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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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響に雷が突き刺さる

●50 響に雷が突き刺さる


 三本の水雷のうち、爆破できたのはもっとも左を走る雷跡だ。


 その爆破のせいで、残り二本の水雷は軌道がずれたように見える。投光器の光がその跡を追う。


『右舷後進全速、左舷前進全速!』


 どうやら彼は船の後部を左に逃がすつもりらしい。


 機関員の復唱とともに、ごおっとタービンの音が響き、空母は右に大きく傾く。


 加来は床から立ち上がる真鍮製の伝声管に掴まり、右舷を走る一隻の駆逐艦を目で追った。


「あれはひびきか?」


 残る二本の雷跡は、すそを広げるようにして迫ってくる。


「はッ!……響であります」


 横にいた監視の兵が答えた。以前は船体に書かれていた艦名も、開戦後の今は消され、わずかな印で見わけなればならない。


 加来が尋ねたのは、危険を察知したからだ。左右に開いた右側の雷跡の先に、あの駆逐艦がいる。艦隊の陣形が崩れたところに軌道を変えた水雷が、ちょうどさしかかっている。


「響に知らせよ」


 吹雪型駆逐艦には、二百名もの乗員が載っているのだ。航空魚雷とはいえ、直撃されたら小さな駆逐艦ではひとたまりもない。


 たしかに、響も全速で航行しながら、雷跡をかわそうと面舵をとっている。だが、雷跡はなおも響の進行方向へと進んでいく。


(間に合わんか)


 そして……。


 ゴオオオオオオオオオン!


 鐘をつくような大きな音がひびきわたった。


 響がその船体を震わせながら大きく傾ける。なにがおこったのかわからないまま、加来はもう一本の雷跡を追う。


 それは黒ずんだ海中を白い泡となって飛龍に迫っていた。


 巨大な空母が、ほとんどその場で右方向に回転をはじめる。


 シュシュシュシュシュ……。


「かわします!」

 監視員が叫ぶ。


 雷跡は右舷船尾のわずか数メートルを後方に流れていった。


 艦橋に安堵の声が聞こえる。

 加来は振り返る。


「対空戦闘を継続。上空監視を怠るな。第六駆逐隊に響の状況を確認せよ」


 そう無線士に命じる。しばらくやりとりをしていた兵士は、なぜか拍子抜けしたような表情になって、イヤーレシーバーを耳から外した。


「……響は右舷中央に水雷が命中。ただし不発弾だそうです。つまり、どてっぱらに敵の水雷が突き刺さったままのようで」


 艦橋の兵士たちから、どおっと奇妙な歓声があがる。


 まさか、ということがおこるもんだな、と加来は息を吐いた。


「よし、振動による誘爆のおそれもある。響はただちに離脱させよ」




 坂井や高橋たちの追撃にもかかわらず、敵艦隊の第二波攻撃は、空母飛龍を敵と定め、その周囲を大きく旋回しはじめた。


 五十機ほどもいたアヴェンジャーは、ほぼ半数にまで減っているが、戦闘機はまだ四十機は残っていそうだ。それも、ほとんどがF6Fか、F8Fの優秀な機体ばかりだ。


 時刻はすでに十九時を回っていた。日が落ちたばかりのマーシャル諸島には、まだほんのりと明るさが残っている。雲の白さが、かえって敵機の姿を見やすくしているのだった。



 飛龍直掩隊の楠美は、僚機とともに果敢な攻撃を繰り返している。友軍機たちは弾薬を失った機が離脱し、数が徐々に減りつつある。


 艦隊周囲を旋回する航空機の中では、小型でずんぐりしたグラマンが目立ってきていた。敵の雷撃機は今も雷撃の機会をうかがっているが、日本軍決死の突撃に遮られ、決定的なチャンスをものにできていない。


「二時の方向、雷撃機がいくぞ!」


 楠美が無線で叫ぶ。直掩行動の場合、時計の方角は常に旗艦を基準とするよう決められていた。


『俺が行きます!』


 誰かが応答してつっかけに行くのを見て、楠美も操縦かんを回す。スロットルを押しこみ、疾風の馬力で追いつき、機銃をばらまく。


 ガガガガガガガガ!

