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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
252/309

ダイヤモンドが散る時

●19 ダイヤモンドが散る時


 高度三千、距離約二マイル。


 木の葉のように見える日本の艦隊は、コレットの目には意外にも貧弱に見えた。六十機あった友軍機は、まだそれほど減っておらず、敵の直掩隊と追いつ追われつの格闘をしながらも、隙あらばと攻撃のチャンスを探っている。


 操縦席にはミリタリーメダルが揺れている。彼がまだ若いころ、ドイツとの空戦でもらったものだ。


 ゆっくりと旋回し、空母の正面にまわっていくと、緑の爆煙が散発的にあがった。なるほど、あれが敵の高角砲か。前後に敵は……よし、いないな。


 右手で操縦かんを操り、敵の空母に狙いを定め、左手はマスクを掴む。


「コレットだ。先頭の空母を叩きに行く。ジグザグに飛行して最後は真正面から左右に抜ける。雷撃隊は遅れずついて来い。ただし、けして横についてはならん。高角砲にやられるぞ」


『ラジャー』


「では、はじめよう諸君」


 アヴェンジャーの雷撃隊が、後方へと列をつくる。


 軌道修正にバンクしていた翼が水平になる。


 艦橋の無い、たいらな甲板を持つ空母が正面に見えた。


「オニュアマーク……3(スリー)、2(ツー)、1(ワン)、ゴー!」


 ぐっと操縦かんを押しこむ。


 斜め四十五度の角度から、切り裂くように高度を下げる。


 スロットルを開き、加速する。プロペラ音が耳をつんざく。


 幅の広い翼を振りながら、ジグザグに飛行する。


 空母が近づいてくる。上空から、敵の戦闘機が襲ってくるが、加速して躱す。曳光弾が頭上から後方へと飛びすさる。


 距離およそ五千。


 敵の高角砲が火を噴く。

 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 周囲では爆発がない。やはりVT信管なのか。


 ジグザグを続ける。だがもう空母は目前だ。艦橋の無い、のっぺりした甲板がせまる。


 ドン!

 ドバア!


 右前方で爆発がおこる。


(駆逐艦からの砲撃か!)


 ザアアっという音がして、右の翼に被弾した感触がある。だが頑丈な機体にはなにも問題はない。


 距離三千。


 ドンドンドンドン!

 ドンドンドンドン!


 周囲で爆発がおこる。速力で切り抜けていく。


 爆煙を抜けた正面に突然船の切先が見え、そのむこうに窓が並んだ部屋が見えた。


(そうか! 艦橋のないこの空母は、あれが指令室なんだ!)


 窓の中には何人もの軍人が見える。


 司令官らしい人物もいた。


 コレットは、機銃のボタンに指をかけた。


 機首を少しあげ、照準をあわせる。


 十二・七ミリ機関砲四連、よもや打ち損じはない。


 ボタンを押し……。


 ドンッ!

 ドバアアアアアア!


「!」


 四枚羽のプロペラが吹き飛び、自分が攻撃されたことを知る。


 大きなGがかかり、機体が横転するを感じながら、コレットの脳裏になぜか昔の記憶がよみがえる。


「これはただのメダルだが、君は原石のダイヤモンドだよ」


 あの時の、大佐の笑顔とまぶしい陽射し……


 致命的な横転の中、はじけ飛ぶメダルの向こうに、コレットはほんの一瞬だけ現実を見た。


(ああ、あれが俺を撃ったのか……)


 空母龍驤の窓の下、船の舳先の部分では、特設された二式連動高角砲が、正面からの敵をしっかりと狙っていた。




 窓が割れている。


 空母龍驤の指令室、中央から二枚目の分厚いガラスが、三十センチほどの穴を穿たれていた。


 直撃弾ではなかった。だが、敵の銃弾は指令室直下の船体にあたり、その破片のひとつが窓の一部を破壊した。その結果、太平洋連合艦隊司令長官の、あわやという場面を招いてしまったのである。


 その中にあって、山本は微動だにしない。


 窓の正面に立ち、まるで敵を射殺すように仁王立ちしている。


 急降下して飛来した十機ほどの編隊は、二機が高角砲によって墜とされたものの、二発の水雷を発射して飛び去った。それが当たらなかったのは、相手の技術が劣っていたのではなく、ひとえに攻撃に対する操舵の技術と、運だった。


「司令長官、どうぞ中へ」


 艦長が声をかける。


「無用だ」


「し、しかし……」


「それよりも兵にケガはないか」

「ありません……今の攻撃では」

「……」


 割れたガラスのせいで、外の音がよく聞こえるようになった。重油と燃える黒煙の匂いがして、風にガラスが震えている。ふいにプロペラ音が高くなると、それに反応して高角砲が唸りを上げた。


 ドンドンドンドン!

 ドバアアアアアアアアアン!


 右舷上空で破壊された敵機が、無数の火の玉となって降り、不気味な機銃の着弾音が、上部甲板から聞こえてくる。


 攻撃はまだ終わりそうにない。このままでは、いずれ防御にも穴が開くだろう。この窓のガラスのように、敵襲を受け、徐々に破壊されていくかもしれない。


「おい……」


 上空を見る山本が声をあげる。


「あれを見よ。二時の方向だ」


 参謀たちが並んで双眼鏡をのぞき込む。


 白い雲の下に、数十機の編隊が黒い点となって表れていた。


「敵か、味方か?」


 山本の問いに、その方向をぐっと睨んでいた参謀たちが叫ぶ。


「さ、坂井隊、味方ですッ!」




「へっへ、待たせたな」


 坂井はようやく見えてきた母艦たちにつぶやいた。


 艦隊を見て、煙をあげていないことに安堵する。どうやら被弾も被雷もしていないようだ。念のために数をかぞえ、どの船も無事なのがわかった。


 だが撃墜された残骸が浮かぶ海面の上空では、今も隙を伺う敵機が飛び回っている。一見して統率はとれており、一機が直掩機を陽動して離脱すると、すかさず別の攻撃隊が空いた空間に滑りこむなどして、そのきびきびした敵の動きには、あなどれないものがあった。

 

「飯田、岸部、いくぞ!」


 そう言ってスロットルに手をかける。


 すいっと列機が並び、羽を振る。


 坂井は顔を向け、一瞬うなずくと、艦隊に距離をとって旋回する敵機に向かって操縦かんを倒した。



山本さんの人物像は昔は豪胆剛健、今はすこし剽軽?がトレンドでしょうか。この物語では、やる時はやる人、という感じです。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] (*ゝω・)つ★★★★★
[良い点] 坂井のスピといえばグラマンとの一騎打ち 被弾して目に破片が入って手術が・・・・・
[良い点] 坂井の癖を描いた本がありました。 加藤寛一郎著作、零戦の秘術です。 敵を見たら舌なめずりすると言う描写は歴戦のパイロットでしか出来ない表現です。 ほぼ送料ですので是非参考に!! ほぼ
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