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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
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富嶽始動!

●11 富嶽始動!


 淵田美津雄は飛行服に身を包み、タラップを登った。


 カンカン、という乾いた足音が建屋に響いて、ちょっと驚く。下では大勢の係員が緊張した面持ちで見守ってくれている。


 角の丸い扉をくぐって、ジュラルミンに輝く巨大な機体に乗り込む。外観は驚愕するほどでかいが、中に入ればそれほどでもない。


「あ、淵田中佐」


 奥の操縦席から顔なじみの太田正一と、三木忠直が現れた。


「おお、どや。エンジンの調子は……?」


 淵田はごくなんでもないように尋ねた。実はここのところ、ジェットエンジンの調子があまりよくないと聞き、気になっていた。


「そうですね……」

 と、三木がほんの少し顔を曇らせる。


「中口先生によると、業者から仕入れたケロシンの質が少し変わっていたようで、燃焼にちょっとした不具合が出ていたそうです。……急遽成分検査を行って、そのつど配合を調整するようにしたとおっしゃっていました」


 中口先生とは、空技廠技術大佐の中口博のことだ。空技廠では技官を先生と呼ぶ風習はなかったが、南雲がそう呼んでから、みながそれを見習うようになった。


 それにしても、ここにきての不具合とは聞き捨てならない。


「ちょっとした不具合、言うたかて、こっちは命がけやさかいな」


 淵田は軽く睨む。


 三木は顔を引き締め、あわてて敬礼をした。


「失礼しました。検査は万全を期しております」


「うん、そう願いたいもんや。わしも真珠湾以来の大仕事やさかいな。のんびり指導員とかやってる場合やなくなったで」


「はい。南雲長官のご信頼のたまものかと」


 淵田はようやく笑顔を見せた。


「まあ。噴進機関が止まっても、あとの四発があるさかい、墜ちはせんやろがなあ」


 いいながら、機内を奥へと移動していく。


 途中にある丸い窓から外を見て、翼とエンジンを確認する。


「それにしてもおもろいな」

「は?」


「なんべん見ても、あれがロケットの役目を果たすとは信じがたいわい」


 エンジンは左右三発づつ、合計六発の推進機関がついていたが、そのうちそれぞれ中央のものが、ジェットエンジンだった。


 淵田は小声で、たのむでえ、とつぶやいた。


「レシプロの方も変わってますよ中佐。なんたって、二重反転式三枚翅二連、ですからね」


「ほんまやな」


 と、淵田はそのレシプロエンジンを見て笑った。そこには、反動干渉を打ち消すため、一機のエンジンにプロペラが二重につき、それぞれが逆方向に回る仕組みがあった。


「各機器の点検はすませておきました」


 奥へといざないながら、太田正一が言う。

 淵田は窓を離れ、操縦席へと向かう、


 機内はまだ内装がなく、ただ気密のために白くて粘性のあるゴムのような塗料が内部に塗りこめられていた。床の中央にはなにかの機械を制御する箱型の装置がすえてあり、その両側には機銃手がすわるための椅子がある。この丸い窓も、もとは機銃手が外を確認するためのものだ。


 機銃座といえば、上下前後あわせ二十粍機銃が合計十門据えつけられる予定らしい。とはいえ、今は未装備だし、気密との関係でどこまで実装されるか怪しいものだ。


 副操縦士や航空士、通信士たちに迎えられ、操縦席に座る。


 ここから見える景色は、まだ倉庫の中だ。しかしその窓には、明るい空が見えていた。


 淵田は腕をまくった。


「さ、やろか」


 操縦かんや各種の計器は一式陸攻のものとほぼ同じ。なんども訓練を重ねてきたし、問題はない。淵田は開発担当者の二人をふりかえる。


「お前らはどうするんや? なんかあったら、班の全滅は困るやろ」


「いえ、お供します」

「あかんあかん」


「では、自分だけでも」

 太田正一が駄々をこねる。


 それを笑って追い出し、淵田はベルトを締めた。




 千歳海軍航空基地から北東に約四キロ。海軍第二千歳飛行場。


 広大な大自然の中、山側を削った敷地に、大型の建屋が四棟建てられている。そのうちのひとつの壁が引き戸のように開けられると、六輪のジープが超高高度爆撃機、富嶽の巨体をゆっくりと引き出してくる。


