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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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マーシャルの呉越同舟

●25 マーシャルの呉越同舟


「どこだ、海上か?」


 艦内の電話で状況を確認していた小野が、こちらに振り向く。


「そうです。捕らえたのは、空母加賀の哨戒機電探です」


「……艦隊とかでは?」


「わかりません。集団ということも考えられますが、今はなんとも……」


「ふむ」


 アゴに手をやる。いずれにしても、電探にかかったということは、木船や小さな漁船じゃあない。敵の可能性もあるし、確認しないわけにはいかない。このクエゼリン島の基地機能は航空灯台と五百メートル級の滑走路があるだけで、レーダーなどの設備はまだなかった。


 正体を確認するには、哨戒機による電探と目視しかないのだ。


「雀部、すぐ哨戒機を確認に向かわせてくれ。大石、念のために軽巡と駆逐隊を向かわせて警戒にあたれ」


 雀部と大石が立ち上がる。


「当意即妙」


「諒解しました。……『木曽』を行かせます」


 小野と西村が敬礼する。


「われわれは情報管理室にまいります」


 この切迫した時間にもかかわらず、西村は大きな背中を揺らして、ユーモラスな後ろ姿だ。なんだかほっこりするな……。おれはその姿を見送りながら、くすっと笑ってしまう。


(それにしても、なんだろ? まさか、敵?)




 哨戒機が海原を大きくターンする。


 南洋の海はどこまでも青く、雲は遠くに少しあるだけだ。波はいたって穏やかで、たまに海鳥が海面を飛ぶ姿が見える。海上にはなにも不審な形跡はなかった。


「おい、どういうことだ。電探反応はどうなった?」


 飛行士の三田は後席の通信士に声をかける。この機体は哨戒用に改造された天山である。資源の確保が順調で、理系学生と工員動員が成功した日本では、ここのところ連日のように新型機が投入され、海軍の哨戒機はもうほとんどが天山にかわった。


「うーん、おかしいですね。たしかにこの海域のはずなんですが……」


「自動方向探知機には?」


「反応ありません」


 なんども海面をたしかめるが、やはり異常はどこにもなかった。


「仕方がない。とりあえずそのまま報告しようや」


「そうですね……」


 通信士は無線のチャンネルを艦隊司令部に合わせる。マイクが内蔵されたマスクを抑え、ゆっくりと話す。


「こちら哨戒三田、A1どうぞ」


『……A1』


「高度千にて反応海域を探索すれど対象は見当たらず。電探反応なし」


『……諒解。そのまま探し続けろ』


「哨戒三田諒解」


「あんなこと言ってますよ」

 後席の兵士が笑って言う。


 三田は、機体を左へバンクさせて、はるか下の海面をもう一度眺める。わずかに浮かぶ雲の影が落ち、黒い塊となって通る。


「仕方ないさ。もうちょっと降りてみよう。……高度五百まで降下」


「諒解……こちら哨戒三田」


『A1』


「高度五百にて哨戒をくりかえす」


『A1わかった』


 三田はぐん、と操縦かんを押し、プロペラの角度を変える。かなり低速で航行しないと、見落とす可能性がある。海面が近づき、太陽の照り返しがまぶしい。ここまで高度をさげると、おそらく小さな漁船ですらはっきりと見えるだろう。


 だが高度がさがると、そのぶん目視できる海域はせまくなった。三田はなんども往復をしながら、哨戒をつづける。幸い、帰投方位測定器があるので、迷子になる危険性はなかった。


 そのまま、二時間ほども索敵をつづけたが、なにも見えず、電探の反応もなかった。


「いないな」

「そうですね……」


 そのとき、なにかが海中を通った気がした。


「……!」


「どうか、しました?」


 後席の兵士が異常に気づく。三田の背中にむっと背中に力が入り、海上をなんども確認している。


「……いや、なにもない。海をなにかが走った気がしたが、雲の影かもしれんし、鯨かなにかということもある。不確かな報告はできん」


「はい……」


 何かいた気がする、というようないい加減な報告はできるはずがない。異変を感じてなんども確認したが、なにも見つけられない。このまま放置することもできるが、なにかが引っ掛かる。


