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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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隠された狙い

●53 隠された狙い


「第二次迎撃作戦成功です。撃墜雷撃機九、戦闘機七!未帰還機はふた


「おお!」


 大石の報告を受けて、おれはようやくほっと一息ついた。揺れる艦橋の中にも、兵士たちの笑顔がひろがる。


「現在までの未帰還機はどのくらいだ?」


「第一次攻撃隊で十二、先ほどまでの戦闘で八……全部でおよそ二十」


「……少なくはないな」


 こちらの迎撃隊は全部で百機を超えているから未帰還は二割以下だ。キルレシオは悪くない。やっぱ飛行機の性能より、飛行士の練度なんだな。


 だが、武運 つたなく撃墜されてしまった一人一人にも人生があり、大事な部下であることも、また事実なのだ。できるだけ多くの命を救ってやりたい。


「戦闘海域に水上機を急行させろ。できるだけ収容するんだ」


 おれの言葉に、雀部が長身をひるがえして指示を出しに行く。


 戦況といえば、ようやく数的不利が解消されつつある。


 連中の雷撃機はもう十も残っていないだろう。戦闘機にしても、護るべき攻撃機がいなくなれば、帰るしかない。あとは弾の切れた戦闘機を順次着艦させ、補充していけば、こっちのターンになる。


 現在、この三つの大型空母群は、ナム島から出撃した飛龍艦隊とは別に、マーシャル諸島の三つの島――北のロンジェラップ島には空母加賀を、東のリキエップ島には空母蒼龍を、そして旗艦の赤城はクエゼリン島沖に停泊させていた。


 それらの空母には、今もつぎつぎと弾薬の切れた戦闘機が着艦し、順次補給を行っている。ただし、龍驤、隼鷹の二艦には、それを母艦とする坂井隊を戻らせていた。小型空母に着艦させて補給するのは動きがよくないのだが、少しでも同時に作業させるため仕方なかった。


「長官」


 呼ばれて振りむくと、そこには情報管理室にいたはずの、小野参謀が真剣な表情で立っていた。


「お、小野ちん、どうした?」


「補給着艦に向かった坂井から、気になることがあると……」


「坂井から?」


 おれはどきっとした。最前線の指揮官が気になると言えば、あまりろくな話じゃない。


「なんだ、言ってみろ」


「はい。妙に敵戦闘機が減ってきたと。それも母艦に帰投していないと言っています」


「なぜ、わかる?」


 深刻そうな顔をしてる小野に、おれは首をかしげた。数が減ってきたのはわかっても、どうして帰艦していないとわかるのか?


「はい、龍驤からの南方向の電探に航空機がいないそうです」


「確認したか」

「はい。しました」


 自信のある貌つきでしっかりとうなずく。


 おれは今も着艦を待って飛行する味方の戦闘機が飛ぶさまを、艦橋の窓から見つめる。


 ここは灯火管制下にあって、艦橋の中も最低限の照明しか灯されていない。敵の襲来がないため、そこまで神経質にならずともいいのだが、そうするのがこの時代の鉄則だった。


 小野の汗ばんだ貌が、そのわずかな明かりに照らされている。


 空母飛龍艦隊に集中していた敵の戦闘機がどこかに消え、しかも、母艦にもどっていない……。


(ま、まさか!)


 窓の外を見る。暮れたぼんやりした空が、揺れながら広がっている。


 むろん戦闘にそなえて抜錨されており、揺れは激しい。それでも敵がいない空は、緊張感を欠いていた。おれたちがつい、油断してしまうほどに。


「おい!」

 おれは大石と源田に声をかけた。


「小野、電探で周囲を厳重警戒せよ」


「はッ」


「源田、哨戒を強化してくれ。敵が来るかもしれんぞ」


「諒解しました」


「敵襲ですか?」


 たずねる大石に、おれは素早くうなずく。


「そうだ。ただし、狙いはこのクエゼリン島だろう。つまり、北上した第二次攻撃隊の一部は、クエゼリン基地の爆撃にむかったんだ。アヴェンジャーは爆撃もおてのもんだし、きっと戦闘機はその掩護に合流したに違いない。そして、当然、島の沖に停泊するこの赤城にも攻撃をしかけてくるぞ。同時に両方を防衛しないといけない」


