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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
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イースタン島上陸戦

●24 イースタン島上陸戦


 おれの命を受け、小野通信参謀と坂上機関参謀が駆逐艦『不知火』に内火艇ランチで向かったころ、イースタン島では、上陸部隊とアメリカ海兵隊の間で、激しい戦闘がおこなわれようとしていた。


 ミッドウェー島はもともとアメリカと中国を結ぶ民間航空機の給油地だ。

 だから今もその名残で、給油タンクや修理工場などが多く設置されていた。


 この地の重要性を認識してアメリカが行った1941年8月に行った基地化工事は、現在施設の点ではほぼ完成している。


 たが、その設計思想は、水深のあるサンド島だけに大きく張りだした埠頭を設け、その他はある程度両島に基地、滑走路、格納庫を効率よく配置するものだった。


 ふたつの島の往来も、以前は点在する小島と、細いサンゴ礁でつながっていたが、防衛の観点からわざわざ爆破して通れなくしてしまった。たぶんサンド島の接岸桟橋に降り立つ敵を想定していたんだろう。


 ところがその逆を突いて、おれたちがイースタン島の東部サンゴ礁から上陸したもんだから、海兵隊が大勢いるサンド島からは、応援が駆けつけられない妙な状況になってしまった。


 もっとも、足がつかないのはわずか二百メートルほどの浅瀬なので、泳いで渡るには差し支えない。しかし重い武器が携行できないのは、実に都合がよかった。


 とはいえ、イースタン島にも敵兵はいる。彼らはアメリカ海兵隊の誇りをかけて、今必死の必死の抵抗を見せているのだ……。




 大石主席参謀は、駆逐艦『谷風』に乗船して上陸部隊の指揮を執っていた。


 双眼鏡でわずか一キロほどしかない島の全景を眺めている。広い滑走路と蝟集いしゅうした施設などの影に身を潜めて、日本兵をうかがう敵の戦闘員が見える。


「順調じゃのう」

 そばに控える杉浦嘉十大佐に話しかける。


「ええ、この分だと昼めし前で終わりでしょう」


 上陸が開始されてから約一時間。イースタン島の守備兵たちは、善戦むなしく、滑走路を右往左往するか、建物に逃げ込むしかなく、じりじりと東方へと追い詰められて、一部はとうとう浅い海を泳いでサンド島へと渡りはじめていた。


「敵さんも無理ないわい。何時間も艦砲射撃されて意気消沈、おまけに味方の飛行機もぽんぽん落とされよる。それを目の当たりにしてからの敵上陸じゃからの」


「まったく、ああはなりたくありませんな。わが皇軍には到底及ばぬ腰抜けどもです」

「おい、油断はいかんぞ!」

 大石は双眼鏡を外してぎろりと睨む。


 たちまち、杉浦は恐縮してかしこまった。

「いや、けして油断では……」


 大石は、南雲の人柄を思いだし、ふっと肩の力を抜いた。

 いかんいかん、こういうのとはちいっと違うた……。


「いやあ、こりゃ南雲司令長官の受け売りじゃがの!」

 わざと明るい声を張りあげる。

「はあ……南雲長官、ですか」


「一方的にこっちが正義だと思いこむと、どうしても上からの傲慢な目線になって、油断してしまう。こっちにヤマト魂があるなら、アメリカにもヤンキー魂がある。南雲長官がそう言っとったわい!」


