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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
277/309

迎撃隊、北へ

●42 迎撃隊、北へ


「なに? 龍驤と隼鷹に見向きもしない?」


 おれは源田の報告を聞いて愕然とした。


 ……そうか、ありうるな。


 敵の作戦目標は原爆投下のセレモニーをぶち壊すことなんだ。それには、クエゼリン島の指令部か、そのまわりの艦隊をつぶす方がいいってわけか。あるいは、おれか山本さんが狙いなのかもしれない。どっちにしても、龍驤と隼鷹は無視してもいい。


「坂井たちは?」


「は。現在は攻撃隊を追撃しております。なお、敵は雷撃隊がほとんでで爆撃機は見当たらないと」


「……ううん、考えたな」


 敵司令官の考えが読めてきた。こっちの強力な武器である電探連動高角砲を避けて、空母艦隊には遠距離からの雷撃をするつもりなのだ。一方、一部の爆撃機はおそらく基地破壊が目的かもしれない。


「よし、それなら方法はある。雷撃機を徹底的に狙え。戦闘機は速くても、雷撃機は遅い。たぶんアヴェンジャーだろうから、速度は四百キロそこそこのはず……ただし、敵戦闘機からの一撃離脱には注意しろ」


「高橋がもうすぐ龍驤海域を通過しますが、加勢させますか?」


「いや、そっちは戦闘機が少ない。これ以上損耗させては攻撃隊を援護できない。素通りさせろ」


「わかりました」


 攻撃隊からは戦闘機を一部抜いてあるから、加勢させるわけにはいかない。というより、最初はなから加勢させるための戦力は割ってある。


 敵雷撃隊への攻撃も坂井ならその判断はすでにやってくれているだろう。F6FやF8Fはやっかいだし、その攻撃を回避しながら戦うのは容易じゃないが、相手が雷撃機なら、そこが弱点になる。




 激しい交戦が龍驤海域で始まった。


 指令部の指示を受け、坂井らは雷撃機に攻撃を集中する。


「迎撃隊は雷撃機を狙え!」

「上に気をつけろ。油断するな」

「坂井小隊は上空旋回して戦闘機を警戒せよ」

「先頭に追いつけ! 北へ行かせるなッ!」


 坂井は状況を見ながら詳細な檄を飛ばしていた。むろん、自らも友軍機が危ないと見れば、曳光弾を乱射して救援に入った。


 敵の雷撃機は、はたしてTBFアヴェンジャーだった。水雷を抱いた機体は、速力が四百キロに満たない。最高速六百キロ後半の疾風から見れば、二百キロの速力差で追い越すことができる。


 北上する敵編隊の先頭は、F8F五機に掩護されたアヴェンジャー十機であった。高度は七千にも達している。雲が多く、ともすれば白い闇にまぎれそうになるのを、疾風隊は必死に追う。


 率いていたのは、隼鷹航空隊長の志賀淑雄しがよしお大尉であった。もとは空母赤城に乗っていたが、大分航空隊分隊長から海軍大尉に進級。空母加賀を経て四月から隼鷹に乗っていた。


「いたぞッ!行かすかッ!」


 志賀はもともと激しい性格だった。腕に誇りもある。隼鷹を通り過ぎた敵に、なにやらいわれのない怒りを覚えていた。


 それもそのはず、彼は加賀から商船空母隼鷹に転勤を命ぜられ、源田に強く抗議したばかりなのだ。その隼鷹を通り過ぎたということは、お前なんかいつでも沈められる、と言われているような気がした。


「なめんなよっ!」


 ガガガガガ!


 憤懣やるかたなく機銃を軽く試射する。僚機もそれに倣う。


 小さく見える敵編隊の黒点を発見し、いったん上空へと占位する。見失うぎりぎりのところで、スロットルを全速に押しこんで急行下する。


 疾風の編隊に気づいたF8Fが横転して、迎撃に転じた。


 実に素早い動きだ。アメリカの飛行士はもう活きのいいのが残っていないと聞いていたが、志賀の目には十分なベテランに見えた。


 前回の海戦で捕獲した捕虜の中には、イギリス人パイロットも混じっていたと聞くが、もしかするとそういう連中かもしれない。


 だが、今はそんなことを考えているヒマはなかった。まずは雷撃機に狙いを定め、ぐん、と高度を落とす。と同時に機首を持ち上げ、下方から機銃を撃ちかける。不気味な魚雷が眼前に迫るのを見ながら、二十粍機銃のレバーを押しこむ。


 ガガガガガガガガガガ!


