表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
263/309

西からの珍客

●28 西からの珍客


「電探反応って、今度はなんだよ……」


 ぶつぶつ言いながら電話に出る。この島の各基地や設備には、すでに電話網が整備されているので、連絡はいたって便利だ。ベルさんありがとう。


『……小野です』


「南雲だ。電探反応はどの方向だ?」


『はッ。西の方角、距離百マイルの海上です』


 西?海上?


 当然、アメリカは東にある。日本は北だし、オーストラリアは南だ。西にはトラックしかないはずだが……。


「わかった。とにかくすぐに戻る」


 あわてて車に乗り、港へと急ぐ。


 大発動艇に乗り、空母赤城にもどったとき、艦橋は奇妙な大騒ぎに包まれていた。


「わはははは、これは愉快だ」

「あれが吹っ飛ばされるのか!」

「大本営もやりおる!」


 大石や源田もなぜか上機嫌で、おれの顔を見るとうれしそうにやってくる。


「この騒ぎはなんだ?」


「司令官、エンタープライズがきよります」

「は?」


 大石の言うことがわからず、おれは思わず聞き返す。


「エンタープライズって、あの?」


「そうです。われわれが鹵獲した、あの空母エンタープライズですよ。原爆実験の中心地に置いて、破壊実験に供することが決定したそうです」


「マジか……」


 てっきり戦力に転用するものとばかり思っていたおれは、ちょっと呆然としてしまう。構造の調査がすんで、費用の掛かる改修をするよりは、原爆実験の象徴として壊してしまえ、ということだろうか。


「小野、大本営からの無電はあったのか?」


「はい。たった今まいりました。哨戒機からも報告があり、電探反応は間違いなくこれのようです」


 小野が文面を読み上げる。


「「大本営・山本五十六発 南雲忠一 かねて鹵獲しトラックにて停泊中の米空母エンタープライズは、投下中心海域に置き威力の確認に供するためすでにト島を発す。まもなく現地に到着予定なれば実行班は引継ぎせよ」」


 ああ、なるほど……山本さんか。彼なら考えそうなことだよ。


 でもいいのかね……?


 あんまりアメリカを馬鹿にしすぎると、停戦に響かないか?


 史実でも、ビキニでの核実験には日本の艦艇がたくさん置かれたが、それは終戦後だったし、これほど象徴的でもなかった。


 結局は民衆が議会や大統領を動かすアメリカに、エンタープライズを原爆で撃沈させて、その映像や写真を世界に公開なんかして、激怒させないか……。


「アメリカは相当頭に来るぞ」


「ですなあ。大統領は泡ふくんちゃいますやろか」


 大石の一言に、また、ひとしきり笑い声が響く。


(うーん、まあ、あとは山本さんと話すしかないか……)


 まだ湧いている艦橋指令室を前に、おれはちょっぴり不安を覚えるのだった……。




 こちらはジョセフィン・マイヤーズである。


 マッカーサーの命令どおり、B29の五日以内の納品を承諾させたはいいが、彼女にはまだやらねばならないことがあった。


「おかえりなさいマイヤーズ少佐」


 基地につくとみんなが笑顔で迎えてくれる。


 当初は――どこでもそうであったように――ジョセフィンの存在自体にとまどい、中には著作を持つ単なる象徴的存在だと思っていた連中も、その圧倒的な処理能力とマッカーサー司令官の信頼を勝ち得ているようすを見るにつけ、その反応はすぐに敬意へと改められた。おかげで、最近はちょっとした仕事を依頼するにも、ずいぶんスムーズにことが進む。


「閣下は?」


 副官としてつめているマッカーサーの部屋に在室のマークがないことを見てとり、ジョセフィンは作戦課の若い兵士にたずねる。


「お食事です。また戻られるとお聞きしております」


「そうか。今日も遅くなるわけだな」


 ワシントン州の夏は明るい。すでに十九時近くになっており、帰っていても不思議はなかった。とはいえ、南西太平洋方面最高司令である彼は基地の中に官舎があり、食事をすませてはまた帰ってくるのが日常だった。


「ではワタシもピーナツバターのトーストを食べてこよう」


 真面目に言ったつもりが、くすりと笑われてしまう。ジョセフィンはぷいっと横を向き、なにごともなかったようにその場を離れる。


 食堂に行こうとして、ふと気が変わった。


(待てよ。これはいい機会だ。こちらから寄ってみるか)