 おりしも空は快晴で、朝凪で風もない。


 北海道の明るい日差しが、銀色に光る機体をパアッと照らし出した。


 その姿は戦闘機や爆撃機といった無骨な機体のイメージとは程遠く、まるで未来の乗り物か、世界を旅する旅客機のように見えた。特に機首は先端が細くとがり、流線形にちかい。


 滑走路の端に引き出された富嶽は、しばらく各部の点検に時間を費やす。


 操縦席では淵田と副操縦士、そして無線士が二名と、航空士が二名、合計六名がそれぞれの席につき、計器を読み上げていく。


「高度計調整よし」

「計器……よし。ランプよし。燃料よし」

「……操縦かん、よし」


 操縦かんについている投下スイッチを軽く撫でる。誤った投下を防ぐ割ピンもちゃんと入っている。とはいえ、まだ爆弾はない。


「準備……よし」


 管制からの無線が淵田のイヤーレシーバーに入る。


『試験飛行はじめ』


「コンタクト。内燃機関始動!」


 四発八枚のプロペラがキュンキュンと音を立てて始動し、三枚ばねが反対方向へと回りはじめる。すぐに爆音がして、回転数があがる。大きな音が鳴り、機体ががたがたと震える。


「内燃機関よし……噴進機関始動」


 淵田はスイッチを入れる。


 どん、という衝撃があり、しばらくしてごおおっという音が鳴る。それがキーンと激しく甲高い音になっていく。


 ぎしぎし、と機体が前に傾いて揺れる。

 ブレーキはむろん踏み込んでいる。


「内燃機関圧力計および噴進機関温度よし。これより離陸する」


『……富嶽、無事を祈る』


「よっしゃ、行くで」


 ブレーキを外し、操縦かんを引いていく、フラップはすでに倒しある。


 大丈夫だ。このまま速度さえ出れば、飛行機は飛ぶようにできているのだ。


 淵田は強烈な加速感を感じる。いままでも、ここまでは何度もやってきた。今日は初めて空を飛ぶ。飛ぶのは不思議と怖くはないが、飛べずにオーバーランするのは怖かった。なぜなら、この延伸した千歳第二飛行場の滑走路も、二千五百メートルしかなく、その先は森林と湖に連なる荒れ野だ。


 飛ばずに突っ込むのはごめんだ。祈るような気分でスロットルを上げていく。


 どんどん速力が上がる。これ以上すぎたら、もう飛ぶしかないという境界を通過する。


 バスン!


 右の翼に衝撃を感じる。


 なんだ?

 なにがあった?


「おい、右のエンジン見てくれ」


 淵田の声に航空士があわてて確認に走る。


「右噴進機関停止ッ」

「あ、あほんだら!」


 誰ともなしに罵り、手元にあるスロットルを全部全開に押しこむ。そうしておいて、素早く右のジェットエンジンだけを落とし、再始動する。


 その間にも滑走路の果てはぐんぐん近づいてくる。


 速度はまだ足らない。勘でわかる。この機体を持ち上げるには、まだ推進力が足らない。再始動はまだか。ブレーキか?


(こなくそ!)


 操縦かんをもちあげる。だがだめだ。


 噴進機関のスロットルを引き下げ、もう一度全開にする。


 がくがくと機体が揺れ、森林が迫ってくる。


 ……ドドン!


 爆発音がしてとつぜん右のジェットエンジンが息を吹き返した。


 キーンという音がすると、ぐいっと後ろに重力がかかって身体が引っ張られる。


(おおっ!)


 機首が持ち上がる。


 操縦かんをにぎり締める。まるで自分がその力で機体を持ち上げているような気がする。


「トラトラトラあああああああ!」


 富嶽が大地を蹴った。


 下からのごつごつした衝撃がふっと消えた。


ついに富嶽が試運転をはじめました。ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] (*゜∀゜)=3つ★★★★★
[良い点] 追浜で富嶽は無謀ですよ。雷電でもオーバーランします。 山と海に囲まれてるので機密を守るには最適でしたが、 戦後、進駐した米軍も日産に譲った程です。 横空なら羽切松雄氏著作の大空の決戦がお勧…
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