に振りながら、下命した。

「よおし!艦戦機かかれ!」


 整備員が車輪をチョークを外すと、エンジンを始動して準備を完了していた戦闘機が、首尾線を流れる蒸気に沿って走り出す。


 この赤城に残っていた、まだ無傷で元気な六機の戦闘機たちだ。


 といっても、幾度もの出撃を経て、機体はそれなりには薄汚れている。燃料のオイルや、排気、艦隊を炎上させた黒煙などが、栄光の証のように、胴体にこびりついていた。


 操縦士が、スロットルレバーをしぼり、プロペラの回転をさらにあげる。

 マフラーを口元まで引き上げ、キャノピーを締めると、速度を一気にあげる。


 総勢六機の戦闘機は、最後の決戦にむけて、中天高い陽光の中、大空に飛び出していった。

 

「制空隊、発艦完了!」


 おれはゆっくり手をふりながら、そのようすを艦橋から眺めていた。


(ようやく送りだすものを送りだすことが出来た……)


 小野通信参謀に目配せをする。


「よし、通信をすべて解放しろ。モールスを平文で打て。内容はこうだ。これよりレキシントン艦隊を破壊する。乗組員は衝撃に備えよ。撃沈に際しては乗組員の救助活動を期待する。 1400(ひとよんまるまる) 大日本帝国 第一航空艦隊 司令長官 南雲忠一」




「通告も堂に入ってきましたね」

 モールスの打電がおわって十分がすぎたころ、小野が艦橋にもどってきた。


「ああ、悪いけど大本営からの詰問はまかせるな。にしても、アメリカ人は困惑するだろうな。ジャップはいったい、なにを考えているんだろう、ってな」


「実際、なにをお考えなのです?」

「……ん?」


「電探といい、敵を倒す戦略と言い、あまりにも見事すぎます。長官になにがあったのですか?」


 小野の表情が艦橋に差しこむ逆光で見えない。午後の二時とは言え、十二月の陽射しはけっこう斜めだ。


……ん?


 小野の後方、艦橋の窓から、ごく小さい粒のような敵機が見えた。


「……来た!」


 こうしてはいられない。小野もおれも、ただちに配置につく。


「敵機約……二十!距離約一万!」

「高角砲用意!」

 四十口径連装高角砲が狙いをつけ、敵に備える。


「てっ!」


 ドンドンドンドンドンドン!

 ドンドンドンドンドンドン!


 射程距離一万四千メートルの高角砲、合計12門が吼える。


 小さな点だった敵の戦闘機は、あっという間に近づいてきて、黒い弾幕の手前でバラバラっと散開する。いったん高高度に退避してから、再度迫ってくる。


 「高角砲射程距離二千」

 「味方戦闘機にあてるな」


 「ゼロが行きます!」

 淵田隊八機、赤城発進の六機を含む、味方制空部隊三十八機が迎え撃つ。


 レキシントン搭載のF4Fは全部で約三十機だ。

 すなわち、こちらに二十機来たということは、レキシントンには十機しか残っていないということになる。だが、爆撃機ドーントレスや雷撃機デバステーターもすぐにやってくるだろう。


 どうしても、ここは一気にカタをつけておかなければならない。


 もちろん、おれたちはこの事態をレーダーで予想していた。だからこそ、迎撃に最適の位置に、味方制空部隊を展開させてあったのだ。


「この海域でやつらを叩き潰せ!レキシントンに帰すな!」


 すべての展開が手にとるようにわかる。

 知っていることは、最大最強の武器なのだ。


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