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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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雷撃との戦い

●49 雷撃との戦い


「なにか見えるぞ? ありゃなんだ?」


 フェリックス・ピンクニー大尉は、濃い睫毛に覆われたブルーの瞳を凝らした。


 遠い海上に、明るく照らし出されている何隻かの船が、白い航跡を残して航行しているのが見える。


 彼らに与えられた作戦は、クエゼリン島付近に停泊する南雲艦隊の旗艦を見極め攻撃せよ、というものだった。ここはもうマーシャル諸島に八十マイルの海上だから、いま、目にしている艦隊もその一部には違いない。だがなぜ、わざわざ目立つようにサーチライトを点灯しているのか。


 飛来する敵機の追撃はあいかわらずすさまじい。


 彼が操縦かんをにぎるこのアヴェンジャーも、すでに十発以上は被弾している。機体が強靭なのはありがたいが、このままではいずれ飛行不能に陥るだろう。大型空母がいたのなら、さっさと雷撃をすませてしまいたかった。


「おいティム、敵がいたぞ!」


 後席に声をかける。


「……あ、本当だ」


 ティムは首をのばして、フェリックスの指さす海上を眺めた。


「ありゃあ戦艦、あ、その後ろが空母ですかね」


 ガンガン!

「うおッ」


 ぐうっと右に機体を傾ける。


「大丈夫か!」


 叫ぶようなフェリックスの問いに、同じく大声のティムが答える。


「大丈夫です大尉!」


 周囲には日本の戦闘機が飛び回っている。プロペラ音や銃撃音が耳をつんざく。


「ケガは?」

「ありません」


 やはり、もう一刻の猶予もならない。攻撃命令はまだか。そう思った次の瞬間、雑音まじりに中隊長から無線がはいった。


『リスカム・ベイ雷撃中隊は攻撃態勢に入れ。目標は前方の敵艦隊だ』


『こちら第一小隊のブッシュ、ラジャー』


 中隊長も一万メートルほど離れた海上の敵艦隊を視認したのだろう。ありがたい。これで重い魚雷ともおさらばできる。フェリックスは無線マイクのスイッチを入れた。


「こちらピンクニー、ラジャーだ、第二小隊ただいまより攻撃する」


『オーケー、戦闘機中隊が掩護する』


「たのむぜマシュー」


 フェリックスは応答を返し、フェリックスは操縦かんをゆっくり押した。


 右前方から仲間のアヴェンジャーが突撃態勢で先行する。彼らも高度を落としていくようだ。


 こちらも月明かりを頼りに、ぼんやりと浮かぶ海面へと降りていく。計画では敵の高角砲とVT信管への対策として、雷撃隊は距離五千以上からの雷撃を命令されている。


 あまり性能のよくない魚雷だから、どう考えても遠すぎるが、安全に雷撃するにはこの方法しかないらしい。そのぶん、フェリックスと仲間はこの二か月、三十ノットで航行している船への雷撃演習を、たっぷりとやってきたのだ。


 さらに高度を落とす。


 風はそれほどないが、海面は近づくほどに白い波が見えてくる。


 よし、順調だ。これなら……。


 そのとき、とつぜん目の前に現れた敵の編隊が機銃を撃ちこんできた。


 ダダダダダダ、ダダダダ!

 ピュンピュン、ピュン!

 ガンガンガンバキン!


「ぐあッ!」


 キャノピーが割れ、血しぶきが飛ぶ。右肩を撃ち抜かれたフェリックスが歯を食いしばる。カッと熱が走り、右腕がぴくとも動かない。左手で操縦かんを操作する。


 新手の敵機がやってきたのだ。おそらく、艦隊の護衛機だろう。


(機体は大丈夫か?)


 なにか右の翼に違和感を感じる。だが飛行にはなんとか支障がなさそうだ。


「た、大尉~っ」

 気づけば、ティムが叫んでいた。


「……大丈夫だティム。心配するな……俺に、任せろ」

「ア、アイアイサー!」


 左手で魚雷の投下レバーはまだ引ける。だが、操縦をやりながらは至難のわざだ。気を失わないように、必死で目を見開く。


 ドドン!


 先に行った仲間のアヴェンジャーが海面に突入するのが見えた。あいつも新手の敵に攻撃されたのか。


 高度を落とし、艦隊正面にいる戦艦を避け、旋回して斜めにつける。曳光弾がまとわりついてくる。味方の戦闘機がそれを追い払う。


 激しい戦闘が行われるなかを、フェリックスとティムのアヴェンジャーは満身創痍でつっこんでいった。


 速度を百三十マイルに落とす。距離は五千くらいか。やってきた訓練の通り、進行する空母艦隊の前方を狙う。左手を操縦かんから放し、そのまま投下ハッチのレバーを引く。がくん、とおなじみの軽い衝撃があって、爆弾倉のハッチが開く。


 ガンガンガンガン!