 マッカーサーの官舎は基地から二キロほどの距離にある。歩くのは遠いし時間の無駄だ。さりとて軍用車を調達するのは憚られた。


 基地建物を出て、移動に使われている自転車をとりだす。サドルをいっぱいに下げ、それでも足がつかないのでフレームにまたがって立ちこぎでなんとか走り出した。


 もう外は薄暗い灰色になっている。訓練の兵士たちもなく、今はただなにかを運んでいるジープが追い越しざまに冷やかしの言葉をかけてくる。


 居住エリアの門番に、身分を告げてマッカーサー宅への訪問を告げると、芝生の向こう、一番近い場所にその白い建物はあった。


 窓はしっかりカーテンに閉ざされ、外からはうかがい知ることができない。ジョセフィンは家の前に自転車を立て、玄関への数段を昇った。


 ノックを五回する。三回は速く、二回は少しゆっくりと。


 ジョセフィンは誰に言われるまでもなく、執務室へのノックにいつもそうやって自分を知らせてきた。


「どなた? ……あら!」


 ドアを開けた妻のジーンが驚き、ついでぱっと笑顔になる。彼女は美しい茶色の髪を後ろでまとめ、薄い白のブラウスに、膝下までのスカートを履いていた。


 ジョセフィンは帽子をとる。


「ジョセフィン・マイヤーズ少佐であります。閣下に火急の報告があり失礼ながら参りました」


「ええ、知ってるわよ。よくいつもダグが噂してるから。さあ、入って!」


 簡単に招いてくれる。


 玄関を入ると、すぐにテレビやソファーの置かれた広いリビングがあって、座るように勧められた。ジョセフィンが腰を降ろす間もなく、奥から声がかかる。


「こっちへ来たまえマイヤーズ少佐」


 ジョセフィンは立ち上がり、奥の食堂に通じる開けはなたれたドアの手前で立ち止まる。


「いえ、お待ちしております」


「食事は?」


「すませました」


「そうか……では、お茶でも飲んで待っていてくれ」


 ドタドタと足音がして、小さな男の子が階段を降りてくる。フィリピン生まれのアーサーだった。たしか、今はまだ四歳だったか。ジョセフィンを見て立ちすくみ、おずおずと通り過ぎようとする。


「アーサー、はじめまして。ワタシは父上の部下のマイヤーズだ。よろしくな」


「……ハイ」


 ジョセフィンにしてはめずらしく背を屈め、軽く右手を差し出すと、アーサーは照れくさそうに応えた。


 出されたお茶を飲み、しばらく待っていると、妻のジーンが食器を片付けはじめたので、率先してキッチンへ運ぶのを手伝う。汚れた皿をすべて積みあげると、ジーンが手を洗いながら言った。


「ありがとう、もういいわ。主人が食堂にいらしてと言ってるのでどうぞ。私とアーサーは二階にいるから、なにかあったら声をかけてね」


「ありがとうマッカーサー夫人」


「ジーンでいいのよ……ジョセフィン」


「ありがとう、ジーン」


 食堂に入ると、マッカーサーはシャツの前をはずし、一番奥の席に座っていた。マドロスパイプに火を点けている。


「めずらしいな。君がうちにまでやってくるとは」


 一服して、背を椅子にもたせかけながら言う。ジョセフィンは軽く敬礼をする。


「お食事を邪魔して申しわけありません。火急の報告とご相談がありましたゆえ」


「君のことだ、よほどの要件なんだろう。座りたまえ」


 ジョセフィンはマッカーサーからは一番離れた、ドアに近い席にたたずむ。


「ドアを閉めても?」

「むろん」


 ドアを閉め、椅子にその小さな腰を収めると、マッカーサーが口を開く。


「ボーイング社のことかね?」


「いえ、開発担当役員のダニー・ローマンが三機ならと五日以内の納入を約束しました。明朝から基地のエンジニアを出向させ、引継ぎと検収を行います。ボーイング社へは負担増の補償をワタシの一存で約しましたが、よろしかったでしょうか」


「むろんだ。……で、用件はそれかね?」


「いいえ閣下。実は失礼とは存じましたが、B29スーパーフォートレスの作戦について進言がございます」


「言ってみたまえ」


 マッカーサーはパイプをくゆらせ、天井を見つめた。



そう簡単にはいかない原爆実験のようです。ジョシーの狙いはどこに? ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 原爆実験艦に、 鹵獲した空母エンタープライズを使う山本五十六大将。 米国を挑発する、ええかっこしいの大バカ者。 大バカ大将のキャラクターが光っている。 エンタープライズとは、 「未来に向…
[一言] 扉のノックの回数で日本人にとってはどうでもいいような部分ですが欧米の文明では重要みたいで、親しい間からは3回で普通の関係は4回という常識があります。 3回ノックは愛人と思われてしまうのではな…
[気になる点] 当時のアメリカで日本生まれのフルーツサンドが存在したのかどうか・・・。 昭和初期の日本には存在しましたが欧米人に認知されたのは平成あたりです。食べたことのない欧米人にはサンドイッチの具…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