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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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ボーイング社の名誉

●27 ボーイング社の名誉


 ジョセフィンの気迫に押されて、開発の責任者が急遽、呼びだされた。


 頭が禿げ、三つ揃いのスーツに身を包んではいるものの、身長は六フィート(百八十センチ)、体重は二百八十ポンド(百二十八キロ)はあろうかと思える、太っちょの白人だ。これでよく飛行機の開発責任者ができるものだ、とジョセフィンは思った。


「ダニー・ローマンです。ボーイング社にようこそ!」


 そう名乗った太っちょは、品定めをするように、右手を差し出す。そばでギャツビーもダンディーな笑顔をひきつらせて見ている。


「役員会を抜けてまいりましたぞ。ずいぶんお急ぎのご用件だそうですな」


 ジョセフィンは軽く握手をかわし、かたわらのジェームズを紹介する。


「ワタシはジョセフィン・マイヤーズ少佐。彼はジェームズ・アッシュフォード。フォートルイス基地のトップエンジニアだ」


「よろしく。ここは、いい社屋じゃな」

 ジェームズも上機嫌で握手をすませる。


「それで……マイヤーズ少佐どの。貴官はダグラス・マッカーサー司令官のご命令を伝えに来られたとお聞きしておりますが、例のスーパーフォートレスでしたら、予定通りに最終工程に入っておりますぞ」


 ローマンは見下ろすことに戸惑いながら、探るような眼をして尋ねる。


 はたから見る二人の様子はあまりにも滑稽だった。かたや苦笑気味に身をすくめて立つ巨漢と、その半分ほどしかないキツイ目の金髪少女。だが、彼女はピンク&グリーンの正式軍装を身に着け、きっちり帽子までかぶっている。


 ジョセフィンは畳みかける。


「時間がないのだミスターローマン。いますぐわれわれを工場に案内してくれ。用件は歩きながら話そう」


 そう言ってさっさと扉に向かう。ギャツビーは一瞬ローマンがうなずくのを見て、慌ててドアをに走る。


「で、ではご案内いたします」


「ギャッツ、カートの手配をたのむ」


「ええ。……ではお先にどうぞ」


 ローマンに言われ、館内電話で交換手を呼びだしているギャツビーを尻目に、一同は明るい廊下に出る。


 彼らがエレベーターで下に降り、社屋の玄関に出るまでの間に、ジョセフィンは用件をあらかた話してしまう。


「ミスターローマン、マッカーサー閣下はいまから五日以内に作戦を開始するよう厳命しておられる。むろんスケジュールはすべて組みなおしだ。昼夜を通して二十四時間の勤務になるし、作業する工員たちの負担は短期間とはいえ、非常に大きいだろう。しかし、この作戦が今後の合衆国の命運を左右することだけは間違いない。なんとしても間に合わせてもらいたいのだ。ただし、その大きな負担に関しては、合衆国政府が充分な補償を約束する」


「五日以内……ですと?」


 早足で歩くジョセフィンと、ついていくのが精一杯の男たち。追いついてきたギャツビーは、はあはあと息を切らしていた。


「不可能ではない。君たちのスケジュールではあと二週間かかるはずだった。これを昼夜通しての作業とすれば、一週間に縮めることができる。それでもまだ足りない分は、増員と不急の作業を基地で行うことで賄えばなんとかなるのではないか」


「しかし、それでは、安全性と性能を保証できませんぞ」


「ボーイング社とキサマの立場はわかる。万一の事故に対して責任のとれない機体の引き渡しはすべきではない。そこで提案だが……」


 カートに乗りこむ直前で、ジョセフィンは男たちをふりかえった。


「明日から基地のエンジニアをこちらに寄こし、組み立ての手伝いと引継ぎを同時に行ってはどうかな。……ジェームズ、どう思う?」


「ふむ……」


 老エンジニアは自分の経験に照らし、真摯に答える。


「大勢が詰めかけたら、逆に作業の邪魔になるでしょうな」


「それもそうだな。では、どうすべきだ?」


 カートに乗りこみ、低い背もたれに丸まった背中を収めながら、ジェームスが唸る。


「ううむ、現在その機体は何機あるのだね?」


「五機ですな」


 ローマンが答える。カートは大きなエンジン音を鳴らして、目的地へと走り出した。本社屋の前の道路を左に進み、さらに左にまがって裏手にまわると急に視界が開ける。金網と鉄条網で囲まれた基地のような広大な敷地に、たくさんの機体が並び、管制塔まで備えた飛行場があらわれた。


