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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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緻密な作戦

●40 緻密な作戦


 雷跡がのびていく。


 狙いこそ慎重につけ、操縦かんはしっかりと握っていたが、弾幕ははげしく、榴弾にもやられた。水雷を投下してもその戦果に絶対はない。果たして命中するのか。


 だが、それを見届けるのは後だ。とにかく今は高角砲から逃げなければならない。隊長は操縦かんを引き、スロットルを全開に押しこんだ。


 重い機体が上昇しはじめる。左へ大きくバンクさせると、水しぶきがかかるほど近かった海面が急速に遠ざかり、白い空が見えてきた。


 そのまま全速で離脱すると、敵の戦闘機は、攻撃をはじめた友軍機に気をとられ、追ってはこなかった。


 機体を斜めにして下が見えるようにする。偵察員の目に敵艦隊と、水雷の白い雷跡が映った。


「どうなったんだ!?」


 そう隊長が叫ぶのとほぼ同時に、どんっと水柱があがる。


「!」


 ややあって、轟音がとどろく。


 ドオオオオオオオオ―――――ン!


「命中~~ッ」

「やったぞ!」

「戦果は?!」


 遠ざかる海面に目を凝らす。


「……て、敵空母に命中!」

「よおおおおしッ!」


 乗組員全員が雄たけびをあげる。


 隊長はかあっと身体が熱くなるのを感じた。


 気がつけば、冷静だとばかり思っていた自分が、誰よりも大声をあげていた。もう一度旋回して確認する。そこには米空母が左舷前方の船体に穴を穿たれ、もうもうと煙を上げているのが見えた……。




「中攻が敵空母一隻を雷撃しましたッ」


「おおおおおおお!」

「やるなあ七五五空」

「実にお手柄だ」


 艦橋が一気にわく。源田が詳細を報告にやってくる。


「敵艦隊を三二二號機が発見、そのまま空母への雷撃に成功した模様です。残り三機も集結しましたが、攻撃に成功したのは一機のみであります」


「お見事だ。つぎはわれわれの番だな」


 そう言いながら、おれは気を引き締める。


 喜んでばかりもいられないのだ。敵が見つかり、先制攻撃をしたのはいいが、やつらは結局裏口からやってきていた。だとすると、空母龍驤と隼鷹という、先兵と化してしまった二艦が危険にさらされることになる。


「あの二空母は図上演習でもやられてたよな」


「そうですな」


「無理もない。あの二艦は前の海戦で相当傷ついたからな。いっそ、囮に差しだす手もあるが……」


「……」


 大石はぐっと唇をかみしめている。


「ま、そうだよな。乗組員のことを考えると、そうもいかん」


「いっそ、下げますか」


「いや、航空機の方が早いから意味がない」


「うーん」


 方法はひとつしかなかった。おれは海図を手元に引き寄せる。


「よし、航空機を二手に分けよう。源田と雀部も聞いてくれ」


 海図に、それぞれの空母の位置から数字と矢印を描いた。


「現在、出撃できる航空機は全部で二百五十機ほど。艦隊すべての直掩機を半分にして五十機程度の戦闘機でやるとすると、残りは二百機ほどになる。それを攻撃隊と迎撃隊の二手に分けるんだ」


 敵艦隊の位置に矢印をひっぱり、攻撃隊と書く。もう一本のラインは龍驤と隼鷹の海域で、そこには迎撃隊と記入した。


「このように、半分は計画通り敵艦隊に向かわせるが、残りは龍驤と隼鷹のいる海域に集結させ、その海域で防御に徹するんだ。そうすれば二艦も護れるし、相手の出方を見ながら、戦法を自在に変化させることもできる」


「指揮がむずかしそうですな」


 横で源田が不安げに言った。


 たしかにそうなのだ。この時代の航空作戦ではそんな緻密な指揮はとらず、もっと単純に作戦を一つか二つに絞って、あとは現場に任せるのが通常だ。


 だが、音声無線が発達して逐一の判断と命令を出せるようになった今では、臨機応変な作戦行動がとれるはずだった。


「確かに指揮は難しい。だが現場の人間が無線で逐一判断するなら、それも可能とおれは考える」


「なるほど……」


「いいか、もういちど整理するぞ。直掩機を減らし、攻撃隊と迎撃隊を編成する。作戦目標は一隻の損害もなく、敵を全滅せしめることだ。この目的のために、両隊は相手の出方を見つつ、臨機応変に移動せよ。その判断は、攻防それぞれ二名の現場指揮官が行い、司令部は統括して指揮を行うべし」


盤根錯節ばんこんさくせつですな」


「で、誰を指揮官に……」


 みんなが沈黙したので、おれはぽつりと提案する。


「坂井さんと高橋さんでいいんじゃない?」


「さん?」


 史実を知るおれが、つい敬称をつけてしまい、慌てて訂正する。


「いや、龍驤攻撃隊の坂井三郎と、赤城の高橋赫一だ」


 源田が唸った。


「……どうした?」


「あ、いや、面目ありません。つい」


 頭を掻きながら、源田がふっと笑顔になる。


「あいつらなら、真っ先に自分たちが戦闘に参加しそうだな、と」


現場からの詳細な報告をもとに指令部が綿密に逐一判断する現代式の指揮系統が生まれそうです。ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。



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