 被弾はさせたが不十分だ。あっと言う間に追い越し上昇しようとしたところで、上空から敵の戦闘機が曳光弾を浴びせてきた。


 ピュンピュンピュン!


「おっと!」


 横転して躱し、右へ旋回する。本来ならいったん離脱してようすを見るところだが、とにかくこいつらを先には行かせたくない。


 僚機に無線を送り、ふたたび雷撃機を狙う。


 敵戦闘機を躱し、隙が見えたところで雷撃機に追いつき、斉射する。


 ガガガガガガガガガ!

 バキャァァァァァァン!


 アヴェンジャーが空中分解をおこした。魚雷が離れ、本体とバラバラになって落下していく。


「よおし、いっちょあがりじゃあ!」


 その刹那、また曳光弾が降り注ぐ。


 ピュンピュンピュンピュン……


 バスバス!

「うおおッ」


 翼に衝撃を受けて左に横転して逃げる。ぐいっとひねった操縦かんを戻し、念のため後方に宙返りして周囲を観察する。


 被害状況はよくわからない。じっくり損傷部を確認する時間もなかった。この疾風の防火能力に期待するだけだ。零戦とちがって、この疾風には操縦席の後部防弾板もあったし、CO2の自動消火装置や、ゴムを翼タンク内に貼りつけてあるため、燃料漏れや発火の心配も少ないはずだ。


 首を伸ばして上空を見あげる。雷撃機の行方も気になるが、敵の新戦闘機をやらないと危険がずっとつきまとう。よし、やってしまおう。


 上空を目指したところで。敵のグラマンがくるりと反転してこちらに向かってきた。やはり手練れだ。相手に不足はない。


 このままだと相手に有利になる。うまく死角を狙って敵の後方下部にもぐりこみ、そこから宙返りして腹を狙う。


 ガガガガガガガガガガガガ!


 二十粍を撃ちこむが、敵機はさっと右へ流れるように横滑りする。すると開けた眼前に並走するF4UコルセアとTBFアヴェンジャーが見えた。


「ついでじゃ!」


 二十粍と七・七粍を同時に発射する。


 ガガガガガガガガガガガガガガ!


 バシバシバシバシバシ!


 最初はコルセア、ついでアヴェンジャーに曳光弾が吸い込まれていく。


 火を噴いて墜ちていく両機をながめて、溜飲をさげたとき、また上空からの曳光弾が降りかかる。


 ピュンピュンピュンピュン!


「こら、待たんか!」

 横転して逃げる。


 しつこい敵だ。そもそもお前、掩護が使命じゃないのか。仲間を撃たせてその間に攻撃態勢をとるとは、どういう了見だ。


 ピュンピュンピュン!


 こんどは後ろをとられた。一発がガツン、と分厚い防弾板に当たって背中を殴られたような衝撃が走る。気を失いそうになりながら、それでも志賀はスロットルを全開に押しこんだ。


 気配で敵機が近づいてくるのがわかる。宙返りするが、敵機も同じように回る。横転し、こんどはひねりこみで逃げる。


 ピュンピュンピュンピュン!


「くそおおおおおおおお!」


 もうだめか、と思った瞬間、友軍機が斜め上から切り込んできた。志賀の機体とすれ違うようにして機首をぐいっと上げたかと思うと、機銃を敵機に撃ちかける。


 ガガガガガガガガガガガ!


 どおおおおおおおおん!


 なにがなにかわからず、しかしバンクして仰ぎ見ると、さっきまでの敵が派手に破壊されるのが見えた。


(誰だ……?)


 北を急ぐその機体に並ぶ。


「坂井!」


 見えたのは、にやりと笑う坂井の笑顔だった。レシーバーを口に当てる。


『獲物はまだおりますぞ』


 ひとことだけ聞こえた無線に、志賀は苦笑するしかなかった……。



ついに交戦がはじまりました。一筋縄ではいかない敵、追いかける不利を坂井らはどう戦うべきか。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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[気になる点] 今さらですが・・・ 坂井三郎氏が少佐? 志賀淑雄氏が部下? 大空のサムライの著者でもある坂井氏この頃は空曹長クラスではなかったでしたっけ? 志賀淑雄氏は海兵出身のエリートですし、坂…
[良い点] いい空戦じゃねえか!
[良い点] ミッドウエー海戦の時に雷撃機(デバーステーター)が鈍足にも関わらず、低空を這い、戦闘機を低空に引き付けドーントレス急降下爆撃機の攻撃を援護しました。 雷撃隊は壊滅でしたが、爆撃で3空母壊滅…
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