「ほう。あの南雲長官が……」

 大石は、とまどう杉浦を見てにやりと笑った。


「おい、あのオヤジさんとんでもないクセ者じゃぞ。おれたち参謀も、ここへきてようやく悟ったもんじゃ。もしかすると山本司令長官なみの大軍師かもしれん」

「ほお、それほどとは……」


「うむ。男子三日逢わざれば、ってことわざがあるじゃろ。おっと、油断は禁物禁物……」

 大石はふたたび双眼鏡を覗きこんだ。




 右辺遠くの海峡を、つぎつぎにアメリカ兵が渡っている。

 このままなら、確かに昼前に終わりそうじゃが……。

 双眼鏡の視野を手前へと戻す。


 こちらではわが陸戦隊が、しっかり統率された一斉射撃や軽機銃を行っている。にわかづくりの大隊ながら十分なできばえだ。


 アメリカ兵が、ちりぢりに逃げだしてゆくのも当然じゃわい。


「じゃが、味方の銃撃で貯油塔に穴が開いても困るのう。各個射撃でようすを見させよう」

「はっ!」


下逹かだつせよ。各個射撃にて百米前進!」

「各個射撃にて百米前進を下達します!」


 今はこの駆逐艦の甲板が臨時の作戦司令室だった。


 ここからは有線の電話が、島の三方向から取り巻くように攻める三部隊長に通じていて、あとは前線に伝令が走る。


 杉浦大佐が黒くて巨大な電話機を耳にあてがう。


「杉浦だ。銃隊射撃指揮やめ!各個射撃にて百米前進」


 目で合図を送ると、あとの二台の電話を持つ通信兵が受話器を持ち上げ、挿話口に杉浦の命令を送る。


「銃隊射撃指揮やめ!各個射撃にて百米前進」

「銃隊射撃指揮やめ!各個射撃にて百米前進」


 滑走路を掃討し、物陰や建物の影で抵抗する敵を倒し、あるいは捕虜にしながら、陸戦隊はじりじりと前線を東へと進めていく。


「……このぶんじゃ、次で一気にカタがつくかもしれませんな」

 杉浦がつぶやくように言った。




 ところが、順調そうに見えた上陸戦が、とつぜん停滞しだしたのは、太陽が中天高く上ったころになってからだった。


 イースタン島の海兵隊たちが、点在する建物に隠れたり、とつぜんあらわれて反撃したりする、いわばゲリラ戦に出て、戦線が動かなくなったのだ。


 こうなると、いったんはサンド島に逃げ出した連中までもどってきたり、手榴弾や迫撃砲のやりとりもあったりして、戦いはますます長引いていく。


 豪胆な人柄に似あわず、繊細な指揮を器用にこなしながらも、大石主席参謀は、ボヤかずにはいられなかった。


「うーむ、これじゃ撃滅の方が楽じゃわい……」


「残念ですが、地の利ってやつですな。敵が建物を利用したり回りこんだりして反抗するため、簡単に前進ができなくなりました」


「無理すれば味方にも犠牲が出る。それに、長官は無理を嫌われる」


「どうしますか? いっそ突撃して撃滅しますか?!」


 さてさて、根っから海軍のワシにゃあ荷が重いのう……。


 停滞する戦況に焦れる杉浦の顔を見ながら、大石はうなるほかなかった。

 南雲長官に指示を仰いでみるか……。




「なんだとっ?!」

 坂上機関参謀が大声をあげ、必死の形相で、ひとりのアメリカ人の胸倉をつかんでいる。


 ここはミッドウェー南方に待機する、南雲艦隊。


 駆逐艦『不知火』の甲板には、オパナから奪取した移動式レーダー車両がロープにつながれており、計器が片側の壁にぎっしり埋め込まれたその狭い車内で、小野と坂上、そして二人のアメリカ人が作業をしていた。


