表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
264/309

はっけよい!

●29 はっけよい!


「閣下、小官はあの爆撃機によるマーシャル諸島攻撃の弊害を危惧しております」


 ジョセフィンはゆっくりと相手の反応を待っている。


 やがて老司令官は、パイプを大きな灰皿に置き、ため息をついた。


「やれやれ。君にはわれわれの考えなどお見通し、というわけか」


「……」


 じっとジョセフィンの目をみつめる。


「……たしかにわれわれは現在マーシャル諸島に集結しているナグモ艦隊と、島にある司令部を攻撃するつもりで、B29を実戦投入しようとしている。奴らは世界に向けて原爆投下実験を宣言し、今や世界中の注目の的だ。これほどの屈辱を、わが合衆国が看過することはできない。同時に、動かない艦隊ほど的としてねらいやすいものはないのだ。これはわが国の反撃開始の狼煙として、神が与えたチャンスだとは思わんかね」


「その通りであります閣下。しかしその反面、リスクがあまりに大きいかと」


「君がそう思う理由はなんだね?」


 マッカーサーの目が光る。


「理由は三つあります。まず第一に、原爆投下の日程が本当に通告通りかどうか。もしも九月十一日という通告より早く行われば、わが軍は集結している日本の艦隊という攻撃目標を失うおそれがあり、遅くなれば、原爆はそのまま合衆国に投下されるリスクになります」


「……」


「つづけても?」


 マッカーサーが肩をすくめる。


「第二に、日本の艦隊からの反撃により、B29が撃墜される恐れがあるということです。相手は先を読むことに百戦錬磨の南雲です。原爆投下を行うということは、彼らも高高度爆撃機を完成させた可能性が高く、だとすれば、それに対する攻撃方法もおそらく考案していると思われます。B29はまだ試験段階であり、乗員の練度も高くありません。攻撃が失敗すれば、それこそわが合衆国は原爆投下実験とB29新型爆撃機を撃墜されるという二重苦を味わうことになります」


「ありえる話だが、それほど大きなリスクではない。今までもわれわれは負けっぱなしだからな」


 軽い調子で言うマッカーサーがにやりと笑い、ジョセフィンはそれが彼のジョークだと気づく。


「で、最後は?」


「期日通りに実験がおこなわれ、B29スーパーフォートレスの攻撃がうまくいったとしても、彼らの次の目標は合衆国本土となり、ロスアンゼルスか、ワシントンに原爆が投下されることになります。その結果、彼らが望んでいる停戦講和は遠ざかり、南雲を失った大日本帝国の上層部は、その思想を永遠に失うでしょう」


「わが合衆国の国力は日本の二十倍以上だ。長期戦は望むところだよ」


「ですがその間に百万の民が死にます」


「相手が長距離爆撃機なら、こっちも爆撃機だ。相手が原爆ならこちらも完成させる。その果てにあるのは、国力に勝る合衆国の勝利だ」


「……おっしゃる通りです閣下。わがアメリカはいかなる犠牲を払おうと、敵に屈することはないでしょう」


「……」


 マッカーサーはテーブルに両肘をついて、その頑丈そうな太いアゴの下で手を組んだ。


「では訊こう。他になにか方法があるというのかね? ナグモが世界に宣言している原爆投下実験に対抗して、わが国が敵に一矢を報いる方法が」


「さあ……小官には思いつきません」


 マッカーサーはぷっと吹き出す。


「なにをいまさら……」


 ジョセフィンはふっと目を逸らし、つぶやくように言う。


「日本がもっとも恐れているのはエンペラーの住まう東京への攻撃だそうですね。これは南雲からも聞きましたが、彼らはエンペラーを守るためなら何でもする。一方、スーパーフォートレスの後続距離は四千八百マイルと聞きました」


「君の言いたいことはわかる。たとえばアリューシャン列島から東京は二千マイルほどだ。だが、たった三機でなにができる? 日本を屈服させるには、もっと多くのスーパーフォートレスがいるし、それには小島は小さすぎる」


「なにか象徴的な破壊を行って、威力を世界に示せばよいのです。そうやって互いの実力を示して停戦するなら、わが国は日本と協調してヨーロッパ戦線へ注力することも可能になるかと」


「それはわれわれ軍人の考えることじゃない。大統領と議会がどう考えるかだ」


「おっしゃる通りです閣下」

 今度は目をまっすぐに見る。




 青空の下、草原にテントがずらりと並んでいる。


 島のことだから平野部はそんなに広くないが、いくつかの段差をうまく使って、とうとうドイツ、ソ連、おまけに日本という参加国全員分の宿舎を完成させてしまった。


「はっけ~~よ~いっ」


 西村が大声をあげて取り組みの音頭をとる。


 相撲は平和的なレクリエーションとして受けがよかった。身体の小さい日本人には不利かと思ったら、単純にそうでもなく、技や腰の強さでは欧米人と伍して立派に戦っている。


「残った、残ったあ」

「うおりゃああ」

「YYAAAA!」


 土俵の中には小兵の日本人と大柄なソビエト人ががっぷり四つに組んでいる。さすがにベルトを掴まれ、持ち上げれられて万事休すかと思ったところを、足をかけて食らいつく。おれは思わずこぶしに力を入れて応援する。


「UOOOOOOO!」


 惜しくも小兵が転がされた。


「あー惜しい!」


 おれの作ったルールで、試合の終わった両者はかならず礼をし、そのあと握手で互いの検討をたたえる。ドイツと、その後やってきたソ連の連中も、おれたちの心配をよそに結構仲良くやっていた。


 しかも、そのソ連とは……。


「NAGUMO!」


 でっぷりした腹をゆすって出てきたのは、アレクセイ・グネチコだ。


「おうし!」


 おれが立ち上がると、兵士たちがやんやと大騒ぎする。俺は柔道経験者だし、格闘技も好きなのでいつも若い兵士たちと格闘ごっこをやってきた。だからここでも率先して参加している。


 土俵に入り、塩の代わりに砂をなげる。グネチコはそれを真似てヒゲを撫でている。腹をぽんぽんと叩くと、土俵に手をつく。


「はっけよ~い……」

「南雲長官!」


 兵士がやってきて、おれは手を止めた。


「な、なんだよ~」

「伊四百が到着しました」


 おっと……。

 これは水入りだな。



のどかな島の風景をよそに、もうひとつの戦いが老司令官とジョセフィンの間で行われています。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 後続距離は四千八百マイル >航続距離です。 Wiki見ると半径2000マイルですな。 凄いです。 超空の要塞 第二次大戦中、完成したB-29一号機は「2000マイル(3219キロ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