「もう少し調べよう。このままは帰れん」


「諒解」


 その後、何度もバンクして海上をにらんでいた三田が、とつぜん声をあげた。


「おい! 潜水艦が浮上してくるぞ!」


「なっ!」


 さらに旋回して確認を行う。間違いない。黒い影のように見えていたそれは、明るい太陽を反射して白くさざ波が立つ海上に、ゆっくりとその姿を現し始めている。


「どこの船でしょう?」


 後席の兵士も目を見開いて見ている。三田はその周囲を慎重に飛ぶ。


「アメリカですかね」


「わ、わからんな……」


 どこかで見た気もするが、そもそも潜水艦というのは浮上した姿をあまり見せないものなので、よくわからない。全長が六十メートルくらいあり、近代的な最新鋭の艦だということはわかるが、はっきりしない。艦籍を示す旗もなければ、なにかが書いてあるわけでもない。


 そうこうしているうちに、潜水艦はすっかりその姿を現し、輝く波間に灰色の艦影を漂わせた。


「こちら哨戒三田、A1応答せよ」

『こちらA1』


「哨戒海域にて潜水艦を発見。現在当該潜水艦は浮上し……あ」


『どうした三田』


「ハッチが開いた。……旗を振ってます。あ、国旗です、黒と赤、それに黄色。ドイツの国旗です!」




 三田の哨戒機が驚愕の報告をしていたころ、日本の外務省にも一通の電文がもたらされた。


 その内容もまた、帝国の首脳陣を驚ろかせるものであり、すぐに対応が検討され、海軍省を通じて南雲艦隊に送信される。


「長官、大本営から通信です」


 おれは赤城の甲板で、作ってもらった弁当をパクついていた。ここは見晴らしがよく気分がいい。現代人のおれからすると、戦場にちかいこんな場所でメシを食うのはいかんことかと思ってたが、心は常に戦場にあり、みたいな感じで、むしろ兵士たちの受けはよかった。


 さすがに風が強いので、艦橋を背にしてはいるが、遠くの海には加賀や蒼龍も見えている。とはいえ、艦隊は実に電探による警戒も行っており、油断はしていない。


「ドイツの次はなんだよ。そもそも、大本営ってラジオ放送じゃないぞ。海軍省か?」


「いえ、大本営です」


 小野が通信文を指で示した。


「あ、ホントだ。そうなってるな……してみると、あの大本営が稼働しはじめたってのか?」


 独り言をいいながら、文面を読む。情報管理室できっと大勢の兵士がはじき出した文面なんだろう。


「「大本営発 南雲忠一 ソビエト連邦のS型潜水艦が原爆投下実験への立ち会いを希望したため、これを許可し、適時応対を貴官に一任するものとする」」


「なん……だと?」


 ついさっきはドイツの潜水艦を発見したと報告を受けたばかりだ。じゃあ、二国がここでまみえるってのか? たしかに、日本とはそれぞれ同盟国、中立国だが、こいつらはすでに欧州で戦争をやってる。1941年6月に突如ドイツ国防軍がソ連に侵入し、戦争状態となってるはずなんだ。


「どーすんだよコレ!」


 おれは呆然としてその知らせを眺めていた。そのドイツの潜水艦は浮上したまま、哨戒天山の誘導でこっちに向かってきているところだし、そこへソビエトの潜水艦がやってくるのか?


「あの、長官……」


 小野がまだ言いにくそうに、口をもごもごさせている。


「おい、まだなんかあんのか?」


「はい……さきほど、山本長官からも連絡がありまして……」


 もう一枚の紙を差しだす。


「山本さん?」


 そこにはこう書かれてあった。


「「山本五十六発 南雲忠一 われ極秘に会談したきことがあり。伊四百にてマーシャルに向かう。」」


「知らん、もう知らん!」


 おれは立ち上がり、弁当を抱えて艦橋に向かった。


「ちょ、長官!」


 小野も慌ててついて来る。


 原爆実験、どいつもこいつも、そんなに見たいのかよ!



注目を集める原子爆弾ですが、みんなそれぞれに思惑がありそうです。ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] このタイミングでドイツ軍人とソ連軍人を鉢合わせにしようとする発想が面白かったです。史実にない展開がたまらない。まぁ、それに居合わせる立場からすれば"どーすんだよコレ!"な状況ですが。 お互…
[一言] ( ; ゜Д゜)つ★★★★★
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