 また被弾してキャノピーの鉄枠に火花を散らす。

 だが、かまってはいられない。


 目の前に敵の艦隊が迫ってくる。敵の速度と魚雷の速度を予測して、前方に狙いをつける。


(1、2、いまだ!)


 ずらりと並んだ投下レバーの上から二番目をがっと引っぱる。


 がくん、と魚雷が投下された衝撃を感じて、フェリックスは操縦かんに手を戻した。ぐっと斜めに引き上げる。よし、あとは離脱して帰るだけだ。


「ティム、投下したぞ!」


 首尾を確認したいが、雷跡をおいかけるわけにはいかない。


「ティム?」


 慌てて後部座席に目をやると、がっくりと首を墜としたティムの姿が目に入った。


「おい!」


 必死に操縦かんを握り、痛む肩をかばいつつ声をかけても、ティムは反応しなかった。フェリックスは前を向き、

「ばかやろう……」

 と、だけつぶやいた。




「右舷前方に雷跡多数、距離四千ッ」


 伝声管に声が響く。投光器がその方向へと向けられるが、艦橋からではよく見えなかった。


「航海長」


 加来の声を聞くまでもなく、長益が飛びだしていく。開け放たれた鉄扉から監視塔上部へと走る。ややあって、伝声管から長益の声が聞こえてくる。


『機関、両舷停止!全速後進!』


 なるほど、このままでは当たるということか、と加来は思った。双眼鏡で見えなかった雷撃は、相当に遠い距離からのものらしい。こちらの高角砲を恐れてのことだろうが、それにしても隔靴掻痒たる雷撃だ。


 そう思って息をつこうとしたとき、ふたたび声が響いた。


『左舷前方より雷撃あり。距離二千!』


 近い!

 あるいは見落としていたか。


 加来は窓から周囲を見る。駆逐艦隊が掩護して周囲を固めているが、距離は数百メートルは離れている。高角砲の曳光が見えているところを見ると、かなり接近してから水雷を投下したのかもしれぬ。


「総員、雷撃にそなえよ」


 ごおっと音がして飛龍が甲板の前方をもたげる。そのタイミングでふたたび長益の声がした。


『機関右舷全速、左舷五十』


 空母は重い。ゆっくりと、だが確かな起動音がして右に傾きはじめる。


 母艦の停止にあわせて前に出たかっこうの駆逐艦隊が、左舷へと徐々に離れていく。


 その隙間に左舷の雷跡がすべりこんでくる。


(躱せるか……?)


 双眼鏡を手にするまでもない。左の窓からも、その白い筋ははっきりと見えた。


「水雷 ひと来ます!」


 シュシュシュシュシュシュ……。


 その雷跡は不気味なほどの速さで、飛龍の左舷後方へと消えていった。


『機関全速~~っ!』

「右舷、水雷三、来ます!」


 最初の水雷が今ごろ来たらしい。加来はひどくローリングする艦橋をゆっくりと右の窓へと移動する。夜目にも白い雷跡は、どんぴしゃでこの艦に向かってきているようだ。


 飛龍の四基のタービンが唸りをあげる。


 雷跡が近づいてくる。距離はまだあるが、コースはあまりにも危うげだ。


「機銃で水雷を撃て」


 加来が言った数秒後から、あるいは周辺の艦隊からはその十秒後から、一斉に機銃の掃射が行われる。


 ガガガガガガガガガ!

 ダダダダダダダダダ!


 機銃音がうずまき、光が海面へと走る。なかなか当たるものではないが、やらないよりはマシだ。


 投光器が雷跡を追う。その光跡に激しい銃撃が集中する。曳光弾が海面を叩き、ビシビシと小さな水柱をあげた。


 ダダ、ダダダ……。

 ドオオオオオオオオオオオ!


 機銃は見事水雷を捕らえた。


 左舷前方の海面がごぼりと盛り上がり、ついで十メートルほどもある水柱があがって、しぶきを撒き散らした。


 少なくとも一発は葬った。あとは……?


 目を凝らすと、二本の雷跡が海面を走ってくるのが見えた。まだだ。まだ来る!


激しい雷撃戦がつづきます。当時、アメリカの護衛空母には一個中隊の戦闘機とアヴェンジャーが二十機ほど搭載されていたそうで、この二次海戦では三隻分の空母から出撃している想定になっております。ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] すごいどうでもいいですけど、空母主体のお話しだから出てこないだけで、陸奥ってまだありますよね?
[良い点] 魚雷戦なら眼下の敵を見ましょう。 雷撃シーンは圧巻です。
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