 バシバシ!


 右の翼に数発は当たったが、折れもせず飛び去っていく。なんて頑丈なやつだろう。


 楠美はそっとその雷撃機を追うことにした。距離をとり、あえて後ろにはつかないようにする。後方に不気味に突き出た回転機銃が、ひどくやっかいな代物なのだ。


「おい、あれをやるぞ。俺の上を飛べ」


 僚機はすぐに楠美の意図を察した。旋回態勢にもどろうとする雷撃機をつける楠美機の百メートルほども上を僚機が陣取り、さらにその上を別の僚機が重なるようにつく。


「行くぞ!」

 スロットルを全開にする。


 雷撃機の後方に接近する。機銃レバーを倒す。


 ドガガガ!


 後方機銃が反撃すると同時に、敵機があわてて上昇していく。こうした場合、下へ行くことはほとんどない。


 それを見た楠美はすぐに追撃を止め、ふと目についた上空のグラマンにつっかかっていく。あとは僚機に任せるのだ。上にいくほど、僚機が何段にも攻撃を重ねる作戦だった。


 だが面白いことに、そのグラマンはいかにも練度が足らないように見えた。楠美に下から後方につかれても、まるで警戒もせず漫然と飛行している。


(新兵か?)

 ゆっくり近づく。


 グラマンはまだ気づかない。防弾板が邪魔して飛行士の顔は見えないが、こちらに振り向いた様子はなかった。


(よし、いい獲物だ)


 照準を合わせる。もう少しでど真ん中になる。

 心の中で数を数える。


(一、二ぃの、三!)

 ダダダダダダ、ダダダダ!


 十二・七粍機銃を発射した瞬間、グラマンがひらりと横転して視界から消えた。


(なにっ!)


 まるで後ろに目があるようだった。首をめぐらし、懸命に相手を追う。


(いた!)


 追いかけて機銃を撃とうとするが、またひらりと躱される。

 その時、曳光弾が上空から飛来する。


 ピュン、ピュン、ピュン!

(まずい!これはまるで……)


 右へ、左へ、横転して態勢を立て直す。


 ピュン、ピュン、ピュン!

(これじゃ、まるで俺が獲物みたいじゃないか)


 必死でスロットルを押しこみ、思い切って下へひねりこむ。


『隊長!』

 僚機の声がする。


 目の前にグラマンが見えた。だが速くて疾風が追いつけない速度だ。後方には複数の敵機がいる。このまま、やられるのか……。


 ダダダダダダダダダ!


 上空から僚機が機銃を撃ちかけてきた。


 目の前のグラマンがキャノピーを吹き飛ばされ、きりきりと舞い墜ちていく。


『狙われてましたよ隊長』


 ようやく水平飛行をとりもどしたころ、僚機が無線で言った。


『あいつ英国兵じゃないですか?』

「すまん、油断した」

『いえ、偶然見えたもので』


 若い兵が謙遜して言う。若いといっても、真珠湾以降に航空機に載ったと言うだけで、幾多の戦闘を経て今ではすっかりベテランの飛行士だ。以前は坊主頭の童顔を艦攻に載せていたが、この海戦の前に疾風に鞍替えさせ、空戦をしっかり教えこんだ。


『とにかく助かったよ。しろ飛曹』


 楠美は部下に助けられたくすぐったさに、思わず頬をほころばせ、そして慌てて口元を引き締めた。なんといっても、まだ、戦闘中なのだ。


「おい、さっきの雷撃機はどうなった?」


 厳しい顔つきを取りもどして問う楠美の声に、無邪気な城の声が返ってくる。


『むろん撃墜確実であります、楠美少佐の作戦、お見事であります!』


 若い飛行士は確実に育っている。ベテランは生き残り、そして練度はいよいよ高い。


 楠美はややあって、「うむ、ご苦労」とだけ言った。


いつも拙作をご覧いただき感謝です。勝ってるように見えても、実は敵は多く数的にも不利。飛龍の運命は……? ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。



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