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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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源田の慧眼

●36 源田の慧眼


 小野は不安そうに曇天の空を見た。風はますます強くなり、ともすればおれたちの帽子を吹き飛ばしそうになった。


「この天候じゃ少し不安ですね……」


「いや、一週間もてばいいんだ。原爆実験までの間だけな」


「それは、そうですが……」


 おれたちは強い風に揺れながら立っている電波塔を思い描いた。材料の弱さを、構造がかろうじて支えているけなげな姿だ。風が吹くたびに揺れることで、力を分散させている。おれたちはその強さを信じた。


 いつしか甲板には哨戒機がいなくなっていた。爪痕のようなタイヤの跡がわずかに残っている。おれはその様子を見て、小野に向き直った。


「とにかく、今は索敵だ。艦橋にもどろう」




 緊張感に包まれた時間がじりじりとすぎていく。


 ときおり、情報管理室から哨戒機の報告がもたらされ、源田はそのたびに、机の上の海図に航空機の現在位置を記した。


 マーシャル諸島はいくつもの小さな環礁が点在する群島だった。


 おれたちが原爆実験を計画しているビキニ環礁はその最も北西に位置し、クエゼリン島はそこから約二百キロ南の位置にある。


 アメリカ機動艦隊が出航したハワイは、このマーシャル諸島から見て北東方向だから、彼らはその方角からやってくるものと思われていた。


 したがって、おれたちの哨戒機はマーシャル諸島からハワイにかけてのほぼ百二十度方向を調べているのだった。


 ちなみに、クエゼリン島の周囲には、それぞれ約百キロの距離に、拠点となる島々がある。そこで、おれは一度に攻撃されるリスクを回避するため、


 北のロンジェラップ島には空母加賀を

 東のリキエップ島には空母蒼龍を、

 南にナム島には空母飛龍を、

 そして旗艦の赤城はクエゼリン島沖に


それぞれ配備している……。



 昼が近づいて来た。


 天候はあいかわらず、嵐の前ぶれのような、風の強い曇天だ。その白一面の空を双眼鏡で眺め、おれは哨戒機からの連絡を待つ。


 ふと気づくと、源田がじっと海図を睨んでいる。


「どうかした?」


「……どうも腑に落ちませんな」


「なにがだい?」


 源田が腕組みをして、首をかしげる。精悍な貌を引き締め、なにかを思案している。



「ハワイとマーシャル諸島の距離は二千四百マイルですよ。仮に二十ノットだとしても百二十時間あれば着くわけです。なのに、これだけ飛んでもまだ見つからない。もしや別の方向から来るつもりではないですか?」


 源田はおれの知っている世界線では、戦後自衛隊で初代の航空総隊司令につき、航空幕僚長を務め、航空自衛隊の育ての親となった人物だ。その頭脳明晰な彼が、なにかに気づいたらしい。


 おれは考え込む。


「確かに、ありうるな……だとしたら、どこからだろう。……あ」


 おれたちは顔を見合わせ、ほぼ同時に叫んだ。


「裏口か」

「裏口ですか!」


 思わず苦笑する。


「急ぎ索敵範囲を拡大しよう」


「わかりました」


 おれはあらためて海図を見つめる。マーシャル諸島の南に、ナウル島という日本がこの夏占領したばかりの島があり、おれたちは、そこを裏口と呼んでいた。


「まさか、六隻の空母艦隊が裏口に……」


「いや、ありうるぞ。やつらの航空機が千マイル飛ぶとすれば、裏口、ナウル島付近からくのクエゼリン島はちょうど三百マイル。十分、飛んでこれる距離だよな」


 ちなみに図上演習では、アメリカが裏口に分かれた場合、反撃して撃沈に成功したものの、空母龍驤と隼鷹がやられてしまった。あまりに味方艦隊と離れていたために、掩護が間に合わなかったのだ。あれがもし、六隻だったら……。


「南だ。南にも哨戒機を飛ばせ。それとナウル島に連絡して哨戒機を出させろ。下にいる山本さんの名前も使え」


「わかりました!」


 源田がすぐに駆け出していく。




 ここはナウル島である。


 この島の歴史は意外に古い。有史以前から島は存在し、マヌーに乗って渡りついた島民は豊かな海洋資源を頼りに平和に暮らしていた。1798年に英国船が立ち寄り、1888年ドイツの保護領となったのち、第一次世界大戦後はオーストラリア軍が占領した。その後、国際連盟委任統治領を経て、この1942年八月、現在は日本軍が占領している。


「大尉、海軍の山本長官と南雲中将より緊急無電です」


 無線のレシーバーに耳を当てていた兵士が、空母赤城からの電文を受け取り、あわてて草原に駆けだす。草が生い茂る滑走場のむこう、食堂とは名ばかりの、屋根しかないおそまつな小屋の隅で、木崎仙一大尉は、数少ない航空機を増やしてくれるよう、軍令部への陳情書の下書きを書いているところだった。


「見せろ」

「はっ」


 きびきびとした動作で、汗まみれの兵士が紙を差し出す。


 大尉はそれを受け取り、黙読する。


「「

 山本五十六、南雲忠一発  第七五五航空隊 木崎仙一


 米機動艦隊の来襲にそなえ、ただちにナウル島を起点とする方位九十度より百八十度、距離五百マイルの索敵哨戒を命ず。尚、発見せし場合はただちに報告するとともに、当該艦隊を攻撃せよ。

」」


「アメリカ艦隊……だと?」


 木崎は呆然とした。


 どうする?

 ここには一式陸攻が四機あるだけだぞ?



源田実がクリーンヒットの図です。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 源田さんの顔、人型猛禽類って感じで怖いけどこれぞ軍人って感じで格好良くもありますよね。
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