 大石にも緊張が走る。

 おれは薄暗い艦橋の天井を睨んだ。


(……まずい)


 対応が後手後手に回ってる。


 こういうときは最後に強烈な一撃をくらってしまうものだ。




 南太平洋、ナウル島よりさらに南の海上。


 マーシャル諸島に位置するクエゼリン島を目指していた米機動艦隊は、カサブランカ級軽空母六隻を中心とする艦隊であった。


 その六隻は三隻づつが二列をなし、その周囲一キロほどの海上に十数隻の巡洋艦、駆逐艦をまばらに擁している。防空戦略を練り、さらに度重なる南雲との海戦の経験を経て、彼らは空母を蝟集させてその周囲を多くの艦船で防御する輪形陣を編み出していた。


 異様なのは航空機の少なさだ。


 いつもなら、これだけの艦隊を率いるには常に直掩機という敵の攻撃に対して即応できる護衛機を少なくとも数十は飛ばしておくものだ。しかし、今、鈍く流れる雲の合間を縫うように飛び、この艦隊を護衛するのは、わずか十機にも満たないF4Fだけであった。


 その旗艦、空母カサブランカの司令塔に、司令官ハルゼーと副官のギャラウェイがいた。


 ハルゼーは睨みつけるような視線で海図を眺めている。


 今回も敵は強力な航空機を多数投入してきており、戦況ははかばかしくなかった。ついさきほども、ジャップの空母艦隊への攻撃が、どうやら失敗に終わりそうなことが、攻撃隊からの報告によりもたらされたばかりだった。


 だが、老提督の闘志は一向に衰えてはいない。


 いや、むしろ最後の一手に賭ける悲壮なまでの決意が、むっと熱となって立ち昇るかのようだった。


「では、先頭の空母艦隊は無傷か」


 ハルゼーが太い声で言う。


「はい。報告によれば駆逐艦一隻に雷撃しましたが、残念ながら不発だったもようです。重巡にも雷撃を行いましたが、沈没にはいたっておりません」


「二百も出して、そのありさまとは、な」


 自嘲気味に笑い、指先をどすっと海図に落とす。


「別動隊の方は?」

「は。そちらは……」


 いいかけて、ギャラウェイははっと口をつぐむ。老提督の相貌が、悪鬼のように思えたからだ。


 ハルゼーはギャラウェイを見、ついで窓の外に視線を移した。それはまるで、遠い宿敵に怨念をぶつけるように見えた。


「ナグモはきっといる……」


「……」


「原爆実験を成功させたいなら、島を護る基地か艦隊に、きっとナグモはいる。そして奴を殺せば、この戦争のすべてが変わる」


 絞り出すような言葉に、ギャラウェイは力強くうなずいた。


「……仰せの通りです提督。われわれはそのため、第一次攻撃隊と第二次攻撃隊からひそかに離脱させた別動隊を送りこみました。ベアキャット三十、アヴェンジャー二十、しかもそのうちの四機には、例の新兵器が搭載されております。必ずや、やってくれるでしょう」


 それはまるで、自分自身を鼓舞するかのようだった。


「やらねばならん。ならんのだ!」


 ハルゼーは唸り、また遠い海を睨んだ。


 その視線の先、はるか高い空には、日本の航空機が一機、つかず離れず艦隊を観察するように飛行していた。

いつも拙作をご覧いただきありがとうございます。飛龍空母艦隊への襲撃が終わりを見せつつ、しかし敵の別動隊が南雲を狙います。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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