「それなら、完成を三機にしぼり、一機を引き継ぎ専用にすれば可能かもしれん」


 ジョセフフィンはうなずく。


「もう一機は予備か……」


「その通り。五機すべてが基準に達しているのはラッキーの、そのまたラッキーじゃ。現場はそううまくいかんし、そのあと少しのところでもたつくし時間もかかる。最初から状態の良い三機にしぼって完成を目指し、あとはメンテナンスと構造解説、それに部品どりに使えば、三機は間に合うんじゃないかね」


「ミスターローマンの意見は?」


「……たしかに三機なら可能かもしれませんな」


「よし、あとは現場でうかがおう」


 カートがXB-29-BOスーパーフォートレスの巨大な組み立て棟に到着した。入口にいる銃を持った兵士は、陸軍から派遣されている者たちだ。ローマンの顔も、ジョセフィンの顔も知ってるらしく、姿勢を正して銃を脇に立てる。


 カートは開かれた扉の隙間から、建物内へ入った。


「おお!」


 ジェームズが思わず笑顔になって見上げる。


「これがスーパーフォートレスか」


 カートを降りたジョセフィンが、細い腰に手をあてて見あげる。思わず前に出るジェームズの後ろ姿の向こうでは、一機に対して十あまりものライトが、工場内の太い柱のあちこちから照射され、B29新型重爆撃機のジュラルミンの機体を、いやが応にも輝かせていた。


 ローマンが得意そうに口を開いた。


「カーチス・ライト社R―3350。空冷星型9気筒を副列化した二重星型18気筒エンジンを四発搭載しております。このエンジンは、電子制御で高度三万三千フィート(約一万メートル)まで二千馬力を維持し、航続距離はなんと四千八百マイルですぞ。ただ、今のところ出力をあげすぎると軽量化のために使われているマグネシウム合金が火を噴きましてな。まだまだ改善の余地があります」


「そいつはご免だな。カウルの形状を工夫してできるだけ風を取りいれるようにしてくれ。あとは燃えずにすむ回転数を引き継ぎしてほしい」


 ジェームスが早足で帰ってきて、ジョセフィンに顔を近づける。


「早く中が見たい!」


 ジョセフィンは苦笑しながらも、その気持ちがいたいほどわかった。


 自分も飛行士としての血が騒ぐ。こいつを飛ばしたら、いったいどんな操縦感だろうか。


 だが、今はそんなことを言っている場合じゃなかった。とにかく完成を確約させなければ。


「さて、ミスターローマン、ならびにミスターギャツビー」


 腰に片手を当てたまま、役員二人をふりかえる。


「ワタシの言いたいことはこれが最後だ。いま、ボールはキサマらの手にあり、合衆国の運命はキサマらの返答にかかっている。この新型爆撃機の五日以内の基地搬入を、いまこの場で、ボーイング社の名誉にかけて誓えるか?」


 数秒の沈黙ののち、ローマンが両手を開いてつぶやく。


「私の夢はわが社の大型飛行機に世界中の人を乗せて旅をさせることです少佐。その時、世界は狭くなり、あらゆる国、文明がお互いを知るようになるでしょう」


「……」


 ジョセフィンはふと南雲の顔を思い浮かべる。彼も同じようなことを言っていなかったか。


 そのゆれる瞳がライトに照らされ、妖しげに光るのをみて、ローマンはふっと笑顔になった。


「だが、そのためには……戦争を、終わらせねばなりませんな。いいでしょう、わが社の名誉にかけて、このXB-29-BOスーパーフォートレスを完成させ、五日以内に納入してご覧にいれましょう」


B29が最後の戦いに投入されます。南雲とジョシーの運命は……? ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] (*゜∀゜)=3つ★★★★★
[気になる点] R3350が9気筒か。別の世界線も良い所だなそれ。 9気筒で55ℓエンジンとかどんなデカいエンジンだろう
[一言] 文字通り富嶽が合衆国に対する切り札にして奥の手になっているのが良いですな。まさか、極東の島がジェット機完成させてるとはおもわんでしょう。 …ましてやあの南雲が富嶽を、ましてや南雲と彼を信頼…
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