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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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昭和三年の赤城艦長

●13 昭和三年の赤城艦長


「ええ、これなんですが……」


 大石が電文を見せる。


「平文です」


 平文ひらぶんとは、暗号のかかっていない通信のことだ。普通はそんな危険な通信は使わないし、そもそも暗号が更新されていない今は、通信が全面的に封鎖されている。


「……え?」


 その内容を見て首をかしげた。


「……ね、おかしいでしょう?」


 そこには、こんなことが書かれていた。


「「「北緯二十九度東経百三十七度付近にてさんくう……」」」


 通信文はモールス信号だったんだな。だから語尾が途切れてる。


 今でも遠距離には電信が使用されていた。


「そもそも、これ、どこからなんだ?」


「わかりません」


「どこからの通信かも言わず、さんくうってなんだ。英語のサンキューか?てか、なんでそこで終わりなんだよ」


「よほど急いでたんでしょうか。日本語なのは間違いないのですが……」


「これが来たのは?」


「八月十七日午前九時二十八分。つまり今から一時間ほど前になります」


「一時間前、か。でもこれだけじゃどうしようもないな」


 なにより今はマーシャル諸島の制圧が最優先だ。


 マーシャル諸島は原爆実験のビキニ環礁を含んでおり、その二千キロ南西にあるソロモン諸島への補給路を確保することにもなる。


 つまりマーシャル諸島を抑えておけば、そこから南西部へ艦隊を派遣することで、史実太平洋戦争一番の激戦区となったソロモン諸島への後詰をすることができる。そのため、おれはウェーク島で補給と修理を行った後、マーシャル諸島への直行を急いでいた。


 なにより、今は敵に空母はなく、アメリカは沈黙せざるを得ないはずだ。ならば、国防圏を守る意味でも、原爆実験を成功させる意味でも、マーシャル諸島が最善手だ。


「……ま、山本さんがなんとかするだろ」


 山本五十六長官率いる艦隊には、空母龍驤と隼鷹を残してある。ロスアンゼルス空襲のあと、陽動のためにハワイとアメリカ西海岸の中間あたりを航行して、ゆっくり本土を目指しているころだ。


「確認のしようもない。おれたちはこのままマーシャルを目指そう」




 空一面が白い。


 この日、太平洋のこの海域は、近づく低気圧のためにどんよりと重い雲が垂れこめていた。


 息でレンズが曇らないように布を垂らした、古式な双眼鏡で上空を眺めているのは、山本五十六連合艦隊司令長官である。


 すでに最新鋭の電波兵器と、航空機で最新鋭となった空母龍驤を旗艦にしていた彼は、今緊迫した状況に置かれていた。


「どうだ、敵機動艦隊はいたか?」


「いえ、見つかりません」


 航空参謀が答える。


 哨戒機は三個小隊九機が扇状索敵で南方面を警戒中だが、まだなんの連絡もなかった。


「艦長、艦隊速度を十ノットに落とせ」


「機関第三船速、ヨーソロー」


 現在艦隊は空母隼鷹を先頭に、その後方数キロに龍驤、そして駆逐艦がそれぞれ三隻づつ空母を掩護している陣形だ。伊四百は敵潜水艦を警戒してさらにその両側を航行させている。


(なにか、ある……)

 と山本は思った。


 今から一時間以上前、哨戒に出していた天山一機が消息を断った。


 三機のうち、もっとも東方面を警戒中だった哨戒天山だ。不思議な電文をよこしたあと、ふっつりと途絶えた消息のわけを、怪しまぬわけにはいかなかった。


(天山が墜とされたとしたら、やったのはなにか?)


 ここはハワイとも西海岸とも千二百マイルも離れた海域だ。


 敵の基地を離陸した戦闘機が飛び回っているとは思えず、だとしたら……空母しかない。もうないと思っていたアメリカの空母だ。最悪の場合、機動艦隊がいるかもしれん……。


 そう考えて索敵を厳重にしてもう一時間以上になる。


 じりじりとひりつく甲板下の指令室で、航空参謀が口を開く。


「長官、畏れながら攻撃機の発艦を具申いたします」


「……」


 心配そうな顔をする航空参謀を見る。


「ん、おれがにわか艦隊司令官で心配か?」


「め、めっそうも……」


 空母なら見過ごすわけにはいかないし、先制攻撃をする必要がある。すでに戦闘機は二十機以上直掩に飛ばし、攻撃機には雷装を指示して待機させてあるが、問題はこのまま待っていていいのか、ということだ。


 もしも、敵が先にこちらを見つけて攻撃してきたら?


 もしも、すでに哨戒艇がこちらを見つけて通報していたら?


 今にも敵機が襲来するかもしれない。


 それならば、哨戒天山が消えた海域に見当をつけて、攻撃機を飛ばしてしまうべきではないのか?


 参謀はそう言っているのだ。


 山本は一瞬迷ったが、腹に力を入れて息を吐いた。


 迷ったときは動かぬほうがよい。


 それが軍人として山本が経験的に得た不文律であった。


 だが……。


「おれが空母赤城の艦長になったのは、いつか知っているか?」


「あ、いえ」


「昭和三年だよ」


「は、も、申しわけありません」


 参謀は畏まった。お前のような若造になにがわかる。そう言われた気がしたのだ。


 だが山本は眼だけで微笑む。


「つまり、今の現場は知らんということだ」


「は?」


 驚く航空参謀に、山本はひとつ頷いた。


「具申を受け入れる。攻撃隊を発艦せよッ!目標、北緯二十九度、東経百三十七度海域っ」


山本さんは経歴を見ると軍人というよりインテリなんですね。とはいえ、赤城艦長をはじめ、 第一航空戦隊司令官や海軍航空本部長を歴任されておられます。ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Wiki見ると山本五十六 大佐:1928年12月10日 - 1929年10月8日 が空母赤城の艦長時代です。 確かオーバーランした戦闘機に駆け寄り落下する寸前に翼を掴み留めた逸話を見た事あ…
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