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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第六章 原子爆弾編
242/309

生かしてはおけない敵

●9 生かしてはおけない敵

 

 三号爆弾でひるんだ敵編隊に対して、岩本は一気に勝負をかけていった。


 疾風の馬力を活かして大きく旋回し、螺旋のように高度を変えながら、獲物を見つけてはその同心円の中心へ、横転や宙返りをして一撃を加えにいく。


 その波状攻撃で、双発三胴の編隊は、あっと言う間に三機が墜とされた。


 その間にも、岩本の脳裏にはずっとあの男のことがある。


 帝国海軍の先任旗に似た旭日旗を二十ほども貼りつけ、こちらを向いて笑った男。あの大きな機体で、軽やかにバンクして俺の二十粍機銃を躱しやがった男。


 そう、あの撃墜マークの男だ。

(ヤツはどこにいった……?)


 三号爆弾のとき、岩本の目の隅には、確かにその機体が、猛スピードで空域を離脱したのが見えた。それも岩本が降下するのとは反対に、上昇方向へだ。だとすると、ヤツはまだ、いる。


 全速力で螺旋上昇しながら敵を探す。機体は三十度ほどもバンクしたままだ。


 さらに大きく八の字を描いて、空戦の全体を観察する。


 するとそいつは、いた。


 高度五千のあたりで、二機の疾風と格闘していたのだ。


 岩本は状況を観察する。しっかり見て、作戦をたてる。そしてどんな時も後方の確認を怠らない。それが若干二十六歳になったばかりの、岩本流だ。


 撃墜マークは、二機の日本機を強烈な速度で振り切っては態勢を立て直し、降下しながら逆襲に転じるのが常套のようだった。


(ふーむ、やはり、やつは典型的な一撃離脱屋、か)


 だが、友軍機も負けないだけの馬力がある。追いかけては追いつき、もう少しというところまで追いつめている。


 攻守を転じての連携戦闘なので、岩本が観察するかぎり、友軍機が有利に見えた。


(このぶんだと、俺の出番はないかもな)


 そう思った瞬間、岩本は信じられないものを見た。


 例の撃墜マークは追いかけてくる二機の疾風を後方に、急に速度を落としたかと思うと、失速しそうになりながらほとんど水平方向にくるりと機体を回して、銃弾を発射したのだ。


 ドガガガガガガガガガガ!

 バシバシバシ!


「おいッ!」


 無線で声をかける間もなく、一機の友軍機が撃墜され、黒煙を吐きながら、きりもみのように落下していく。


(な、なんだ今の動きは……?)


 他にもたくさんの双発三胴機がいるが、あんな動きをするものはどこにもいない。いや、この俺だって、無理だ。いったい、どうやったら、水平に回転なんてできるのか。


 落ちる友軍機を目で追いながら、岩本はスロットルレバーを押しこむ。そうしながら、必死で考える。命がけの戦闘のとき、岩本は自分の頭が地上にいるときの何倍も速く回転する気がしていた。


(……そ、そうか!)


 さっき、ヤツの動きを見るうちに、双発のエンジンが同じ速度で回転していないような気がしたことを思い出す。右のエンジンが高速に回転しているのに、その瞬間、左のエンジンはふっと緩んではなかったか。


(左右のトルクを使い分けてる!……それで水平に移動したり回転するように見えたわけか!)


 岩本は唇を噛む。


 わかってしまえばなるほど、と思うしかないが、だとしても、そんな奴にどうやって対抗すればいいのか。


 いや、それよりも、眼前の友軍機は一対一になって俄然不利な状況だ。追っては躱され、目を離したすきにまた狙われる。このままでは、やられてしまうだろう。


 よし、と岩本は無線を入れる。


「岩本だ。そいつは俺に任せろ」


 エンジンを全開にし、もつれあう二機の間に割って入り、機銃を撃つ。


 ガガガガガガ、ガガガガ!


 横転し、派手な動きで注意を引くと、そいつはすぐ岩本に気がついたようだ。空域を離脱し、上空へと逃げ始める。


 当然のように追う。


(誘いか、それとも本当に逃げているのか)


 一目散に上空へ駆けていく。

 こっちも全速で追う。


 ごくわずかに、敵の速度が速い。この疾風に勝つとは、さすがは双発機だけのことはある。ただし、敵はこっちの射線をさけるため、時折はコースを変えなくてはならない。それがタイムロスになって、そのたびに追いつきそうになる。


(高度計は?)


 五千六百!……いや、七百……。


 そろそろ出力が落ちてくるころだ。どこまで登るつもりだ?


 六千……二百……。


 そうか、さっきと同じように反転反撃するつもりだな……?


 追いながら、神経を研ぎ澄ませる。ヤツはもうすぐ片エンジンを止めて急速旋回するだろう。だがその直前は、一瞬機首をさげて水平になるはずだ。


 さらに追う。コースを変え、接近するがまた上昇し……。


 ふっと機首を下げた。今だ!


 岩本は二十粍と十二・七粍を同時に発射する。


 ドガガガガガガガ!


 上昇姿勢のまま、二度横転する。


 ガガガガガガガガガガガ!


 下がった機首の後方、翼の中央に狙いをしぼる。


 ガガガガガガガガガガガガ、カチン!


 ついに二十粍の弾が尽きた。やったのか……?


 相手の機首が下がりきると、今度はこっちが危ない。ぎりぎりのところで、宙返りをして相手と入れ違う。


 宙返りを終え、相手を見た時、岩本の目にあの双発三胴機が胴の腹を下に向けたまま、くるくる横に回転しながら墜ちているのが見えた。


(逃がさんッ)


 岩本は追う。横に回転しているだけだから、風防は常に上を向いている。プロペラは片方しか回っていない。岩本はぐんぐん近づいていく。


 高度三千に入ったとこで、はっきりと操縦席が見えた。


(……!)


 こっちを見てやがる。あいつはまだ無事なんだ。


 その男は風防を開き、上を睨んでいた。


 まだ横回転はとまらない。しかしそれほど速い回転じゃない。


(あ、脱出する気だな?)


 操縦席のヘリに手をやり、身体を乗り出そうとしている。


 むき出しの生身に機銃を撃ちこむためらいが一瞬よぎる。


 ……だが、こいつだけは生かしておけない。


 生かせば、この先何人もの日本人が殺されてしまう気がする。


 その証拠に、戦友が墜とされたのは、ついさっきだ。


 もうこれ以上はぶつかってしまう……。


 岩本は十二・七粍に変えて機銃を放つ。


 バババババババババババ!


 瞬間の映像が目に焼き付く。


 三胴機の横を通り過ぎる瞬間、岩本は誰かの叫び声を聞いた気がした……。


決着。アメリカの撃墜王リチャード・アイラ・ボング氏も、この世界線ではここまでです。ご冥福をお祈りします。 ご感想、ご指摘にはいつも励まされております。ブックマークをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] (*`・ω・)ゞつ★★★★★
[良い点] 永遠の0を、思い出した [一言] 楽しく読ませていただいてます!
2020/10/05 22:24 退会済み
管理
[良い点] ラバウル烈風空戦記に双戦と言う架空機が出ますが、主人公がP40の凄腕に追い詰められスロットルの連結ラッチを外し、自転するシーンありました。 アメちゃんは子供時代から農機具や自動車バイクに乗…
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