「嘘だっ!」


 顔を真っ赤にしている坂上につられて、銀縁メガネのアメリカ人も肩を怒らせた。


「ウソジャナイヨ! コノ、ゾウフクカイロノハツメイデ、ワガクニノレーダーセイノウハ、ヒヤクテキニタカマルノダ!」


 丸眼鏡をかけた痩せた通訳が、二人の間で必死に通訳している。


 坂上と若いアメリカ人は、まるで相手の言語が他国語であることを介していない様子で、口角泡を飛ばし言いあいはじめた。


「しかし、そんなもの発明されたとは聞いてないっ!」

「間違いない。発明したんだ」

「誰が!」

「私が!」

「なに?!」


 坂上はつかんでいた相手の胸倉を放す。


「アンタが発明しただと?」


 ふう、とその三十歳くらいの、若いアメリカ人が衣服を直した。

 にっこり笑うと、丸い鼻が人懐こい。


「おほん、私の名前はウィリアム・ショックレー。ベル研究所の研究員だ。今はニュージャージー州ホイッパニーにある研究所でレーダーの研究をしている。オパナには、あたらしい回路の実施テストのためにやってきていた」


 坂上がアメリカの兵士だとばかり思っていたのは、どうやらアメリカのレーダー研究者だったらしい。


「え、え、え」

 坂上の目にみるみる畏敬の念が浮かぶ。


「本当だよ。その人はお偉い先生なんだってさ」

 肩をすくめたのは、そばにいる大柄の黒人兵だ。


「いいから、ちゃんと操作しろよ」

 小野通信参謀が、坂上らの言いあいを、気にする風もなく顔を寄せて言った。

「そっちはほっとけドリス」


「オーマイガ! おまえら自分たちの仲間の船を見失ったくせに、偉そうに言うんじゃないよ」


「そりゃすまんな。ここからそんなに離れてないはずなんだが、どうもわからなくてね。通信装置の故障で味方の軍艦が一隻、行方不明なんだよ。協力してくれよ」


 南雲に教えられた通りの嘘を言ったまでだが、ドリスはすっかり信じているようだ。


「で、どうするんだっけ?電波の方向を動かしながら、あとはこのテレビを見ていればいいのか?」


「まあそうだけどね。あの先生の持ってきたオシロって機械に入れ替えたから、すごくわかりやすくなった。これがあと一日早ければ、おまえらの真珠湾攻撃だって、防げたはずだぜ……」


 小野はさすがにカチンと来たようすで、

「生意気言うなよドリス」

 と、片方の眉をあげた。


「ミラーさんと呼べ小野。おれたちには敬意をはらえよ」

「はは。キサマ、捕虜のクセに偉そうだな……」


「ふん!その捕虜にものをたのんでるのはどこのどいつだ? ちゃんと言わないと協力しないぜ? それと今日の晩飯はステーキだ。約束しろ」


「ちっ!……ふう、わかったよ。この艦の艦長に言っておくから、早くやってくれドリス・ミラーさん」

「へっへっへ。よしきた」


 小野とドリスが軽く握手するのを見て、ウィリアムという研究者は口元を緩めた。丸眼鏡の通訳を見て、こっちを通訳しろ、と首をふる。


「キミは日本の技術者なのか? 日本の兵隊さん」

「さ、坂上機関参謀です」


「ふむ……日本人は器用だが独創性と新規性が足りない。新しいものにも抵抗がありすぎる。たとえば私が発明したこの電子増倍管は、二次電子放出によって入射した電荷を増加させる。つまり弱い反射電波を飛躍的に高めるんだが、こういう発想は頭が柔らかくなくてはできない」


 ウィリアムがそばの機械をかぱっと開けて、ガラスの電極のようなものをとりだした。

「わかるかね?」


「おお!わかります、ウィリアム先生」

「よろしい。謙虚さは美徳だ」

 ウィリアムは満足そうにうなずいた。


「うーむ、これを木村にも見せてやりたい」


 電極はいかにも繊細な作りで、ひとめで高い技術が詰め込まれているのがわかる。宝石を見るような目で、坂上はその真空管を見つめていた。


「キムラとは?」


「日本にも、優秀な若いやつはいますよ。あいつらなら」

「ほう……」


 木村は電気回路についても鋭い質問をし、新しい技術もどんどん吸収する若手兵士のひとりだった。彼らなら、次の時代を担ってくれるかもしれない……。

お読みいただきありがとうございます!

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