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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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ナグモの失敗?

●34 ナグモの失敗?


 山本さんと本国への返電を行ったおれは、いそいで自室に戻り、迎撃作戦を考える。


 物量と工業力の国アメリカが、いよいよその実力を発揮してきた。彼らが前回の空母三隻に、さらに新就航の空母三隻を加えた六隻を投入してきたからには、今度こそ、ただではすみそうにない。今回の戦いには、戦争の停戦条件がかかっているわけだから、まさしく互いの実力とプライドをかけての決戦になるはずだ。


 それに、前回までの戦いで、彼らはチャフ、VT信管など、おれたちに一日の長のあった電波兵器を次々に投入してきており、その優位性は徐々に失われつつある。


 空母艦隊の戦いにおいて重要な航空機の数にしても、六隻の空母ならおそらく二百五十機は優にあるだろう。おれたちの艦隊は赤城、加賀、蒼龍、飛龍、龍驤、隼鷹があるものの、山本さんに残した二空母は消耗が激しく、総数はほぼ同じくらいしかないのだ。


 くわえて、アメリカは前回の戦いでF8F戦闘機を投入してきており、こいつは疾風とほぼ同格か、ヘタすると性能においては上回るはずだった。さすがに飛行士の練度は連戦連勝のわが国優位だが、歴戦の疲労と消耗は激しく、このままでは運が左右する互角の戦いになってしまう。


(まずいなあ。そろそろ負けるころあいなんだよなあ……)


 空母六隻対実質四隻。

 最新鋭空母対ロートル船団。


 こうなると、相手の位置をつきとめ、いち早く攻撃をしたほうが優位になるだろう。しかし、こちらは原爆実験という離れられない拠点があり、その点においても不利だ。いったい、どうすれば必勝の作戦がとれるのか。


 あれこれ悩んでみたものの、いい思案は浮かばなかった。いっそ、原爆を米艦隊のど真ん中に落としてやろうか、などと乱暴なことを思ってみるが、それこそコスパが悪すぎて話にならないよな。


 たった六隻の空母、全艦隊合わせても二十隻やそこらの船を沈めるのにいちいち原爆なんか使ってたら、核が通常兵器化して、最悪の歴史をひもといてしまいそうだ。


(このままじゃ勝利の確信が持てない。そんな戦いはするべきじゃあない。しかし……)


 おれは悩み続けた……。




 ハワイ沖。


 米空母六隻が巡洋艦や駆逐艦を引き連れ、威風堂々と南西を目指し航行している。この季節にはよくあるように、風は強く、ここ数日、天候はめまぐるしく変転している。夕方の太陽はまだ低い位置にあったが、雲に隠れて空は早くも暮れ始めていた。


 艦隊の旗艦となっているのは、前回の海戦で手痛い反撃を食らって転進した空母カサブランカだ。前回の出撃が初陣だったこの新型空母は、まだほとんど被弾しておらず、装備もまだ目新しいままだった。


 その甲板にいて、大きな背を丸め海上をながめているのは、老練の提督ウィリアム・ハルゼー・ジュニアである。甲板の鉄柵を半袖の毛深い両腕から延びたこぶしで握りしめ、無言でじっと海の向こうを見つめている。群青からオレンジへと移り行く水平線に、小さな鳥たちが魚をもとめて飛ぶ姿が見える。


 そこへ、艦橋から出てきた一人の男がゆっくりと近寄ってきた。律儀にきちんと帽子をかぶり、黒いファイルを抱えているのは、副官のギャラウェイだ。姿が見えなくなった上官を探して、甲板にたどり着いた彼は、鉄柵に佇むハルゼーに気がつき、足を揃えて敬礼をすると、遠慮がちに声をかける。


「失礼いたします」

「……」


 ハルゼーはギャラウェイを一顧だにせず、海を見つめたままだった。その様子に違和感を覚えた彼は、ふと司令官の横顔に目をやり、見覚えのない険しい瞳に気づいて、思わず息をのんだ。


「提督……」


「いままで、私は日本を侮っていた」


 しわがれた声を絞り出すようにして、ハルゼーが言った。ギャラウェイは気圧されたまま、なにも言えずにいる。


 これまで、この意気軒高な提督は、よほどのことがない限り、闘志をあまり表に出すことはなかった。口では勇猛なことをいいながらも、どこか余裕のあるそぶりをしていたものだが、今はどうしたことか、まるで初めての作戦に出る新兵のように、厳しい緊張感に包まれている。壮年のころは、『ブル』と呼ばれていたらしいが、今の姿はまるでそのころのままだ。


「正直に言おう。いままでは、どこかやつらを下に見ていた。どうせそのうち力が尽きる。いずれは資源や油がなくなり、戦えなくなる。そう思っていたのだ。だが、現実はどうだ。やつらは勇敢で技術にすぐれ、戦術にも長けていた。太平洋のあらゆる島を占領し、欧米列強を相手に勝ちまくり、資源を確保して今や世界にその食指を伸ばそうとしているではないか。はっきり言って、私は間違っていた。私の認識は間違っていたのだ」


「それは提督ばかりではありません、世界中がそう思っていたんです」


 なぐさめるつもりで言った言葉に、ハルゼーがかぶせるように言い放つ。


「そうだ。世界中が間違っていたのだよ」


 ぎり、という歯ぎしりの音が聞こえるようだった。


 風がさらに強くなる。雲が流れ、水平線すれすれの太陽が、わずかに顔をのぞかせた。その一筋の光が、ハルゼーとギャラウェイの顔を染めていく。


「だがギャラウェイ君、ナグモはたったひとつ、失敗を犯した。それがなにか、わかるかね……?」


「……いえ」


「それは、前回の海戦において、このカサブランカとわが艦隊を逃がしたことだよ」


「……」


「あのときが潮目だった。もしもあの時、ヤツがわれわれの三隻の空母を叩いていたら、今回の出撃はとても新造の三隻だけでは出来なかったろう。勝ちを続けたナグモの、小さな、しかし今となっては大きな決断のミステイクだ」


「なるほど、そうかもしれませんね」


 ギャラウェイはハルゼーの言わんとしている意味がようやくわかった。前回はF8F戦闘機の配備もすくなく、イギリス人飛行士の参戦も少なかった。チャフは搭載が間に合わず、VT信管も少なかった。それがたったひと月ほどの違いで、今はすべてが違っている。空母は六隻になり、F8FもチャフもVT信管も、たっぷりと搭載されているのだ。


「今こそ言おう。われわれが進む前では、日本語は地獄でのみ話されることになる。今回の戦いに勝利して、われわれが戦争を終わらせるのだ」


「そ、その通りであります提督!」


 ギャラワエイは身の引き締まる思いがした。たしかにこの老練の提督の言う通りかもしれない。戦いには潮目がある。前回この三隻を逃したことが、これほどの大きな代償になるとは、ナグモも思ってもみなかっただろう。勝負とは、こういうことが運気の変わり目になるものなのだ。


「明日の朝、会議室に各艦の参謀を集めろ。作戦のブリーフィングを行う」


「アイアイサー!」


 ハルゼーの言葉にギャラウェイは敬礼で答えた。


今回も敵の司令官はハルゼーさんです。一方作戦が思いつかない冴えない南雲ッち。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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