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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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進、ナゾの説得力

●22 進、ナゾの説得力


 監視塔に沈黙が訪れる。


「君は南雲中将のお子さんだ。海軍の軍人でもあり、今はお父さんの命でこの兵器開発を担当している。ご本人をのぞいては、君がこの問いに答えられる、唯一の人間だと思うのだがね?」


「……はい、そう、ですね」


「では訊こう。中将は、神かね?」


「まさか!」

 進が笑う。


「泣きも笑いもする人間ですよ」


「なら、教えてくれ。中将はなぜ、ウランや核分裂のことを知っているのだ?」


「うーん……」


 進はあらためて父のことを考えてみる。仁科先生の言う通り、父は開戦いらい海技研や空技廠に入りびたり、新兵器の開発に決定的な提案を連発してきた。電波兵器や近接信管、新型航空機に、この原子爆弾。みんな父の発案によるものだ。


 そこまで思って、ふと首をかしげる。


 いや、発案というのはちょっと違うな……。電波兵器はカニンガム報告書がもとになっているし、近接信管はその延長線上にある兵器だ。新型航空機だって中島飛行機のもので、原子爆弾にいたってはマッカーサー報告書からはじまった。あ、ジョセフィン・マイヤーズとかいう、通訳もからんでたっけ……?


「そうですね」


 進はあれこれ考えるのをやめた。どうせ自分にはわからない。今の自分にできることは、ただ正直に、思った通りのことを言うだけだ。


「強いて言えば……父はとにかく、人の話をよく聞くんです」


「人の話?」


 進はニコっと笑う。


「たぶん、父の情報源は()だと思うんです。電波兵器に関してはカニンガムというアメリカの軍人や電探の鹵獲と同時に捕虜にした研究者でした。原爆についてはマッカーサーという司令官との対話がもとになっています。お父さんが学者だったという女性通訳もいましたね。日本じゃ海技研の伊藤大佐や空技廠の人たち。それだけじゃあありません。民間の人たちからも、すごくよく話を聞くんです。たとえば中島知久平さんや本田宗二郎さん、佐伯さんという地方の名士にまで。まあ、私から見ると、軍人というより賢人ですよ……」


「……」


 いちど溜息をついて、進が目を伏せる。


「原爆技術にしても、私が知らないだけでもっと情報源がいるかもしれません。……今の私にわかるのはそれくらいです……ねえ先生」


「なんだね?」


「軍人ってみんな偉そうにしてるじゃないですか。父みたいな立場ならなおさらでしょう。でも父は違うんです。すごく親切に説明するし、同じくらい話を聞きだすのがうまいんですよ。それって、すごく大事だと思いませんか」


 しばらくして、老科学者は息を吐いた。それまで息をつめるようにして聞いていた新庄や、本永までが肩の力を抜く。


「人の話を聞く……か」


 仁科博士にもなにか響いたものがあったようだ。眼鏡をはずして天井を見あげる。


「ふむ。軍人かくあり。ましてや科学者をや……ですかな」




 太陽が中天にさしかかり、強い日差しが差しこんできた。


 秒をきざむ掛時計の音がコンクリートの室内に響いている。いつもなら、飯を炊く香ばしい匂いが、外の空き地から漂ってくるころだが、今日は実験の成功を見てからにしよう、となった。


「秒読みはじめ」

「はッ」


 係員がストップウォッチを手にする。


 なにごとも決められた時間にきっちりやるのが日本流だ。それに坑道の崩落など、事前に不測の事態が発生した場合、秒読みがないと、どれが原爆の効果かわからなくなる。


「実験開始五分前……放射能計と地震計をまわせ」


「放射能計、地震計、まわします」


 スイッチが入れられ、ふたつの記録計が動きだした。両方とも針が動いて巻取紙に記録するタイプだ。地震計の方は水平線を描き、放射能計の方はごく微細な数値が現れている。


「記録撮影はじめ」

「撮影を開始します」


 進は白く塗られた木製の観音開きを押し、監視塔前の草地に出た。


 そこでは記録映像のためのカメラが回されていた。ちゃんと映画のスタッフを呼び、カメラは映画用の高精細なものが二台と、16ミリの小さなものを一台用意していた。もっと現場に近い距離にも無人カメラが置かれてあり、それは詳細な記録となるはずだった。


「四分前……」


 監視塔のスピーカーから秒読みの声が聞こえる。これによって、外にいる人間にも伝わるようになっていた。


「三分前……給電開始」

「給電を開始します」


 その声に少しドキリとする。給電が開始されたとき、もしもなにかの結線間違いや短絡があれば、爆発がおこるかもしれない。


 だが、今も目標の山は静かで、なだらかな稜線を下って、十数キロ先の山へと連なる電柱や、黒く伸びる電線は静かなままだった。これで、あとはいつでも起爆が可能になった。


「一分前……」


 中にいた大勢の人間が、外に出てきた。双眼鏡を下げた仁科博士や新庄、本永の姿もある。


「三十秒……」


 みんなが遠い山を注視する。穏やかな山なみや、生い茂る木々も、今はただ緊張の対象でしかない。


「十、九、八……」


 ざわっと山が動く。


 鳥たちがなにかを感じて羽ばたき、甲高い聲をあげた。

 稜線をすべるように飛び、群れになって遠くへ消えさる。


 秒読みはつづく。

 心なしか、声も大きくなる。


「五、四、三、二……起爆!」


 ……一拍の間がある。


 電熱線が燃える一瞬の間と知りながら、進に失敗の二文字が浮かぶ。


 鼓動が高鳴り、視界が狭くなる。


 ゴゴゴゴ……。


 地響きのような振動が伝わってくる。


 なんだ、これか?

 いや、小さすぎ……


 落胆して一歩前に出ようとしたとき、ごぼっという感じで山が地中に消えた。


(!)


 双眼鏡でのぞいていた仁科が声をあげる。


「き、消えおった!」


 そのあたりの木々がバサバサッと倒れこみ、土煙があがる。そのままずるずると山の斜面を流れて、次の瞬間、水蒸気がもうもうと上がり始めた。


 そして……。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオ!


 振動波が監視塔を揺らし、地面をぐらつかせる。数十秒がたったころ、轟音が鳴り響いた。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオン!


 百発の雷だ。

 進はそう思った。

 だが心地よい。

 耳をつんざく爆音も、今ならいくらでも甘受できる。

 自然と笑顔になる。

 すさまじい破壊力だ。

 まちがいなく、核爆発だ!


 呆然としばらく立ちすくみ、振動が収まるのを見て、誰ともなく、握手をはじめる。


「おめでとう」


 見れば仁科が細い手を差し出していた。


「先生こそ」


 進はがっちりとその手を掴んだ。


「進君、これからはわしも人の話を聞くことにするよ。世界中の学者と話し合い、科学の力でより良い未来を築く……戦争を、早く終わらせてくれ」


とにもかくにも、核実験は第一段階が終了しました。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人の話を聞くは良いですね。 アンテナを周囲に巡らし石頭にならないのは大切です。 老人にありがちな石頭はワシが若い頃は!!です。 坂井の本を読むと昭和初期も明治や幕末の生まれの爺さんから今ど…
[良い点] 話を聞くってとっても大事ですよね 色んな人の知識をまとめて形にするというのも素晴らしい才能だと思います 実際はチートなんだけど南雲中将に倣って偉大な発明をする科学者がいっぱい出そう
[一言] (*゜∀゜)=3つ★★★★★
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